耐久性、耐磁性を重んじてきたIWCの『インヂュニア』は堅牢で、現在もコンディションのいいモデルが揃っている

2022.05.10
Written by 編集部

ドイツ語で技術者の名を持つ腕時計

 アメリカ出身の時計師、フロレンタイン・アリオスト・ジョーンゾによってスイスのシャフハウゼンに設立されたIWC。150年超の長歴史を持ち、現在もあらゆるジャンルの高級時計を高いレベルでつくり続けるブランドだ。

 コレクションのひとつに『インヂュニア』がある。ただ、このモデルのデザインは、現行のものと初期のものでは大きく異なる。それは一見すると、同じモデルとは思えないほどである。

 1955年にデビューした『インヂュニア(Ref.666)』は、ドイツ語で技術者(エンジニア)を意味する。1948年に誕生した高耐磁性のパイロットウォッチ『マーク11』の基本設計を流用したもので、現在までほぼ一貫して高耐磁性をコレクションの柱としている。

 現代の社会環境は電子機器に囲まれており、磁気がいたるところに存在するので、もはや欠かせないスペックとなっており、現在では多くのモデルが耐磁性を強化している。そのような機能を50年代という早い段階で、一般用の腕時計に搭載したところが実用派IWCらしいところである。

 その耐磁性は『マーク11』と同じ80,000A/m(1,000ガウス)。一般といっても技術者向けなので、主に電磁波の影響が心配される医師や放射線技師などの職業に就いている人々から愛用された腕時計だった。

一見、ドレスウォッチのような意匠

 初代『Ref.666』のデザインはラウンドケースに3針、バーインデックスというシンプルなもの。ドレスウォッチのような雰囲気で、とても高い耐磁性があるようには見えない。ロゴは現在の「IWC」ではなく、オールドインターと愛好者の間で呼ばれるように、まだ「International Watch Co」と筆記体で記されている。こちらのロゴのモデルが欲しい、という人は多いようだ。

 ムーブメントは、自動巻きのCal.852もしくはCal.853が搭載されている。Cal.853は、カレンダー機能を搭載したキャリバーになる。

 67年には『Ref.666』の基本設計はそのままに、文字盤、針のデザインを変更した『Ref.866』が登場。ケース径が37㎜と大きく、“ビッグインヂュニア”とも呼ばれている。こちらもまだ「International Watch Co」の筆記体ロゴが入っているが、『IWC」と併記されているモデルも存在する。

 その後、76年に『インヂュニア』は大きなリニューアルが行われた。デザイナーにオーデマ ピゲの『ロイヤルオーク』やパテックフィリップの『ノーチラス』を手がけた、ジェラルド・ジェンタを起用したのだ。

 発表された『インヂュニアSL』は、シンプルなところは変わりないが、広めにとられたベゼルにビスが打たれ、それをデザインとするなど『ロイヤルオーク』を彷彿とさせるジェラルド・ジェンタらしいものになっていた。

 ケース径40㎜、ケース厚12㎜と、当時としてはかなり大きな時計でもあったこと、クォーツショックの影響を受けたことなどもあり、生産本数は1000本に満たなかったといわれている。

 それでも一時生産中止の時期もあったが、このジェンタデザインをベースにしたモデルは近年まで続いており、『インヂュニア』といえば、このジェンタデザインのモデルと認識する人は多い。しかし、2017年に登場した現行モデルは個性的なジェンタデザインから離れ、シンプルな初期デザインへの回帰を見せている。

 上質なアンティークウォッチは、堅牢なモデルが多い。早くから耐磁、耐久性を重んじてきた『インヂュニア』は強く、良いアンティーク品が揃っている。

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