ヴィンテージクロノグラフとは?そこには無駄を楽しむ流儀がある
出演:野村店長×藤井(販売スタッフ)
クロノグラフとは何か?
今回は入門編としてヴィンテージクロノグラフを掘り下げる。クロノグラフとは、ストップウォッチ機能付きの時計のことだ。「クロノグラフとは何か?」と尋ねられた野村店長は「無駄です。でもそういう無駄が良いですよね」と笑う。
無駄といっても発売された当時は実用されており、パイロットや医師など特定の職業の人に重宝されていた。プロフェッショナルな人が使っていたことからも、クロノグラフは憧れの対象であったようだ。
「男心をくすぐりますよね」(藤井さん)
「男は子どものままなので、無駄が好きなんだよね」(野村店長)
それでは、ファイアーキッズにあるヴィンテージクロノグラフを3本紹介する。古い順に見ていこう。
渋みのあるギャレットのクロノグラフ
まずは、野村店長が「ヴィンテージクロノグラフらしい」と語るギャレットの『2レジスター クロノグラフ』(1940年代)だ。
「ヴィンテージクロノグラフらしいよね。ツーレジのブルースチール針でアラビア数字。角プッシャー(ストップウォッチ機能のボタンのこと)は非防水。ヴィンテージといえば角プッシャーが良かったけれど、コンディションに偏りがあるから丸いタイプが実用的。丸プッシャーはOリングのゴムパッキンが入る仕様なので防水性が高い。そういうところと“オールド顔”の良い組み合わせだよね」(野村店長)
「実用性とデザイン性を両立できているんですね。アラビア数字のクロノグラフも雰囲気ありますね」(藤井さん)
アラビア数字は視認性が良いため、パイロットを意識して作られたものでないかという。1940年代、かつ文字盤や長短針が夜光入りであることからも軍用時計として使われていてもおかしくはない。
キャリバーはヴィーナス188。野村店長は「最近まで自社のムーブメントを使っているところはほとんどなかった。クロノグラフは複雑な機械なので、専業メーカーが作った機械を入れているかたちですね」と説明する。
藤井さんがこの年代によく聞くムーブメントメーカーとして、ヴィーナス、レマニア、ランデロン、バルジューを挙げたが、当時はこの4社で95%以上を占めていたという。
「ギャレットもクロノグラフのイメージがありますよね?」と藤井さんが尋ねる。
野村店長は「パイロット用で『フライングオフィサー』というモデルが有名かな。第2次世界大戦があり、どの国も空軍力が強化されパイロットが大量に生まれた。戦争が終結した1940年代後半にはパイロットの仕事がなくなるからと、パイロットたちの職をつくるために航空会社が生まれた流れがある」と歴史を辿る。
今こうして海外を行き来できる背景には、戦争があったからといえなくはないエピソード……。藤井さんも「そこまでの話になっちゃうんですね」と驚いた様子だ。
月へ到達! 歴史的なオメガのクロノグラフ
次に紹介するのは、泣く子も黙るオメガの『スピードマスター プロフェッショナル 4th』(純正キャタピラブレス付き)。
『スピードマスター プロフェッショナル 4th』を語るうえで欠かせないエピソードがある。それは、アポロ11号の月面着陸の際に宇宙飛行士が着けていたことだ。初代『スピードマスター』は自動車レースを意識しており、当時の広告は車に乗っているシーンが多かったという。しかし『スピードマスター』を有名にしたのは陸ではなく宇宙。NASAに採用されたからである。
「みなさん誤解しがちですけれど、ムーブメントは小さいですよ。27mmの機械が入っている。それを二重構造にして頑丈にしている。衝撃にも温度変化にも強いし、磁気にも強い」(野村店長)
「ムーブメントは小さいけれど、その分ケースを頑丈にしているからこのサイズなんですね。こう見るとインダイヤルの3つ目がすごく寄っていますね」(藤井さん)
「ギャレットとは明らかにバランスが違うもんね。顔の中央に目鼻口が寄っているのが嫌という人もいる。現代のクロノグラフのほとんどは中央に寄っている」(野村店長)
実際に月に行ったのは紹介している4thモデルだが、売れたのは5thモデルだ。1968年には5thが売り出されており、4thは月に行った1969年にはほとんど売られていなかったのが理由。4thのキャリバーは321で、5thは861。861もその後NASAの試験をパスしているが、伝説にこだわる人からはやはり4thの321が求められているようだ。
レトロフューチャーなモバードのクロノグラフ
3本目は、モバードの『エルプリメロ TVスクリーン ブルーダイヤル クロノグラフ』(1970年代)。これまで紹介した2本は手巻きだが、これは自動巻きのクロノグラフ。ファースト論争はいろいろあるようだが、世界初の自動巻きクロノグラフの1つといわれている。エルプリメロのムーブメントは、ロレックスの『デイトナ』に搭載されて一気に知名度を上げた。
