現行オメガ・ダイバーズに繋がる『シーマスター300』を語り尽くす!
出演:野村店長×藤井克彦(販売スタッフ)
最近出てこなくなった
今回はオメガの時計を1本に絞って深掘りしていこうという企画で、モデルは『シーマスター300』。いつものように藤井さんの問いかけからはじまった。「格好いいですよね?」。
「最近出てこなくなってきたね。何で?というと、いろいろあるんだけど。。。」
すると藤井さんが「それは後で話すとして『シーマスター300』はどういうモデルなんですか?」という質問が。
「オメガの中の本格ダイバーの最初のモデルですね。300という名前なのに200m防水。知ってた?」
これには藤井さんも驚く。「これは、いわゆるサードモデルですけど、最初から200m防水なんですか?」と。
「はい!」
では、この「300」というのはどこからきているのだろうか。
「おそらく、最初に300台の機械を使っていたから300じゃないかなと。そういうことなんです、おそらく。『サブマリーナー』が200m防水をうたう訳ですよ。ちょっとオメガも負けられなかったんでしょう、多分。だから300で200m防水」
モデル名だけでも300にしちゃえ、みたいな感じだったようだ。
「それだけ『サブマリーナー』に遅れをとった感はあったんじゃないのかな、と勝手に思っていますけど」。
つまり『サブマリーナー』の方が先に出てきて、オメガも本格的なダイバーズをつくらなくては、ということで、出したモデルということになる。
それで「『シーマスター120とかありますが、あれは120m防水なんですか?」との素朴な疑問が。
「正解。30もあるよね。あれは30㎜キャリバー。使い分けてるね。オメガ、頑張ってるね。ちょっとどうなのかな、という気もするけど。愛着湧くね。可愛い。でも、やはり頑張った時計ですよ。オメガは頑張ってるな、という。やはりスポーツシリーズで有名なものは『スピードマスター』『シーマスター』。基本、同じデザインのケースに入れてるところが良いよね」
このモデルも『スピードマスター』みたいな、ねじれたラグ、左右非対称の、という特徴を持つ。
「やはりオメガ的には、これぞオメガというデザインにしたかったんだろうね。これは意外と現行の『シーマスター プロフェッショナル』型と同じラグ。もちろん、リューズガードの部分とかは少し変わった感じはするけど、基本デザインは一緒。だから、本当に現行に繋がっている時計」
そう聞いて、藤井さんは「オメガはロレックスと比べて、特にそう感じるんです。時代によってデザインをすごく変えてるなと思っていたんですけど、この『シーマスター 300』とか『スピードマスター』とかに関して言えば、現行に近いケースのまま来ているんですね」との感想を。
「オメガはいろいろと脱線するんだけど、元に戻るのよ。結構、脱線した時計はいっぱいあると思うんだけど、本流に戻っている感じが。やはり『スピードマスター』も『シーマスター』もここに帰ってくるみたいな。脱線したモデルも面白いんだけどね」
脱線したのも格好いい
すると藤井さんは「僕は『ダイナミック』とかは好きですけど。あれは脱線オブ脱線じゃないですか?」。
「まさにそんな感じだよね。脱線したのも格好いいんだけど、やはり本流で『スピードマスター』『シーマスター』は、これ欲しいという時計じゃないかなと思います」
話を戻す。『シーマスター300』の特徴をいうと、やはりノンデイトなのだろうか?
「この個体はノンデイト。ノンデイトの方が圧倒的に少ない」
人気はどうなのだろうか?
「ノンデイトの方があります。あと、ブッぐトライアングルというものと、小さいものと両方ありますね。これは小さい方で、その代わりに数字「12」が入ってる」
「サードでもバリエーションはありますね」
ベゼルは1分刻み。ミリタリーっぽい。
「ベゼルもそうだし、針もミリタリーハンドと呼ばれていたりするんですよね。有名なのはイギリス海軍で採用したもの。ロレックスもこの手の針です」
ロレックスのミリタリーサブはこの形の針。オメガは何故にこの針にしたのか?
「それはイギリス軍の指定だったんだけどね。その針を使って一般仕様も出ているということがオメガです。逆にロレックスはミリタリーしかない。ロレックスのミリタリーが出てくると大変なことになってくるけどね」
シーマスター300にもミリタリーはある
5517とか?
「もう出てくると、うんざりするよね。昔、買っておけばよかったみたいなものを突き抜けてしまってる感じだよね。当時からなかったんですけど。怪しいのしかない、みたいな」
もちろん『シーマスター300』にもミリタリーはある。
「昔は、まだちゃんとしたものをちょこちょこ見かけた。ここ何年見かけてないかな。やはり、結構電話で“軍用の『シーマスター300』を持ってるんですけど”いくらぐらいつきますかね?というのがきて、“今は相当やばい値段になりますよ。数百万は間違いないですよ”って言って、それでお客さんがくると“残念”というぐらい、結構偽物も出回っている」
『シーマスター300』は軍ものに限らず偽物が出回っている。
「本当に昔、笑っちゃうくらい、このくらいの箱に『シーマスター300』が縦に何列入っていたんだろう。50~60本入りそうな箱に、偽物を持っているディーラーを見たことがある」
ディーラーが!
