【IWCオーナーが語る】一本で仕事から日常まで網羅する完璧クロノグラフ

2023.06.01
Written by 長谷川剛

文=長谷川剛

時計好きに「あなたの時計、見せてください」と依頼するこの企画。今回ご登場いただいたのは、生命保険会社に長年勤務する酒井健吉さん。服や鞄にもこだわりを見せる追求派ゆえに(?)、出会ってしまった至高の一本について色々と伺ってみた。

持ち物にこだわる先輩の影響

現在は保険会社にて営業関係のエグゼクティブである酒井さん。若いころは外資系の通信会社に勤めていた経歴を持つ。

「そのとき仲良くしていただいていた先輩が非常に持ち物にこだわるタイプであり、スーツにしろ時計にしろ、趣味の良い洒落たものを身に着けていたんです。その人の影響を受けて、自分も持ち物にこだわりだしたとろが少しあるように思います」

なかでも日々のビジネススタイルを仕上げるアイテムとして、時計の吟味に力を入れだしたのが20代後半だったと振り返る。

雑誌をチェックするだけでなく時計ショップにまで足を伸ばして自分らしい一本を精力的に探していた酒井さん。そのリサーチのなかで浮上してきたブランドがIWCだ。

「当時は2000年に入ったばかりのころ。自分の身の回りにおいてIWCは、今ほど著名なブランドではありませんでした。ただしIWCが手掛ける時計は非常に雰囲気のあるものが多く、強い興味を持ったのです。さらに調べてみたところ、懐中時計の時代から優れた時計を打ち出しており、時計ファンからも支持される実力派であると知り、コレは間違いないと思ったのでした」

学生時代から著名な時計ブランドとして、ロレックスやオメガが存在することは当然承知していた酒井さん。しかしあまりに王道なアイテムには手を出さないのが彼流だ。ただし単なるマイナー好きではなく、しっかり歴史の積み重ねがあり、プロダクトとして真っ当なモデルを作り続けているブランドから選びたかったのだと強調する。

ついに出会った知る人ぞ知る傑作

そしてあれこれIWCのラインナップをチェックし、ついに出会ったのがGSTクロノグラフ。ご存知のとおり、IWCのGSTクロノグラフは、1997年に登場した知る人ぞ知る傑作だ。それまでにポルシェ・デザインとのコラボレーションにより生み出されたコンパスウォッチ、チタニウムクロノグラフ、オーシャン2000といった名作の後に、IWCが独自に打ち出したクロノグラフである。余談ではあるがモデル名の「GST」とはゴールド、ステンレススチール、チタニウムを意味した名称であり、当然このクロノグラフにもケース素材のバリエーションが存在していた。

酒井さんが選んだのは、GSTクロノグラフのステンレススチールモデル。当時勤めていた会社の社員旅行で訪れた海外にて購入したという。今ほど時計の値段が高騰していない時代であったが、それでもやはり即決することなく、一両日は旅先でしっかり悩み抜いたとのこと。

「もちろん自分でも十分考えました。結局、一緒に旅行中であった先輩に相談し“イイんじゃない”とのお墨付きをいただき、購入を決意したんです」

実際に身に着けてみたところ、予想以上に自分の好みにマッチしていると感じた酒井さん。

「スーツスタイルなどのドレススタイルにマッチしつつ、クロノグラフならではのアクティブな雰囲気が非常に気に入りました。ポイントはスポーティでありながらエレガントな部分。ケースに厚みがあって着け応えあるところも好ましいと思いました。そして何より知る人ぞ知るモデルであることは大きなポイントです(笑)。もう買ってから20数年経ちますが、“GSTなんですよ”と見せてもご存知ない方のほうが多いですから。逆に“これGSTなんですね、イイですね”と言ってくる人とはだいたい話も合う感じ(笑)。ある種のフィルター効果を持つアイテムだと思っています」

そんな酒井さんだが、そろそろ次の時計が欲しくなったりはしないのだろうか?

「もちろん、時計は大人の嗜みですから、もうひとつぐらい良いものが欲しいとは思っています。相変わらず自分はIWCファンであるので、ポルトギーゼなどを考えた時期もありました。しかし友人が先に手を出してしまい、カブるのが耐えられないので結局諦めることに(笑)。もちろん別のブランドでも候補がないわけではありません。カルティエのタンクは誰もが知る名作ですが、あれはある意味別格。王道ではありますが、縁があればぜひ手に入れたいと思っています。ローマインデックスやブルーのカボションなど細部まで非常にエレガントであり、そこに憧れがあるんです。ただ、タンクはレザーベルトが個人的にネック。汗等での変色や劣化が気になってしまうのです。やはり気兼ねなく使い倒せるメタルブレスレットのモデルが僕好みかもしれません。何よりこのGSTは、仕事の装い全般に合わせられることに加え、オフのカジュアルスタイルとの相性も申し分ありません。これ以上のモノとなるとなかなか出てこないかも、と思ってしまうのです(笑)」

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長谷川剛

長谷川剛

1969年東京都生まれ。エムパイヤスネークビルディングに所属し、『asAyan』の編集に携わる。その後(有)イーターに移籍し『asAyan』『メンズクラブ』などを編集。98年からフリー。『ホットドッグプレス』『ポパイ』等の制作に関わる。2001年トランスワールドジャパンに所属し雑誌『HYBRID』『Warp』の編集に携わる。02年フリーとなり、メンズのファッション記事、カタログ製作を中心とする編集ライターとして活動。04年、エディトリアルチーム「04(zeroyon)」を結成。19年、クリエイターオフィス「テーブルロック」に移籍。アパレル関係に加え時計方面の制作も本格化。

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