高度経済成長とともに躍進した国産の最高峰『グランドセイコー』の魅力と歩んだ道
出演:野村店長×クリス(販売スタッフ)
可愛い?珍しいChronometer表記のファーストモデル
今回は国産時計の最高峰、グランドセイコーについて。初期から10年の間に作られた3本を紹介する。まずは『グランドセイコー ファースト 1963年製 アプライトロゴ』を見ていこう。
グランドセイコーの歴史はこのファーストと呼ばれるモデルから始まった。文字盤が少し盛り上がっており、合わせて針もカーブさせている丸みのあるデザインだ。セカンド以降はほとんどがフラットな文字盤になっている。
目がハートになりながら「丸っこい。可愛い。Like a puppyですね!」とはしゃぐクリスさん。野村店長は「そんなことを言っている人は聞いたことがないけれど、可愛いよね。全体的に柔らかみが感じられる時計」と語る。
さらにクリスさんは「現行モデルと違って温かみがある金じゃないですか。より可愛い感じがありますよね」と“可愛い”を連発。野村店長曰く、現行モデルは18金を使用しているがファーストモデルは14金のため、ギラギラとした感じがなく着けやすという。
アップライトロゴとあるが、これは何を表しているのだろうか。
「アップライトロゴとは“Grand Seiko”の文字のこと。これはプレスしていると思うけれど、立体的に浮き上がっている感じだよね」(野村店長)
「良いですね! 工事中のビルって感じで」と、また独特な表現をするクリスさんの返しに苦笑いする野村店長。
「まだ出来上がっていない、スカイスクレイパー(超高層建築)じゃなくて可愛いですよね。ここからグランドセイコーが始まっていくぞ!って感じがして」(クリスさん)
「最初はプリントで、凹んで、盛り上がって……。そう考えると工事に近いかもしれないね。ビルの建築現場は、最初に建築予定のエリアがあって掘って上っていくみたいな」(野村店長)
するとクリスさんは「どんどん理解してくれていますね。最高です!」と、回を重ねるごとに表現に理解を示す野村店長に握手を求めた。
それでは歴史を振り返る。セイコーから派生したグランドセイコーだが、どのような思いから生まれたのだろうか。
「スイスの高級時計に負けない時計を作ろう! それがスタート。発売は1960年。1950年代後半には企画として持ち上がっていたと思うけれど、東京オリンピック前だから戦後復興の真っ只中。急成長中の日本が世界を驚かせるような時計を作ろうという意思が伝わってくるよね」(野村店長)
今では世界に通用するグランドセイコーだが、戦後の高度経済成長とともに勢いをつけたブランドだ。グランドセイコーが生まれる前はどのような時計を作っていたのだろうか。
「『マーベル』という時計がある。それ以前にもいろいろあったけれど、素材が良くなってアメリカでの精度コンテストで結果を出した。それで安くて性能が良い時計が輸出されるようになった。その高級版として『ロードマーベル』が出てくるんです。それでさらに上をいくものを作ろうと出てきたのがグランドセイコー。やはり“グランド”の名前を付けたかったみたい」(野村店長)
クロノメーター試験を受けたわけではないようだが、それに準ずる精度ということで文字盤には“Chronometer”と表示されていた。のちにグランドセイコー独自の“GS”表記になるため、“Chronometer”と書かれたグランドセイコーは珍しい。外部試験は受けておらず社内試験のみ。しかしそれは試験が簡単であることを意味するのではなく、より厳しいものだという。
「ファーストは1個1個精度チェックして、プラス何秒と全部手書きで入れたものを販売していたけれど、今はほぼ見かけない。それくらい精度にこだわって売り出しているモデルだよね」(野村店長)
文字盤の6時の位置には星のようなSD(Special Dial)マークが付いている。これは貴金属を使っていることを表し、高級バージョンである証だ。そして、現行モデルはもう一回り二回り大きいものだが、ファーストは輸出目的で作られていないため日本人の腕に合うサイズ感である。
ファーストはどんな人にオススメなのだろうか。野村店長に聞く。
「国産では最高峰と言っていい時計じゃないかなと思うので、一通り国産を買った人! 入りやすいキングセイコーや自動巻きも買ったけれど、やはりファーストが欲しいみたいな。そういう時計であってほしいと思います」(野村店長)