藤井さんが「絶妙なプロポーション」と語る、四角いテレビスクリーンが特徴的。野村店長曰く文字盤のブルーは褪色しやすいようだが、ファイアーキッズで仕入れたもの褪色しておらず状態が良い。そして、ゼニスでもモバードとまったく同じデザインの時計がある。当時、両社は同一資本で開発しており、バックルのマークも当時のゼニスと一緒だという。
「このデザインは1970年代前半らしいよね。ラグがほとんどなくて、角が丸くなっている昔のテレビみたい。今どきの若い人にテレビスクリーンと言っても伝わらないのかな。当時はテレビスクリーンのデザインが大流行り。レトロフューチャーだよね」(野村店長)
ボタンは丸プッシャーだが二重構造にして四角いデザインにしている徹底ぶりだ。
「小型ムーブメントで厚みを抑えているものの、めちゃくちゃ厚いケースで作っている。エルプリメロの良いところを失うケース(笑)でも男はその無駄具合が良いのよ」(野村店長)
そのほかの特徴として10振動であることが挙げられる。一般的に高精度化するための10振動といわれるが、これはコンパクト化を狙ったもののようだ。
「中のテンプ(機械の心臓部)やテンワ(テンプを構成する部品)が大きいほど遠心力が安定する。そして、姿勢差といって重力の向きで精度が変わるのも、早く動かせば動かすほど影響を受けにくい。テンワを小さく軽量化すると精度が不安定になるのでその分早く回す」(野村店長)
「なるほど。10振動にすることによりテンワが小さくても精度が出せるようになる」(藤井さん)
「そういうことです!」(野村店長)
精度にこだわって10振動にしたイメージがあるが、どちらかといえば自動巻きクロノグラフをどれだけ小さくできるか?に重きをおいた結果の10振動であると説明する。セイコーなど他のメーカーもエルプリメロより厚みがある。その後に出てきた有名なバルジューの7750、レマニアの1041なども分厚くて大きい。
「みんな厚みをどうやって誤魔化すか?というデザインなわけよ。モバードの良さは、厚みを抑えられているのに分厚いケースに入れちゃうところ(笑)」(野村店長)
「手巻きのツーレジから始まり、スリーレジになり、その後自動巻きになる。ヴィンテージクロノグラフの大まかな歴史はそんな感じですかね」(藤井さん)
無駄を楽しむヴィンテージクロノグラフ
お客さまからは「ヴィンテージのクロノグラフは今でも使えるのか?」と質問があるようだが、基本的にはむやみに操作しないことをおすすめしている。
「時計のイベントで、オメガの人が『ストップウォッチは動かさないでください』と言っていたんだよね。『押せば押すほど壊れますから』と……」(野村店長)
しかし野村店長は「たまには押してあげてください。昔の油と違って今の油は固まりにくいです。ビビらないで押す! しっかり押す! それが意外と壊れないコツです。中途半端に押すと壊れやすいので、きちっと押すのがポイント」と念押しする。
なかにはクロノグラフを常時稼働させて、秒針代わりにしている方もいるもよう。藤井さんが「それはどうなんですか?」と疑問を投げかける。
「よろしくはないですね。余分なところを動かしているのでゼンマイも弱りやすい。あと、なんと言っても動かしっぱなしだと偽物っぽく見える。よく『デイトナ』の偽物でセンターのクロノ針が動いているのがある。『デイトナ』のクロノグラフを動かしっぱなしの方は偽物に見えるのでやめましょう(笑)」(野村店長)
3本の個性的なラインナップを目の前に、藤井さんは「デザイン的にもヴィンテージの方がいろいろありますよね」と語る。すると野村店長は次のように返した。
「現行もいろいろあるけれど、古いやつほどハッキリとした目的があって作られている。使うか使わないかは別として。その無駄な知識が良いんだよね。男って無駄なものが大好きだから」(野村店長)
「男は語りたいですからね。クロノグラフは無駄がつまった時計ということです」(藤井さん)
ヴィンテージクロノグラフの場合、オーバーホール代は少し高めだ。ファイアーキッズでは通常の3針時計で3〜4万円くらいだが、ヴィンテージクロノグラフは最低でも5〜6万円はかかるのでお見知りおきを!
「無駄な時計には無駄なお金も必要」(野村店長)
「手間がかかる方が可愛い感じですね」(藤井さん)
スポーツカーも300km出して走ることはなくても、そのスピードで走れる性能がある。クロノグラフのストップウォッチ機能も、使わずともスペックとして備えていることが大事。そんな話に花が咲いたヴィンテージクロノグラフの回をお届けした。
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