【ファイアーキッズ・スペシャル座談会】いまアンティーク時計市場はどうなっている?①
A=アンティーク時計店・店長 B=マーケティング業・時計愛好家 C=投資家・時計コレクター D=時計ライター
近年、注目されはじめたアンティーク時計市場。コロナ禍、円安と厳しい状況が続く中、今年の時計市場はどうなるのか?仕事として、もしくは愛好家として、時計業界に深く関わる4名が集まり、23年はどうなるのかを忌憚なく話し合ってみた。4回の連載でお届けするのだが、第1回目は国産時計が話題となった。
右肩上がりが横ばいに
D:2022年のアンティーク業界はどんな感じだったのでしょうか。
A:私はお店に入りきりなので、全体の状況がわかりづらい状況なんですが、全体的には右肩上がりだったものが横ばいになりつつあるような感じですね、価格的なところが。で、流行が明確化していて、ロレックスに集中しているのかなっていう雰囲気がありますね。
D:円安の影響は大きいですか?
A:大きいですね。ディーラーも海外からの仕入れが厳しい状況が続いてたんですけど、この円安が追い討ちをかけるような形ですね。やっぱり、海外からの仕入れっていうのが非常に厳しい状況です。ぼくらもいま海外に行こうと思えない状況ですし、海外の方が値段が高い状況が続いてる感じですね。なので、国内のコレクターさんなどからの仕入れとか、国内市場からの仕入れに注力しているという感じです。そういうのもあって、うちは買取り、買い戻しの保証をつけてるのですが、そういったものが機能していますね。
D:その傾向は23年も続く感じですか?
A:このままいくと、この形が続くんじゃないかっていうことが見込まれますね。あとはコロナ禍で止まってたインバウンドですね。その需要が今後伸びてくるのかな、というところは感じますね。中国系の人たちが買ってたのが、最近は欧米の方が買いに来ているという話も出てきています。中国系の人たちはロレックスオンリーだったので、違う動きも出てくるんじゃなかというところもあります。グランドセイコーであるとか、国産品を狙ってるって話も上がってきてますね。
D:なるほどね。
A:先日もスウェーデンの方がグランドセイコーを買って帰りました。
ヨーロッパのグランドセイコー
D:グランドセイコーは欧米の方に人気なんですか?
A:そうですね。とくに北欧の方には人気が高いらしいです。僕らが思っている以上に、セイコーのブランド力は強いというのは感じますね。
D:以前はそうでもなかったようなんですが、最近は浸透してきたんですかね、海外で。
A:そうですね。グランドセイコーが開発された1960年代というのは、国内向けに売り出していた部分が強かったんですけど、現在はワールドワイドで、というところがあると思うんです。それで過去に日本でしか売ってなかったモデルっていうのを、いま外国人が狙ってきているという雰囲気はありますね。
C:グランドセイコーって、ブランドとして独立したのは最近ですよね。そのブランド化がアンティークウォッチにきているのかな、と。
A:それは確実にありますね。それまで『グランドセイコー』はセイコーのお店で販売してました。それがレクサスみたいな形で、グランドセイコーを別物としてつくったというのが大きいです。香港に行った時に、グランドセイコーのショップはヴァシュロン・コンスタンタンとか、超一流といわれるブランドと同じ並びにありました。そういう出店方法をとっているので、グランドセイコーのブランド力は格段に上がってきていると思います。
C:いまのグランドセイコーのブランド力が過去に波及していて「いいよね!」となっています。過去のものと別物なんですけどね。
D:別物ですね。パリのホテルリッツの1階にもグランドセイコーのブティックをオープンさせているんですよね、3年くらい前に。そういうのも大きいかもしれないですね、ヨーロッパの人たちには。
超高級メゾンと並ぶブランド力
C:海外の時計のYouTubeを観ていると「もっとも高級なベスト10」に入ってましたね。オーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ランゲ&ゾーネ、ブレゲが並ぶ中に。グランドセイコーも入るんだ、と思って。海外の認識は、我々が思っている以上ですね。
A:あとアメリカはセイコーのダイバーズですね。スゴく人気があります。日本国内ではつくっていない、セイコーダイバーズ向けのラバーベルトがアメリカ国内で売ってたりとか。そういったのもあったりするので、セイコーファンはアメリカにも多いですね。
C:逆輸入されてくるんじゃないですかね?
