戦車をモチーフにアールデコ調のデザインを施した斬新かつエレガントな腕時計、カルティエ『タンク』

2022.06.05
Written by 編集部

1847年創業のフランスの高級宝飾メゾン

 今回は現在も大変な人気を誇る、カルティエ『タンク』について語りたい。しかしその前に、カルティエについて簡単に説明しておこう。

 カルティエは、ルイ=フランソワ・カルティエが1847年に創業したフランスの高級宝飾メゾンである。53年にはパリにジュエリーブティックを開き、そのわずか6年後には、早くもフランス皇帝ナポレオン3世の皇后ウジェニーを顧客とするなど、早くから注目されたブランドだった。

 そして、その名を飛躍させたのが、初代の孫にあたる3代目ルイ・カルティエである。彼の在任中に世界的なジュエラーとして名を響かせることになり、1939年には15カ国から王室御用達の認証を受けるまでになっている。

 時計製作においても、1904年にブラジルの富豪であり飛行家のアルベルト・サントス=デュモンの依頼を受け、飛行中に着用できる時計を考案する。それがケースとラグを一体化させ、腕に着用する世界初の男性用腕時計と言われている『サントス』である。

 そんなカルティエにおいて『サントス』と並び、カルティエの代名詞的ウォッチと呼ばれているのが、角形時計の名作『タンク』である。

 このモデルが製作されたのは1917年のこと。独創的なケースデザインは、第一次世界大戦における最大の会戦といわれる“ソンムの戦い”に軍事史上はじめて投入された、ルノー製戦車の平面図をモチーフにしたものである。それでモデル名が“タンク”。デザインもネーミングも、従来の時計メーカーでは考えつかない、カルティエならではの大胆な発想である。

長方形のケースを時計界に定着させる

 その造形は、キャタピラがケースの縦枠となり、それがラグと一体化している。曲線を省き、シンプルな直線で構成されたデザインは、とても斬新かつ美しく、長方形のケースを時計界に定着させる大きな要因となった。そして、それは20年代に世界を席巻する芸術運動“アールデコ様式”を先取りするものでもあったのだ。

 奇しくも『タンク』が登場した約100年前は、スペイン風邪が流行し、現在の新型コロナウイルス以上の被害を世界にもたらしていた。収束後の20年代に『タンク』はアールデコ様式のデザインもあって大ヒット。スペイン風邪後の世の中を明るくした存在のひとつとなっている。

 以降も『タンク』は人気コレクションとして存在し続け、多くのモデルを世に送り出している。そして、熱烈な愛好者“タンキスト”を生み出している。ブランドではなく、ひとつのコレクションのユーザーに対して、このような愛称が付けられた例は、まず聞いたことがない。タンクはそれだけ飛び抜けた特別な腕時計なのである。

 その中のひとりが、ポップアートの旗手と謳われたアンディ・ウォーホルだ。彼の腕には常に『タンク』があり、撮影された写真にも度々写り込んでいる。ただ、いつも時間は合っていない。

  そして「『タンク』を身に着けるのは時間を見るためではない。実際に、巻き上げたこともない。タンクを身に着けるのは、身に着けなければならない時計だからである」と語っている。

 すなわち『タンク』というモデルは、20年代もそうであったように、機能よりもスタイルを優先することで時代をリードしてきた腕時計なのである。

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