世間的な価値よりも“自分好み”を突き詰めて
文=長谷川 剛
時計好きに「あなたの時計、見せてください」と依頼するこの企画。今回はウエア系ヴィンテージショップのスタッフである特別なインフルエンサーにインタビュー。タケさんは古着のプロであると同時に“無限アパレル”の名義にて、独自のスタイルを発信する人気のYouTuber。今回はタケさんに、時計を絡めつついろいろなことを伺った。
4年ほど前に“無限アパレル”をスタートさせた
「僕はもともと岡山県の古着卸し会社に勤めるスタッフでした。業務として小売りを担当するなかで、SNSを販売ツールに使っていました。多様に発信していくうちに個人的な打ち出しも欲しいと考え、4年ほど前からYouTubeの“無限アパレル”をスタートさせたのです」
“無限アパレル”では古着にまつわる話題や着こなし指南に加え、ファッションインフルエンサー同士の対談、それにショップロケなどを中心に手広く配信していると言う。どれもタケさんの考えがしっかり一本の筋となったコンテンツであり、登録者数1.3万人というのも納得の、観ていてつい引き込まれる内容である。
「基本的には古着がメインとなる動画がほとんど。しかし自分好みであれば、なんでも飛びつくタイプです。また“何系の古着が得意”などの線引きもありません。とは言え、ひらすらニッチを追い求めています(笑)。服は誰もが自由に選べるアイテムです。誰に遠慮することなく“好き”をひたすら貫く面白さを、多くの人に届けたいと思っているんです」
そんなすべてにおいて個性全開のタケさんだが、意外にも(?)時計の趣味に関しては手堅く王道。IWCの50年代ヴィンテージを長く所有しているという。
「これは出張で東京に出掛けたときに手に入れたもの。今から10年ほど前に初めて本格時計として購入した一本です。自分は着るものの多くが古着であり、乗っているクルマも90年代の旧車。ですから以前からヴィンテージの時計に対しても一定の憧れがありました。チラチラ読んでいた雑誌では、ちょうど古いIWCを取り上げていたし、当時の先輩のひとりにIWCを着けている人がいて、それがめっちゃ格好良かったんです。そんな経緯から、出先で思いきって手に入れました(笑)」
投資的な目的で服やアイテムを手に入れることはない
タケさんが所有するIWCは、金無垢のシンプルな三針の手巻き式(cal.89)。砲弾型のインデックスやドーフィン針以外にデコラティブな要素のない、極めてミニマルなデザインがポイント。この日はせっかくファイアーキッズを訪れた縁もあり、試しに現在の価格を査定してもらったと語る。
「コレが思ったほど値は上がっていませんでした(笑)。リダンダイヤルということもあって、ちょっと想定外のお安め査定(涙)。しかし思い返してみると、今日着用してきたこのゴールドのコートも、数年前に手に入れたときは結構高値。しかし現在はというと、別に価値など付いていません。そう、僕はそういった投資的な目的で服やアイテムを手に入れることはないのです。でもソレでいいんです。直感で好きと思ったら迷わず選ぶ。そして自分らしくアレンジして楽しむ。これが僕の変わらない基本スタイルなんです」
今回の査定では思わぬ結果となってしまったタケさん。ただし、ファイアーキッズを訪れたことで得たものも多いと強調する。
「このIWCはわりと大事に扱ってきたアイテム。というか、結構寝かせていました(笑)。というのも、一張羅を意識しすぎてベルトをクロコダイルにするなど、よそ行き仕様だったんです。(ファイアーキッズの)店長さんに相談したところ、“ベルトをカーフに替えればもっと使いやすくなる”とのことで早速交換。ブラウンのイタリアンカーフにチェンジしたのですが、コレなら毎日使えそう(笑)。また、これまで防水などを気にするあまり、使わず仕舞いがちでした。しかし“ちょっと濡れたぐらいならそのまま腕からの体温で抜けるので、ソコまで問題じゃない”等のアドバイスも聞けました。やはりショップに出掛けてスタッフさんと色々話をするのは大事。ヴィンテージ時計は特にコワくないことが、今日よく分かりました(笑)」
これまで、積極的に時計専門店を訪れることのなかったタケさん。しかし今回ファイアーキッズを訪れて、かなり時計に興味が湧いたと振り返る。以下の2モデルは「無限アパレル」の撮影のなかで、タケさんが特に気になった時計とのこと。個性を重視しながらもしっかり足元を意識したチョイスが、人物をさり気なく物語っている。
writer
長谷川剛
1969年東京都生まれ。エムパイヤスネークビルディングに所属し、『asAyan』の編集に携わる。その後(有)イーターに移籍し『asAyan』『メンズクラブ』などを編集。98年からフリー。『ホットドッグプレス』『ポパイ』等の制作に関わる。2001年トランスワールドジャパンに所属し雑誌『HYBRID』『Warp』の編集に携わる。02年フリーとなり、メンズのファッション記事、カタログ製作を中心とする編集ライターとして活動。04年、エディトリアルチーム「04(zeroyon)」を結成。19年、クリエイターオフィス「テーブルロック」に移籍。アパレル関係に加え時計方面の制作も本格化。