中西哲生が、愛用するヴィンテージロレックス、そしてIWCについて語る
文=土田貴史
メディアで活躍する有名人は、どんな腕時計を身に着けているのだろう? どんな気持ちで腕時計と付き合っているのか、ぜひ聞いてみたい。そんな素朴な要求に答えていく新連載。今回は、現役引退後もサッカー解説者・スポーツジャーナリストとして活躍中の中西哲生さんに、愛用中の3本を披露していただいた。
はじめの一本が、ロレックスデイトナ
「子どもの頃からクルマが好きで、ミニカーを並べるのが好きでした。おそらく機械的なイメージのあるものに魅力を感じていたんでしょうね。改めて考えたこともなかったですが、時計もいつしかハマっていました」
サッカー選手としてプロ入りした頃には、自分自身で腕時計を買いたいと思っていた。そして最初に購入したのが、アンティークロレックスの手巻き『デイトナ』。
「今でこそ、はじめて自分で買った時計がデイトナだなんて言ったら、ふざけんなっ! 言われてしまいそうですが(笑)、当時、僕はこの時計を今では想像できないような額で買っているので」
中西さんが『デイトナ』を入手したのは、1992年12月。その頃、日本国内にはデイトナの在庫が山ほどあった。このRef.6263黒文字盤の『デイトナ』を入手したのは、岐阜の有名アンティークショップだったが、その店には同じリファレンスの在庫が5本あり、その中から一番いい状態のものを選んだ。
「今、考えてみたら、全部買っとけよって話でしたよね(笑)。だって、現在の相場はとてつもないことになってるじゃないですか……」
ほんとうはご自身の生まれ年の1969年製が欲しかったそうだ。
「1969年製のものもあったんですけど、自分が見つけたのは、あまり状態が良くなくて。このモデルは71年製なんですけれども、これにした方がいいと言われて。2歳年下だけど、これはこれでいいかなと……」
数ある『デイトナ』の中でも、中西さんはRef.6263に狙いを定めていた。そしてプロ生活も2年目に突入。1年目にすべての試合を休むことなく出場し、翌年の契約更改では年収が跳ね上がった。
「それで頑張ったから、いよいよ時計を買おうと。自分自身へのご褒美でした」
この時計を身に着けるときは、“特別な時”だ。
「例えば、表彰式とかですね。自分もこういう時計を着けられるようになったんだと実感します。ただこの『デイトナ』は黒文字盤で、カジュアルな格好のほうが似合うと思うので、ジャケットスタイルだとあまり選ばないかもしれません。そういう時は、IWCの『ポルトギーゼ・クロノグラフ』を身に着けています」
IWCも元々、ずっと好きだった。機械式時計として、とても精密。そのうえデザインも美しい。でも若い頃には、自分にはまだ似合わないと思って、手を伸ばすことを控えていた。
「40歳を越え自分も大人になりました、という意味を込めて買いはじめました。ちなみに『ポルトギーゼ・クロノグラフ』を購入したのは、2014年ですね。ブラジルのワールドカップのときに、大会前に入手しました」
日本代表に、頑張って欲しいという気持ちを込めて、ブルーのアクセントが効いたこのモデルを選んだそうだ。
「大会期間中、特に日本代表の試合のときに、僕はブルーの服をたくさん着るので。針やインデックスがブルーだから、ブルー基調のコーディネイトにも合いますよね。僕はそういう時計の楽しみ方をしています」
カラーコーディネイトの視点から、時計を選ぶ
中西さんがもう1本持ってきてくれたのが、ロレックス『ミルガウス』。
「もともとはアンティークの『ミルガウス』を探していたんですけれども、当時、いい状態のものが見つからなくて。そんな時に、現行品の『ミルガウス』のデザインが一新されました。僕はグリーンが好きなんで、グリーンのロレックスが欲しいと昔から思っていたんです。洋服を選ぶかなとも思いましたが、『ミルガウス』のグリーンならば、服を邪魔しなさそうだなと思って」
稲妻型の針というのも、じつにポップ! 試着して、中西さんは一瞬で気に入った。色調が抑えめで、ディテールの小技が効いている。それが大人の審美眼にかなったのだ。
ちなみに、中西さんの時計の好みは、スタンダードモデルではなく、ギミックが効いているスペシャルモデル。『ミルガウス』の稲妻針のように、アイデンティティがはっきりとしているものが、スポーツマインドに響くのだろう。しかも、IWCの『ポルトギーゼ』しかり、ロレックスの『ミルガウス』しかり、実際に身につけたときのコーディネイトを押さえているところが、カメラの前に立つ人らしい。
「時計とは、自分を掻き立ててくれるようなものだと、僕は思っています。逆に言えば、それを腕にして気持ちがアガるかどうかが最重要ですね。今、改めてこの3本の時計を着けてみてアガったんで、自分が買ってきたものは間違ってなかったって確認しました。身に着けた瞬間に、スイッチオン! みたいな。仮面ライダーの変身ベルトとか、ウルトラセブンのウルトラアイみたいなものですね」
writer
土田貴史
ワールドフォトプレス『世界の腕時計』編集部でキャリアをスタート。『MEN’S CLUB』『Goods Press』などを経て、2009年に独立。編集・ライター歴およそ30年。好きが高じて、日本ソムリエ協会の「SAKE DIPLOMA」資格を保有。趣味はもちろん、日本酒を嗜むこと。経年変化により熟成酒が円熟味を増すように、アンティークウオッチにもかけがえのない趣があると思っている。「TYPE 96」のような普遍のデザインが好きだが、スポーツROLEXや、OMEGA、BREITLINGといった王道アイテムも、もちろん大好き。