<ジャガールクルトの成功と独自性>なぜ3大メーカーにはならなかったのか

2023.05.09
Written by 編集部

出演:野村店長×廣瀬クリス(販売スタッフ)

薄型化競争を生み出した高い技術力

 ファンの方からのリクエストにお応えし、今回はジャガールクルトについて語る。

 ジャガールクルトは、1833年にアントワーヌ・ルクルト氏が工房を立ち上げたのが始まり。そこから70年の時を経た1903年にエドモンド・ジャガー氏が合流し、1937年にジャガールクルトが誕生。とても古い時計メーカーだ。

「どこがすごいブランドなんですか?」とクリスさんが野村店長に尋ねる。

「時計好きな人でジャガールクルトを馬鹿にする人はいない。貶(けな)しどころがないから。3大メーカーであるパテックフィリップ、オーデマピゲ、ヴァンシュロンコンスタンタンにムーブメントを供給しているメーカーはジャガールクルトぐらい。技術力の証だよね。3大メーカーがこぞって使っているんだよ」(野村店長)

 続けて、代表的なムーブメントについて聞く。

「やっぱりジャガールクルト『マスター ウルトラスリム スモールセコンド』のように、技術力が必要なものが多い。薄型の機械を作るとき、ただ薄く作ればいいわけじゃなくて強度も大事。“技術力の塊のメーカー”だよね」(野村店長)

 例えばパテックフィリップに供給していたレディースの機械を見ると、どれだけ小さくできるのか極限に挑戦しているのがわかるという。ジャガールクルトは、他のメーカーの追随を許さないほど高い精度の技術力を有する。世界で最も薄いムーブメントを作り、昨今の薄型化競争を生み出したといわれているのがジャガールクルトだ。

 野村店長のセレクトで、ファイアーキッズ注目のジャガールクルト3本を紹介する。

女性にも似合うツートンの『ヴォーグ』

 1本目は、クリスさんが「イエローゴールドとベルトが好み」と語る『ヴォーグ』(18金無垢ケース 手巻き 1970年代製)。純正ではないがダークブルーのクロコダイルベルトが目を引く時計だ。大きくても薄型のムーブメントを搭載しているところにジャガールクルトらしさがある。

『ヴォーグ』はカルティエの『タンク』に影響を受けていると思われるが、もし『タンク』が18金で『ヴォーグ』と同様のサイズであったら、100万円を優に超える価格になるだろう。しかし、『ヴォーグ』は性能の良い機械を搭載しながら39万8千円で売りに出されている。

 メーカー最大の特徴であるムーブメントには丸型と角形があり、『ヴォーグ』の四角いケースには“丸ムーブ”が収められている。そして、ケースが反転するジャガールクルトの代表作『レベルソ』には“角ムーブ”が搭載されている。

 ここで少しばかり『レベルソ』についての豆知識を……。『レベルソ』のケースが反転する理由をご存じだろうか?

「(ケースの反転は)当時ポロの競技をするときに傷つかないようにやっていたんですよね。それを知ってやっぱりいいなって思いました」(クリスさん)

『レベルソ』は激しい試合中に着けていても傷がつかないように考慮された、スポーツマンに愛されてきた時計だ。それでは話を『ヴォーグ』に戻そう。

『ヴォーグ』が発売された1970年代は、クォーツが出始めて値段も安くなってきた頃。当時は電池が分厚くある程度の厚みが必要だったが、それに対抗するように薄型化された機械が登場したという。

「1970年代を代表する機械なのでこの時計をチョイスしてみました。ツートンのブルーのラインが思い切ったデザインで面白いよね。そして、現代でも使えるサイズ感。当時だとメンズサイズだけれど、現代では女性用も大きくなってきているので、女性が着けてもオシャレかもしれないですね」(野村店長)

引き込まれそうなデザインが魅力の『ポラリスⅡ』

 続いて紹介するのは、ラーバーベルトの『ポラリスⅡ』(Ref.E870 1970年代 アラーム)。『ポラリスⅡ』は1400本しか作られておらず、前身モデルの『ポラリス』も1800本ほどしか出回っていないレアな時計である。最近、メーカーの認定中古として青い『コレクタブルズ ポラリスⅡ』が350万円で売りに出されていたようだ。

 復刻版として世に出た3つリューズが付いた『ポラリス』が人気を集めており、2つリューズのものは珍しい。「ジジジ」と鳴り響くアラーム音も味がある。

 両回転ベゼルの『ポラリスⅡ』は1970年代初期に製造されており、野村店長曰く「その時代らしいデザイン」だという。クリスさんは「何個も丸が続いていくところがhypnotic(催眠術)な感じですね」と言い、野村店長も「じっくり見ていると何か引き込まれそうな感じがするね。そういう見方は面白い」とデザインの魅力を語る。裏蓋も渦を巻いたような特徴的なデザインだ。

 価格は128万円。未使用のラバーベルト(トロピックタイプ)が付いている。大きくて存在感があるため、クリスさんのように腕が太めの人が似合うだろう。

戦後の面影を残す、大人向けの『ラウンド』

 3本目は、『ラウンド』(ステンレスケース 全アラビアダイヤル 1940年代 手巻き)を紹介する。野村店長が「クリスより僕のサイズ」と語る、前述の2つよりもシンプルなフェイスだ。『ラウンド』はどんな人にオススメしたい時計なのだろうか。

「僕の年代の人たちが探すような時計。40歳以上かな。おじさん時計だからクリスにはまだ早いぞ(笑)」(野村店長)

 ジャガールクルトらしい部分として挙げられるのが、ネクタイのように先に向けて太くなっていく針。そのあたりのデザインも「大人向け」だと語る野村店長。さらに特徴を見ていく。

「この年代のジャガールクルトは、クロームメッキのケースが多いのだけれど、ステンレススチールで裏蓋もスクリューバックで防水性もばっちり。軍用向けの黒文字盤で白い夜光入りの数字や針をつけたり、戦争が終わった後だからゴールドをあしらってみたり。それが1940年代後半らしい時計だよね」(野村店長)

「リューズも存在感がありますね」(クリスさん)

「第二次世界大戦があった1940年代中頃までの流行は軍用時計スタイルだけれど、その流れから“ちょっとデザインが変わりました”っていうところが、1940年代後半の特徴だよね」(野村店長)

 そして、野村店長が「すごく魅力的」と語る気になる価格は28万円。「機械も良い、ケースも良い、スクリューバックのステンレスケース、文字盤もオシャレ!」と、精巧な作りに対してお買い得な“野村店長の推し時計”だ。

なぜ3大メーカーに名を連ねなかったのか?

 野村店長が「今さら褒めることもないかな?っていうぐらい、みなさん好きですよね。1本は持っていてほしい時計ブランドだと思います。ぜひ1本選んでみてください」と語るほど、非の打ち所がないジャガールクルト。しかし、クリスさんは「ジャガールクルトってなんで3大メーカーに入らなかったんですか?」と質問する。

 野村店長は「元々3大メーカーは貴族を相手に作っていたけれど、ジャガールクルトは貴族相手の商売には特化していなかった。どちらかというと、ムーブメントを提供することに力を入れている時代が長かったせいもあるんじゃないかな」とその理由を分析する。この話を聞いたクリスさんの目には、ジャガールクルトがメーカーとして職人に徹していた姿勢が格好良く映ったようだ。

 今回は3つほど紹介したが、あなたはどのジャガールクルトが気になっただろうか。

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