ロレックスの魅力はオイスターケースにあり
ファイアーキッズの店長、野村 一成さんは言う。
「ロレックスの凄さはオイスターケースなんです」
果たして、そのココロは。
気密性の高さと頑丈さ
イギリスのオイスター社が開発し、1926年にオイスター社を傘下に収めたロレックスが完成させた世界初の腕時計用防水ケース、それがオイスターケースだ。
オイスタースチールとよばれるスチール製のほか、ゴールド製、プラチナ製があり、現在に至るまで、ロレックスのほとんどの時計が、このオイスターケースに身を包んでいる。デイトジャストも、デイトナも、サブマリーナもエクスプローラーⅠも、GMTマスターも、ケースはオイスターだ。
金属ケースに、裏蓋とリューズ、それにベゼルをねじ込むことで、牡蠣(オイスター)の殻のように高い気密性を発揮する、という、タネを聞いてしまえばシンプルなこの構造。しかし、登場当初からしばらくは、他に類を見ないほど、エポックメイキングな発明だった。防水性能の話でも触れたけれど、腕時計の防水性能が上がったのは1960年代。実はこのころになってやっと、防水パッキンが時計で使いこなせるようになったのだ。それまでの時計では、防水性が低く、使うのに気を使う必要があるものが少なくない。
一方、オイスターケースを採用したロレックスの時計には、水が入りにくく、ということはホコリやチリも入り込みにくい。つまり、ロレックスは、水や汗、埃の多い環境でもはずす必要のないタフな時計だった。ドレスではなく、実用の時計。これで腕時計は、男の仕事道具にもなったのだ。
とりわけ、リューズがねじ込み式、というところが発想的に凄かった。現在はこのリューズも進歩していて、2重の気密構造をもつリューズには、ロレックスのエンブレムとともにドットひとつ、もしくはドットふたつ、あるいはラインがリューズにあり、気密構造3重のトリプロックの場合はドットが3つになる。
ちなみに、ロレックスの自慢の機構に「パーペチュアル」つまり自動巻き、というのがあるけれど、これも、わざわざねじ込み式のリューズをゆるめて、ゼンマイを巻き、またリューズをねじ込む、というのが、せっかくの気密性を度々ユーザーが解除し、リューズを締め忘れてしまえば、せっかくの性能が発揮されない、というリスクの回避と、そもそも、この作業が面倒だからうまれた、という。
アンティーク時計にもふさわしい
このように頑丈なケースに守られている、ということは、水分によって内部の機械に腐食やサビが生じたり、時計内部にホコリが入り込んで、これが機械にダメージを与えたりすることも少ない、ということを意味している。
そもそも丈夫な ロレックスのムーブメントは、それに合わせたこのケースに守られることで、耐衝撃性能も上がっている。
その上、ロレックスは大手で時計を大量に造っている。
つまり、アンティークウォッチとしても、数があり、かつ、そのそれぞれが状態のよいまま残っている可能性が高い、というのも魅力なのだ。
基本形は同じまま、時代によって、さまざまなモデルがあり、また同一モデル内でも、普及品という位置づけのデイトジャストなどは、1945年の登場以来、サイズ違いや珍しい文字盤を採用したものなど、個性的なものも少なくない。それらもきちっと現代まで残されている、というところも、オイスターケースの功績だ。
誰にでも似合う
「試しにつけてみてください。鏡がここにあります。どうですか? カッコいいでしょう? お似合いですよ。誰がつけてもカッコいいんです」
というのは野村店長の定番のセールストーク。
とはいえ、これを言われて悪い気持ちにはならないだろう。オイスターケースの魅力の一つが、この、懐の深さだ。
Tシャツでもスーツでも、フォーマルな場所でもカジュアルな場面でも、 なぜか似合う。いつでもデイトナをしていたポール・ニューマンなどは良い例で、パッと見てそれとわかりながら、シチュエーションを選ばない。高い機能性だけでなく、アイコンとしての役割もはたしてくれるのがオイスターケースなのだ。
ロレックスの凄さは、オイスターケースにあり。
writer
鈴木 文彦
東京都出身。フランス パリ第四大学の博士課程にて、19世紀フランス文学を研究。翻訳家、ライターとしても活動し、帰国後は、編集のほか、食品のマーケティングにも携わる。2017年より、ワインと食のライフスタイル誌『WINE WHAT』を出版するLUFTメディアコミュニケーションの代表取締役。2021年に独立し、現在はビジネス系ライフスタイルメディア『JBpress autograph』の編集長を務める。趣味はワインとパソコンいじり。好きな時計はセイコー ブラックボーイこと『SKX007』。