ロンジンの黄金期を輝かせる“3本のヴィンテージ時計”を詳しく解説
出演:野村店長×藤井(販売スタッフ)
1930年〜1960年代が全盛! パイロットに愛されたロンジンの歴史
視聴者からのリクエストにお応えし、今回はロンジンを取り上げる。オーギュスト・アガシ氏が1832年にスイスで創業したブランドで、ロンジンはフランス語で「草原」や「草むら」の意味があるという。現在は世界最大の時計製造グループであるスウォッチ・グループの傘下に入っている。
スウォッチ・グループにはグレード分けが存在し、トップにはブレゲやブランパン、オメガがある。その下にロンジンが位置しているが、野村店長は次のように話す。
「昔はそうじゃなかった。だからロンジンの良いヴィンテージはびっくりするような高値が付いている。アンティーク時計ファンのなかには確実に“ロンジンファン”がいて、初期のクロノグラフやパイロットウォッチは断トツで人気があるブランドだよね」(野村店長)
1960年代ぐらいまではロンジンが時計業界を引っ張っていたという。セイコーよりも先に10振動のモデルを発表するなど、業界を先駆けているブランドだった。しかし、クォーツの登場による市場の変化に対応しきれなくなり、少し評価が下がってしまったようだ。黄金期は1930年〜1960年代。野村店長は「その頃のロンジンは抜群でしたよね」と評価する。
ロンジンの歴史を語るうえで欠かせないのが「ウィームス」と「リンドバーグ」の両名だ。ウィームスはアメリカ軍の大佐。パイロット用の燃料計算などに使えるよう、回転ベゼルを付けて航法を生み出した人である。そして、初の大西洋単独無着陸飛行に成功したリンドバーグはロンジンの時計を愛用していた。
「パイロットにはロンジン!」(野村店長)
「だから(ロゴに)翼が生えているんですか?」(藤井さん)
「良いところに気づいたね」(野村店長)
翼と砂時計があしらわれたロゴは、ロンジンがパイロットに愛されてきた証である。それでは、ロンジンの黄金期に製造された注目のヴィンテージ3本を紹介しよう。
楔型のインデックスが特徴的な初期の『コンクエスト』
1本目は、野村店長が「良い顔をしているよね」と語る『コンクエスト』(1956年〜1958年製 18KYG Cal.19AS)を紹介する。『コンクエスト』は日付ありのものが多いが、これは日付なしの仕様。オメガの『コンステレーション』と同時期に出たもので、全回転ローターを採用しているため厚みがある。着けてみるとインター(IWC)の『インヂュニア』くらい分厚さを感じ、存在感があるようだ。
「『コンステレーション』と同じ年代とおしゃっていましたけれど、やはり似た雰囲気がありますね」(藤井さん)
「『コンステレーション』の方が1950年代前半でちょっと遅れている感じなんですけれど、ロンジンは自動巻き化が遅かったのよ。機械を見るとインター(IWC)の『ペラトン』みたいに、かぎ爪のようなもので巻き上げを抑える構造。これはこれで凝った作りなんですよね」(野村店長)
オメガの『コンステレーション』が成功を収めたため、それに対抗するようにメダリオンや文字盤のデザインなどは『コンステレーション』を意識して製造されているのでは?と分析する野村店長。ツートンや楔(くさび)のインデックスなども影響を受けていることをうかがわせる。
「ジャガールクルトのような厚みを抑えるメーカーとは違って、厚みはしっかりあるけれど巻き上げもしっかりしている機械。各社でスタンスが違うと思うけれど、機械を見るとやはり作りが良いのよ」(野村店長)
続いて、裏蓋の特徴を見ていく。
「裏蓋の厚みは『インヂュニア』っぽい感じはしますね。そして、すごいですよね、鮮やかな青色!」(藤井さん)
ステンレスケースはグリーンのエナメルだが、この金無垢の『コンクエスト』は青いエナメルを採用している。ずっと付けているとエナメルが剥がれてしまうが、紹介している『コンクエスト』はしっかりと残っている方だという。星のメダリオンが施されているところにも『コンステレーション』に負けないぞ!という意気込みが感じられるデザインだ。
「クロノメーターとかそういった時計は航海に使うイメージがあったので、『コンクエスト』は防水も謳っている」(野村店長)
どうやら野村店長が微妙に感じている部分があるようだ……。それは針の長さ。少々短めにできているところがあまり好きではないという。しかし、秒針は長めで好みの範疇だといい、実は『コンクエスト』を持っていると話す。
「実はこれ持っているんだよね、ステンレスだけれど『コンクエスト』の初期型。格好良いんだな。存在感がすごいし」(野村店長)
次は中を見ていこう。野村店長曰く機械はインター(IWC)を思わせるようだ。
「わりと無骨な感じというか、ガッチリ作ってあるイメージはありますね」(藤井さん)
「衝撃から守る意味もあると思いますし、ローターが蓋に当たらないようにしてあるんだよね」(野村店長)
キャップも良い意味で無骨な印象に仕上がっており、地板にはペルラージュ(主にムーブメントの地板や裏蓋などに施される真珠模様の装飾)が施されている。リューズがオリジナルであったら60万円ほどするが、この『コンクエスト』はリューズが交換されているため39万8千円とお値打ち価格だ。
