FIRE KIDSに1970年代のデイトジャストをオーバーホールに出してみた
以前「相棒は同い年。生まれ年の時計を探せ!」で紹介した、筆者と同い年のロレックス『デイトジャスト』。FIRE KIDSに持ち込みたいと話していた通り、持ち込んでみた。
腕時計のオーバーホールでは何が起こるのか? それを紹介したい。
調子はよかった
筆者のロレックス『デイトジャスト』は、1977年生まれのモデル、と言われて「自分と同い年だから」と買ったものだ。海外で購入していて、買ったときに「しっかり手入れをしたから2年間は大丈夫」と言われた。どう考えてもその2年はすでに過ぎている。
ただ、いつ買ったのかを覚えていなかった。今回、あらためて購入証明書を見つけて、2017年に購入したものだとわかった。つまり自分もこの時計も40歳の時に買ったものだった。現在、45歳。
いまも使っている分には調子はいいのだけれど「そろそろオーバーホールしないと不安だなぁ」という気持ちもあって、ここ数年、ほとんど使っていなかった。
先だって野村店長に「ロレックスは使った方がいいですよ」と背中を押されたこともあって、その気になり、だったら使う前に、この時計がどんなものなのかをFIRE KIDSで確認してもらい、しっかりオーバーホールして、安心できる状態でまた使いたい、とおもった。
というわけで、FIRE KIDSに持っていった。お店について、鈴木さんにあらためてワケを話すと、鈴木さんは慣れた手付きで「タイムグラファー」に時計を置いた。これは機械式時計が発する音を拾って、その音から精度を計測する機械だ。
果たしてその成績は……
画像でわかりにくいかもしれないけれど、文字盤を上に向けて日差13秒程度。
立てた状態だと日差4秒程度に!
これなら現役選手ではないか! あらためて、自分の時計の素性が良さそうなのに驚く。
「調子は良さそうですね。この精度なら内部の機械が歪んでいたり、ローターがケースにぶつかっている、ということもなさそうです」
さらに野村店長が
「ケースの状態も良好です。左腕に時計をしていると、ケースの右側に傷が付きやすい。これを磨いて消していると、だんだん右側が痩せて、ラグを見た時に左右で太さが変わるんです。でもこの時計は左右の太さがほとんど変わらないですね」
その後、ロレックス専用のオープナーで裏蓋を外す。
「やっぱり、状態は良さそうですね。ちゃんとメンテナンスされてきている個体のようです。油は、乾き始めている、というところでしょうか。まだ残っています」
と野村店長。いっぽう鈴木さんは
「切替車がルビーコーティングされていて、時計の中に赤い色があるのが特徴的ですよね」
と内部の機械を説明してくれた。
「ロレックスは内部の機械の基本がいまでも変わっていないんです。それだけ、完成された機械なんですよね。年代によって、ハイビートになったとか、テンプのウケが片持ちから両持ちになったとか、ブラッシュアップは重ねていますが」
ちなみに、筆者のデイトジャストは型番がRef. 1601、内部の機械がCal. 1570ということが正式に確認された。このRef.のほうが 16014など、5桁になると、内部の機械(Cal.)がハイビートになる。4桁と5桁は、見た目はそっくりだけれど、よく見るとちょっとだけ違う。
「ハイビートのほうが風防が分厚いんですよ。それで、その分ベゼルの角度が急になっているんです。古いもののほうが風防の高さがやや低く、その分、テーパーが浅いんですよね。」
たまたま、お店にあった、16014と並べてみると、たしかに、わずかに違っていた。ただ、素人がこれを見分けるのは無理そうだ……
ちなみに4桁だと竜頭でデイトだけ早送りする機能がない。5桁にはそれがある。
裏蓋は情報の宝庫だった
「1978年かな?」
といきなり鈴木さんが衝撃発言。「え、1977年じゃないの?」
「あ、そうか!生まれ年の時計なんでしたっけ。まぁこれは完全に正確じゃなくて資料によっても異なります」
内部に記されたシリアルナンバーによると、どうもこの時計は、1977年である可能性が高いけれど、1978年の可能性もある、というもののようだった。
「裏蓋をみても、ローターが擦れた痕跡はほとんどないから、状態はやはり良さそうですね。これ、メーカーでもメンテナンスしているっぽいな……」
そんなこともわかるんですか?
「少なくとも3回はオーバーホールをしていますね。時計はメンテナンスをすると、職人さんが裏蓋にサインを入れるんですよ。時代や人によって、入れ方はまちまちで、けがくのが一般的ですね。マジックや、昔の職人さんは赤鉛筆で印をいれる場合もあります。メーカーの場合、メーカーにしかわからない文字列で番号が入っていて、これがカルテを照会する際の暗号になっているようです。この裏蓋にはそれらしいものがあります」
ちなみに、現在では番号とデータで管理されているために、メーカーはメンテナンスをしても印は入れないのだという。街の時計屋さんの場合は、入れる。そうしないと、わからなくなってしまうからだ。
「車検証のようなもの」と、鈴木さんが例えてくれた。
防水性も問題なさそう
どうやら、大きな問題もなさそうなこの時計。オーバーホール後に使っていくとなると、やはり気になるのが防水性能。デイトジャストもオイスターケースの時計だから、新品であれば高い防水性能を誇っている。しかしこれが、年月の経過であまり期待できない状態、となると、梅雨に夏、雨の日などにいちいち時計のことを心配しなくてはいけないので、普段使いから遠ざかってしまいそうだ。しかし、どうやらその心配もなさそうだった。
「ケースは問題ないですし、この数年前に交換したとおもわれるパッキンも十分機能していそうですね。このままでもそこまで心配はなさそうです。メンテナンスに出して、裏蓋と、リューズの2箇所にあるOリングを交換して、シリコンオイルで保湿、適正トルクで締めてあげれば、ほとんど心配いらないでしょう」
この後の精密検査で問題がなければ、普段使いしてゆけそうだ。
気になる料金は?
というわけで、正式にオーバーホールをお願いすることにした。連絡先を伝票に記載。現時点での見積もりでは、内部の清掃や注油などの基本のメンテナンス料金として3万5千円。プラス、消耗品の交換で1万円から2万円程度でしょうとのこと。このプラス料金の中には、ロレックスメンテナンスで絶対やっておいたほうがいいゼンマイ交換代5000円が含まれる。これをやらないと、使用中にゼンマイが切れて、思わぬダメージを内部の機械に与えてしまう可能性がある。
もしも、この見積もりを越えるような問題点が見つかった際には連絡をしてくれる、とのこと。そうでなければ、作業完了後に、連絡をもらえる。期間はおよそ2カ月ほど。ちょうど夏の、人間にとっても時計にとってももっとも過酷な時期をやり過ごすことができ、偶然とはいえグッドタイミングでのドック入りと言えそうだ。
万全の状態となって帰ってきてくれることを楽しみに待ちながら、今後、また進展があれば、ここで報告させていただきたい。
writer
鈴木 文彦
東京都出身。フランス パリ第四大学の博士課程にて、19世紀フランス文学を研究。翻訳家、ライターとしても活動し、帰国後は、編集のほか、食品のマーケティングにも携わる。2017年より、ワインと食のライフスタイル誌『WINE WHAT』を出版するLUFTメディアコミュニケーションの代表取締役。2021年に独立し、現在はビジネス系ライフスタイルメディア『JBpress autograph』の編集長を務める。趣味はワインとパソコンいじり。好きな時計はセイコー ブラックボーイこと『SKX007』。