A:そうですね。セイコーダイバーズのラバーベルトを逆輸入してオークションサイトとかで売っているんです。アメリカにはカスタム文化があるので、回転ベゼルの部分だけ別注でつくったりしている。そういった遊びもやってますね、アメリカでは。
D:なるほど、面白いですね。アンティーク市場でいうとグランドセイコーはそこまで高くないですよね?
A:モデルによってですね。年式で特徴があったりするんですけど、50万円から200万円の間という感じです。あと『和光』で別注でやってたプラチナケースのモデルとかっていうのが出てくると、オークションプライス。500万といえば500万、1000万といえば1000万みたいな感じになりますね。
D:確かに、そういうのはあんまりつくってないですからね。
A:そうですね。
C:現代のグランドセイコーというブランドが底上げされたことで、過去のグランドセイコーのブランドも底上げされるので、価格が上がるんじゃないですかね。投資家目線で海外のグランドセイコーの扱いを見ていると、来るんじゃない?と、思いますね。
高額プライスがつくことも
A:天文台クロノメーターという、スイスの天文台に検査を出して合格したものを売り出したことがあって、それについては500万、1000万っていうプライスがついたりすることもありますね。
C:既にそうですか。海外プライス、折り込み始めてるんですか?
A:そうですね。
C:パテック フィリップとかヴァシュロン・コンスタンタンのアンティークでも、なかなかその価格まではいかない。
A:天文台クロノメーターは70何本かな?それしか売り出していないので、100本以下となると言い値になってきますね。それは国内に置いときたいですね。
D:天文台クロノメーターで、いい状態で残っているものは何本くらいあるんですか?
A:どのくらいあるんですかね。昔、クォーツ全盛の頃は、評価がゼロに近くなっていて、僕がこの業界に入って実際に見たのは3本だけなんですよ。売る気がないコレクターさんのもの、仕入れで1本、そして、最近ディーラーさんに見せてもらったもの。それくらい希少な感じです。
C:いま円安のタイミングで、海外に流出しちゃったらインフレで値がつり上がっていって、もう下がらない。買い戻そうと思ったら、流出した時の2倍払えって感じになりますよね、為替とかインフレとかを加味すると。本当に戻せなくなると思います。
A:それはあり得ますね。
C:国産が来るっていうと値が切り上がってくると思うので、グローバルプライスで。今日が一番安いってことになりそうですね。
A:そうですね、可能性としては大いにあると思います。
レアモデルは即売れる
D:『44GS』とかはどうですか?
A:その辺もレアモデルなので、コンディションによって30万円台から60、70万円くらいまでの間ですかね。
D:いまのグランドセイコーの原型って言われてるので。
A:そうですね。この辺はなかなかコンディションがいいのは出てこないんですけど、出てくるとそれなりの値段がつきますね。うちで1本売ったのが50万円くらいだったと思うんですけど。リピーターのお客さんに「44入りましたよ」って言ったら即買いでした。
D:他に何かあります?来そうな時計は。
A:グランドセイコーは全般的に底上げされていくんだろうなという部分がひとつと、いま『キングセイコー』が、それこそ10万円アンダーで買えてたものが、いろんな人が注目をしていることで、買いはじめているっていう雰囲気があります。
C:そうですか!いま10万円前後で買えるんですね。
A:『キングセイコー』も後期の方のモデルは10万円アンダーなんです。
C:買い占めたくなるなぁ。『キングセイコー』は穴場なんですね。
A:そこから入ってくる人はたくさんいるので。10万円アンダーで買ったものが徐々に値上がりしていくって雰囲気があると、もう1本買ってみようかなという気持ちになっていくっていうのは、絶対的にありしますね。ただ『キングセイコー』はかなりの数を売っているので、希少っていうほどではないんですね。
C:希少性は低いんですね。
A:そうですね、そこそこ売れていると思いますから。なので、ヤフオクとかで張っていれば、10本買おうと思えば10本買えるという部分はありますね。
D:希少性いうとさっき言ってたグランドセイコーとかがいいんですね?
A:『グランドセイコー1st』『44GS』、その辺が希少性が高いですね。あと、セイコーの300mダイバー。これは現行『プロスペック』のベースになっているので、その辺はどこでも100万円台というような形になっています。次に来るのが、上村ダイバーと呼ばれている150mダイバーですかね。1stモデルは寅さんがつけてたこともあって「寅さん」なんて呼ばれているんです。昔は5万、10万で売られていたものなんですけど、おそらくは40~50万円くらいまで上がってきたという感じになっています。