戦後のデザイン“飛びアラビア”が上品な『セイタケ』
続いて、時代をさかのぼって紹介するのは『セイタケ』(ステップベゼル 35mmケース1940年代)。
『セイタケ』とはなかなかユニークな名前だが、名前の秘密は裏蓋の爪にある。ロンジンには『トレタケ』と呼ばれる3本爪のモデルがあるが、『セイタケ』は6本。イタリア語で6はsei(セイ)といい、6つの爪という意味がある。
35mmケースで重厚感がある『セイタケ』。野村店長も「この年代にしてはかなり大きいタイプ。29〜33mmが多いなかで35 mmは抜群の存在感。頑丈なミリタリーの雰囲気もある」と説明する。二人ともに「オシャレですね」と語る文字盤からは、戦後のデザインであることがわかるという。
「第二次世界大戦中くらいまでは、全アラビアで夜光入りの針を使っていた。戦後にそういう需要がなくなっていって、飛びアラビアのオシャレな文字盤が出てくるんだよね」(野村店長)
「偶数だけアラビアにして、あとは楔(くさび)にするところですね」(藤井さん)
「1940年代半ばと後半ではデザインが明らかに変わってくるので、これも時代背景がわかる。戦争時代の文字盤が好きな人も多いのだけれど、戦後のデザインの変化も楽しいですよね」(野村店長)
藤井さんが確認するなり「おー!」と声を上げたセンターセコンド(キャリバー12.68N)の機械は、野村店長も「手が込んでいて抜群に綺麗」と絶賛。ケースも真鍮ベースでステンレスの板を巻き込んで作られており手が込んでいる。そして「ステップベゼルの良さは理屈じゃなくて格好良い。横からも斜めからも見てみたくなる1本ですよ」とオススメする。価格は48万円だ。
余談だが、ここで野村店長の身に起こった“ベゼル事件”の話に……。
20数年前のこと。野村店長は河原でBBQをしていた時、ロレックス『GMTマスター』のベゼルが外れてしまったことがあるらしい。「気づいたらベゼルがなくなっていて『エクスプローラーⅡ』みたいになっていたよ」と笑う。必死に探して無事に見つかり事なきを得たようだ。
アーカイブ付きの逸品『トレタケ』
最後に紹介するのは『トレタケ』(1943年製 35mmケース ワイドステップベゼル Ref.5182)。「キノコみたいな名前ですね(笑)」という特徴的な名前は、野村店長曰く、ここ6〜7年で呼ばれるようになったものらしい。昔は“ステップベゼル”などとベゼルの特徴で呼ばれていたようだ。
『セイタケ』と同じくイタリア語由来だが、時計の流行はイタリア発信のものが多いという。ロレックス『デイトナ』の手巻きブームもイタリア発である。
価格は「どこでも100万円オーバーなんじゃない?」と野村店長。35mmと大きくワイドステップベゼルの特徴を加味すると高額になる。ムーブメントは『セイタケ』と同じキャリバー12.68系(12.68Z)だ。
「ロンジンの黄金時代だよね。ここまで手間をかけているから。まさに第二次世界大戦中にこんなすごいものを作っちゃっているの?という時計」(野村店長)
「古いものの魅力ですよね。今ではこんなにお金をかけられないみたいなものが作ることができた時代」(藤井さん)
「本で読んだのだけれど、日本軍にいたゼロ戦パイロットが海外に行った時にロンジンの時計を買いに行った。当時の日本人ではなかなか買えるような金額ではないけれど、軍隊にいるとお金を使わないからそういうものを買えたんだよね。支給品の時計ではなく、ロンジンを着けてゼロ戦に乗っていたんだよ」(野村店長)
それほど海外製品のクオリティの高さが当時から知れ渡っていたといえるだろう。日本人の職人技には光るものがあるが、日本製と海外製では使用する素材に大きな差があった時代だ。
「確かに、あまり1940年代の国産は扱わないですね」(藤井さん)
「よほど状態が良くないと扱えないし、オーバーホールしても半年後には動かない。素材が歪んでいるものが出てしまっているので、少し油が乾いてきただけでも止まっちゃう。でもこの頃のロンジンは素材も良いです」(野村店長)
100万円オーバーが当たり前といわれる『トレタケ』だが、ファイアーキッズでは現在88万円となっている。ロンジンはケースとムーブメントの番号が一致していればアーカイブを出してくれるのだが、この『トレタケ』は条件をクリアしておりアーカイブ付きの逸品だ。ちなみに、1943年の9月1日に売れたと記録が残っており、当時の生産管理がしっかりしていたことがうかがえる。
「裏蓋の番号とラグに打ってある番号が合致するかも見るんですよ。ロンジンはしっかり者ですね」(野村店長)
文字盤のデザインにはセクターダイヤルを採用。針はブルースチールで見やすくなっており、ここにも戦時中の面影が見て取れる。
1960年代頃までのロンジンは贅沢な作りで「オメガの下に置いておいていいのか?」と野村店長は顔をしかめる。今のロンジンは少しばかり残念だと言いつつも、復刻版は当時のデザインを忠実に再現していて評価できるようだ。