高い耐磁性と視認性を備えたシンプルな鉄道時計、オメガ『レイルマスター』
3つの“マスター”コレクションのひとつ
オメガには“マスター”という名がついたコレクションが3つ存在する。『スピードマスター』『シーマスター』、そして『レイルマスター』である。『レイルマスター』の登場は『スピードマスター』等と同じ1957年。その名の通り鉄道時計だ。
当時の鉄道は現在よりも重要な交通手段。一分一秒を争う現場で使われる時計は正確で視認性が良いことが求められた。ただ、1900年代の半ばのアメリカやカナダの鉄道は電気式ディーゼル機関車だったので、鉄道員の職場は磁気が非常に強いところだった。そして、その影響による時間の狂いに悩まされていた。
当時の腕時計の標準はどんなに耐磁性があるといっても、耐えられるのは60ガウス前後というものだったからだ。
それを解決に導いたのが、1,000ガウス以上の耐磁性を備えるハイスペックモデル『レイルマスター』だった。鉄道時計では視認性の良さが重要ということもあって、クロノグラフやパワーリザーブといった機能を一切省いた、シンプルなデザインの腕時計となっている。
この『レイルマスター』の原型は、英国空軍用のミリタリーウォッチ。航空機内で必ず発生する磁気の影響を受けない腕時計を、と、英国からオメガが依頼を受けて製作し、その発展系が『レイルマスター』のベースとなっている。つまり、他のマスターシリーズ同様、このモデルも元を辿ればミリタリーウォッチということになる。
多くの腕時計、トレンチコートなどをはじめ、機能的なアイテムは戦争時に生まれるといわれているが、この『レイルマスター』もそのうちのひとつということである。
たった5年だけの短命
ただ、この『レイルマスター』は、『スピードマスター』『シーマスター』のような人気を博したロングセラーと違い、57年から61年までという、たった5年だけの短命に終わっている。残念なことに、ロレックス『ミルガウス』やIWC『インヂュニア』といった強力なライバルの後塵を拝することになったからだ。
そんな『レイルマスター』が再び脚光を浴びたのが2017年。『スピードマスター』『シーマスター』とともに3つのマスターが60周年を迎え、その記念にブランドが“トリロジー”の復刻に取り組んだのだ。
通常、復刻版であっても、あえて多少の違いをつくったりするのだが、このトリロジーについて、オメガは完全なる再現を目指している。ケースやダイヤルデザインだけではなく、ドーム状の風防もクリスタルガラスで再現し、秒針にもオリジナル同様にカーブがつけられている。
近年は復刻モデルがトレンドのひとつになっている。新しいデザインの新作を生み出すのは並大抵のことではなく、それならば、名作になり得た魅力的なデザインのモデルを現代の技術で生み出そうとする動きは、当然の流れである。
そして、それによってアンティークモデルも注目を浴びることになる。アンティークは、その時代でしかつくり出せない独特の雰囲気を宿している。『レイルマスター』も然りである。
先にロレックスやIWCモデルの“後塵を拝した”と書いたが、それは比較されたからであって、アンティーク『レイルマスター』も1000ガウス以上の対磁性をクリアしているのだから、機能的に何の問題もないはずである。