「ベトナム系の方。仕入れで香港に行った時かな。そんなの持って入国できるの?という。入ってきてしまってたんですね」
真偽はどこで比べる?
では、本物と偽物の明確な違いはどこにあるのだろうか。
「僕らは、もうパッと見てわかるんだけど、見慣れない人はどこで比べるのが良いんでしょうね。針の出来。結局、その辺の偽物は何に困るっていうと、機械は本物なんですよ。機械は本物で、それ以外が偽物なので、修理をすると機械はすこぶる調子が良くなったりするんだけど、針がいい加減につくってあるから、針が接触してしまったりとか、緩くなってしまって針とれちゃいました、とか。機械はちゃんとしているから、分解掃除をすれば機械の調子は良くなるんだけど、針がどうにもならないということが結構あるんですね」
「そもそも預からないので。昔、これ本物ですかね?みたいな相談を受けて、残念だったんですが。でも“これは知り合いで、すごく親切にしてもらった人から譲り受けたものなので、何とか使えるようにならないですかね?”って話で、機械は本物だから何とかなるかな、みたいな気持ちで修理を受けたんですが、どうにもならないんだよね、やっぱりね。結局、その人は本物の針を見つけて、その針を買ってもらって、とりあえず収まったんですけど。文字盤は機械に接着だし」
機械に接着?取れないのでどうするのだろうか。
「もう、次の修理は勘弁してください、みたいな。その人の気持ちを汲んで受けたものの、あとはちょっとどうにもできないな、みたいな。結局、針を見なければダメだね、というものが。後は裏蓋のシーホース。この“目”。目の形が明らかに違うから、そこだけでも知っておくと、意外と。偽物はまん丸なんですよ。本物のシーホースは目の形をしていて、眉毛がある。出はじめた頃に、どこで見分けるの?っていったら、そう言ってた。偽物をつくってる人がね」
昔からあったオールニュー
なかなかスゴい業界である。
「でも、昔はそういうものが結構あったよね。この個体はオールニューといって、メーカーのサービスパーツで全部固めてある。だから、防水性もしっかりしている」
もちろん、ブレスレットや機械の耐久性も問題ない。ムーブメントは当時のものだ。これは1968年製。見た目はヴィンテージ然。だが、機能性はバッチリという個体である。
「やはり文字盤の焼けとかがなく、新夜光なんでね、実用度は高いですよね。よく光ってくれます。正直、このオールニューというものも、昔は結構あったんです。要は、オメガのパーツを横流ししている人がいたんですよ。今は、もう完全にそういう縛りが厳しくて、出てこなくなってしまいましたね」
オールニューはメーカーに出してやってもらうのが本来である。でも、昔はパーツを持ってきて、自分たちでやってしまう人たちがいたようである。
「それはいました。ちなみにオーストラリア人ディーラーでした。同じ顔の時計を何本持っているの? みたいなね。でも、やはりその頃はオメガが一般にもパーツを結構出していたので、そういうものがちゃんとあったかな」
ということは、そういうことを普通にやっていい時代だったということだ。
「なので、横流ししていたのか、ちゃんと正規ルートで部品を発注していたのかは
わからないんですけど、ちゃんと純正品で組んであるので、これはもうメンテナンスはバッチリですよ」
野村、藤井、両氏も「いい時計!」と口を揃える。
海でバッチリ使える時計
「正直、僕はこういう夜光で光るものに抵抗感があるのですが、ただ、実用で考えたらこんないい時計はないので」
今オメガでは、このデザインのものは出ていない。
「やはり、自分は海に行くんだったら、海用の時計、みたいな、安い自動巻きの時計をセイコーで用意したりするんですけど、これだったら海に行っても全然。あまり浸からないで欲しいけどね。でも基本、防水性能はバッチリ。いい時計なんじゃないですかね。自分が使うかどうかは別の話として。でも実際、目の衰えは隠せないので、夜光で光ってくれると嬉しいな。これは本当に、ダイバーが暗い海の中でも見える針なので、老眼でも大丈夫」
文字盤も大きい。
「それって魅力的だな、いま思ったら」
ちょっと老眼になりかかった人にもオススメの時計である。
「本当にオメガの本流って感じですよね」
代表作『スピードマスター』に次ぐ傑作。
「いまの『プラネットオーシャン』とか、新品はあまり詳しくありませんけど、そのシリーズのベースデザインですよね」
オメガのダイバーズはここからはじまった?
「ここからはじまった訳ではないんだけど、このサードケースから続く流れがあるよね」