所有のチューダー3本は人生の節目を彩ってきた
文=長谷川剛
時計好きに「あなたの時計、見せてください」と依頼するこの企画。今回は学生時代から足掛け30年ほど、変わらず機械式時計のファンであるという愛好家にインタビュー。人が羨むほどのコレクションをお持ちだが、なかでも思い出深く特別な存在となったチューダーに絞ってお話をうかがった。
周りはアメカジスタイル
時計の趣味はかなり若いころからとのことだが、当初はどういったモノからスタートしたのだろう?
「高校生の当時、僕の周りではアメカジスタイルが流行っていました、そういった服装に合わせるアクセサリーとして、ビンテージウォッチを着けることがひとつのお洒落だったのです。もちろん高校生ではそれほどまとまった予算もないので、アンティークショップや蚤の市などで探すことになります。1990年代は中古時計も今ほど値上がりしておらず、セイコー5などは5000円で買えるモデルも多かったんです。当時からロレックスは憧れの存在であり、エクスプローラーやサブマリーナーを着けている人もいましたが、大抵大人でした。そして先述のとおり、学生は使えるお金が限られているもの。そこで狙いを付けたのがチューダーだったのです」
当時は“チュードル”の名前で流通していた現チューダー。アメカジ仲間の先輩から奨められて、安井さんもビンテージのチューダーを手に入れたという。
「一番最初に購入したのは、手巻きオイスターデイトのいわゆるデカバラです。今でこそ30万円くらいするものもありますが、当時はヒトケタ万円。人によっては『ロレックスが買えない人のロレックスだ』などとも言われていましたが、1990年代まではケースやリューズがロレックスメイド等の説もあり、いろいろと話題に事欠かないのがチューダーの面白い部分。個人的にも非常にこのオイスターデイトを気に入って、30歳くらいまでは日常的に使用していました。このチューダーに出会ったことが、時計好きを本格化させたひとつの切っ掛けだと思っています」
友達のお父さんに譲り受ける
そして、もうひとつの思い出深いチューダーとなった一本が、白文字盤のプリンス オイスターデイト自動巻きモデル。聞けばこちらは、出会いという“縁”から手に入れた変わり種。
「このチューダーは友達のお父さんに譲ってもらいました。恐らく使用していなかった時計だと思うのですが、僕が時計好きであることを知って、気前よく渡してくれたのです。こちらはクリーンなルックスがポイントであり、大学を卒業し仕事に就いてからも愛用していました。ビジネス用のスーツスタイルなどに非常にマッチするんです。あまりに使いすぎて、分針の夜光が落ちてしまっており、良いショップがあれば修復したいと考えています」
そして今回3本目のチューダーとなるのが、このプリンスオイスターデイトのサブマリーナー、通称“青サブ”だ。こちらはファイアーキッズで購入した一本とのこと。
「もともとダイバーズウォッチが好きなんです。特にセイコーのファーストダイバーズはひとつの理想であり、プロスペックスの復刻版なども所有しています。実際に海に潜ったりするということでなく、回転ベゼルを配した防水モデルは、ルックスもタフで実用的にも優れていることから、プロダクトとしてリスペクトがあるんです。そういったことから、ぜひチューダーのダイバーズも欲しいと考え探していました。そして、あるときファイアーキッズがストックしていることをウェブページで知り、即駆けつけて購入したのです(笑)」
チューダーには過去から現在にいたるまで、数々のダイバーズモデルがリリースされてきた。なかでもこの“青サブ”に目をつけたのはどういった経緯だろうか。
39㎜か41㎜は大きい
「そもそも36㎜のサブマリーナーが欲しくて探していました。70年代や80年代のビンテージは、ケース径39㎜前後。そして現行のチューダーとなると39㎜か41㎜となってしまい、僕にとってはやや大きめ。またブラックベイなどの現行モデルにはリューズガードがありません。やはりチューダーのダイバーズは、リューズガードがあってこその完成度だと個人的に思っています。この1992年製のサブマリーナーは、しっかりリューズガード付きであり、王冠リューズに三連ブレス、裏ブタにロレックスの銘が入るなど、ポイントをしっかり網羅したパッケージ。そしてロレックスではブルー文字盤モデルのSSモデルを作っていないところも見逃せません。そういうことを踏まえ、この“青サブ”をチョイスしたというわけです。
学生時代から継続して、ずっと時計ファンであるという安井さん。ことあるごとに買い足してきたこともあり、そのコレクションは実に幅広く多彩だ。もしかして、これにて“打ち止め”ということもあるのだろうか。
「いや、まったくそんなことはありませんね(笑)。昨今はネット情報も充実しているので、それを利用しほぼ毎日探しています。最近はIWCの手巻き式ポルトギーゼを狙って捜索中です。時計趣味のほかには釣りやゴルフ等にも手を出しましたが、熱量をもって継続させているのはこの時計のみ。きっと本当に好きなのでしょう(笑)」
writer
長谷川剛
1969年東京都生まれ。エムパイヤスネークビルディングに所属し、『asAyan』の編集に携わる。その後(有)イーターに移籍し『asAyan』『メンズクラブ』などを編集。98年からフリー。『ホットドッグプレス』『ポパイ』等の制作に関わる。2001年トランスワールドジャパンに所属し雑誌『HYBRID』『Warp』の編集に携わる。02年フリーとなり、メンズのファッション記事、カタログ製作を中心とする編集ライターとして活動。04年、エディトリアルチーム「04(zeroyon)」を結成。19年、クリエイターオフィス「テーブルロック」に移籍。アパレル関係に加え時計方面の制作も本格化。