「キングセイコーはなんで入りやすいんですか?」(クリスさん)
「安いので買いやすいですよね。ファーストは50万円近くなのでハードルが高いかなと。でも最近は『初めての国産でファーストを買います!』みたいな人もいるけれどね」(野村店長)
「中野(店舗)だと多いですよ。最初の時計として一生物が欲しいという方が大勢いらっしゃいますね。僕アメリカ出身ですけれど、この価格帯で綺麗なグランドセイコーは見たことがないです」(クリスさん)
ファイアーキッズでは状態にこだわって仕入れているため、年々探しづらくなっているのがファーストモデルだ。
“GS”表記が登場した57GS セカンド後期
次に紹介するのは『グランドセイコー 1966年製 57GS Ref.5722-9990 セカンド後期』。セカンドも最初は“Chronometer”と表記されていたようだが、スイスから「クロノメーターじゃない」とクレームが入り、後期では“GS”の表記が使われるようになったという。
「この頃になるとセイコーも精度に自信があってクロノメーターとうたう必要がない。もっと厳しい基準でやっているから“GS”の表記になった」(野村店長)
セカンドモデルはケースが良くなっている。それは下に印字されている“DIA SHOCK”からも明らかだ。“DIA SHOCK(ダイアショック)”はセイコー独自の耐震装置の呼び名で、衝撃に強いことを意味している。
ファーストに比べ、見た目はシャープな印象。「研ぎ澄まされた感じ。大人っぽくなっているよね。ファーストも好きだけれど実用的なのはセカンドじゃないかな」と野村店長。裏蓋にはスクリューバックを採用しているため防水性が高いのもポイントである。
ちなみに、セカンドは日付表示付き。当時のエグゼクティブをターゲットにしていた時計は日付表示付きが主流だったようだ。
技術の進歩が見られる61GS
最後に紹介するのは『グランドセイコー SP 1970年製 61GS Ref.6155-8000』。セイコースタイルという多面カットのケースが特徴で、ケースの成形技術が格段に上がっていることがうかがえる。そして、ハイビートの自動巻きである。
「ハイビートはコンパクト化する技術の1つなんだよね。当時、ロンジンも10振動の機械を搭載していて薄型なのが売りだったけれど、セイコーは意外とボリュームがある。セイコースタイルケースはよく考えられているよね。裏蓋の盛り上がりは多少ありますが装着感がいい」(野村店長)
こだわりのセイコースタイルケースにハイビートの自動巻きと、当時の最先端の技術がギュッと詰め込まれている。価格は21万8千円だ。
モデルチェンジが早い。最先端を行く国産時計
ファーストの登場からそこまで年月が経っているわけではないが、大きくアップデートされている印象がある。当時から常に新しいものが注目される風潮はあったのだろうか。
「時代背景的には技術の進歩がすごいから、やはり新しいものは魅力あるんだろうね。海外メーカーでは10年20年と同じモデルを作っているけれど、日本人は新しいものが好きだから。車のモデルチェンジも早いといわれるけれど、時計も一緒ですよね。最新のものをどんどん出している時代。結果としてクォーツに飲み込まれてしまうわけですが……」(野村店長)
「愛している人をコロコロ変えるのでなければ、何でもOKだと思います!」と、これまたユニークな表現で笑顔を見せるクリスさん。野村店長は「新しいもの好きの感性が良いものを生み出していくのは間違いないので。技術の進歩は早いよね」と語る。
ファーストから61GSまでは10年足らずだが、野村店長も「面影なし」と語るほどに進化。共通点があるならば視認性が良いことと精度へのこだわりぐらいだろうか。クリスさんも「共通点はSEIKO!」と笑う。
3本の中で、クリスさんはファーストに惚れ込み、独自のセイコースタイルケースを評価する野村店長は61GSが気に入ったようだ。
最後に、グランドセイコーを総括する。
「最新のグランドセイコーも間違いなく良いものを作っているけれど、その時代の最高のものを載せているのが感じられる。本当に、最先端のものを上手く導入して最高のものを作り上げていると思います」(野村店長)
ヴィンテージでも当時の最先端の心意気を感じられるのがグランドセイコーの魅力だ。