【インタビュー】服装とのバランスから選び抜いたカシオとカルティエ
時計好きに「あなたの時計、見せてください」と依頼するこの企画。今回お話を聞いたのは、芸能人やアスリート、そしてファッションメディア等で衣装のスタイリングを手掛ける仲唐英俊さん。気鋭のファッションスタイリストが愛用する時計は、やはり一般人とは異なるエッジの効いたチョイスがひとつのポイントだ。複数コレクションする時計のなかでも、今回は特に思い入れの深いカシオとカルティエについてお話を聞くことができた。
切っ掛けはG-ショック
1982年生まれの仲唐さんは中学生時代にGショックブームを迎えた世代である。雑誌をはじめとする各種メディアで世界最強と喧伝されたタフウォッチを切っ掛けに、時計の道へ入っていった。
「確かにGショックはとても気になりました。しかしあまりに人気があったので、逆に少し引いたスタンスで見ていましたね。それよりも同じくカシオのデータバンクの方がお洒落じゃないかと。ただし当時中学生だった自分には、そちらも金額的に手が出せません。ですのでアジア生産のデータバンク風のデジタル時計を、安く手に入れ楽しんでいました(笑)」
学生時代は服装へのこだわりのほうに重点を置いた仲唐さん。改めて時計に対し前向きになったのは、スタイリストを目指して社会人となったタイミング。
「学校を卒業し社会人になった時分では、データバンク以外の時計知識もそれなりに増えていました。しかし、若いころに強く憧れた思いはそう簡単には消えません(笑)。ですので、いつかどこかのタイミングで買ってやろうと考えていました。いろいろ探すなかついに出会ったのが、当時原宿にあったチクタクというお店。希少モデルとしてコアな人気を得ていたレッド液晶のデータバンクを見つけて即時購入することに。プライスは確か1万2000円くらい。正直“少々高いかも?”と思ったのですが、“デッドストック”という売り文句に負けて買ってしまいました(笑)」
カシオの液晶式ウォッチには一般的なグレーカラーの他、逆輸入モデルとなるカラー液晶版が存在し、なかでも仲唐さんは赤色の液晶モデルが気に入っているのだ。最初の一本を購入した後もレッド液晶のデータバンクを探し続けたと振り返る。
「服装に関しても同様ですが、他人と同じスタイルではやはり面白くありません。Gショックではなくデータバンクを、そして一般的な液晶ではなく色つき液晶を選ぶところが自分流。昔から少し変わったものが好きなんです(笑)。またカシオのデジタルウォッチは、自身の普段の服装とも相性が悪くない。今も昔も基本は古着スタイルが自分の定番です。そんな装いにチープでレトロフューチャーなデジタルウォッチが、ほど良いアクセントとなるんです」
学生時代から継続的にお気に入りであったデータバンク。好きが高じてそのコレクションはついに3本となる。最後に手に入れたデータバンクは電卓機能付きのモデルだ。これは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公が作中で着けていた時計であり、仲唐さんは大のBTTFファンでもあるのだ。
「ただし、残念ながらすべて今はバッテリー切れ。数年おきに着けたくなると、3本一気に電池交換します。ですが、そうすると今度はバッテリー切れになるのも3本ほぼ同時(笑)。また、昨今はカシオに代わる時計を新たに手に入れたので、電池交換のスパンは少し長くなっているかもしれません」
スタイリストという業務をこなすなかでの変化
若い頃から長くカシオのデジタルウォッチを愛用してきた仲唐さん。スタイリストという業務をこなすなかで、時計に対するスタンスも少しずつ変化し本格時計に食指を伸ばすようになる。
「やはり仕事の現場によってはチープウォッチではサマにならない場合もあるワケです(笑)。その他ドレッシーな気分や大人のシーンに対応できるよう、新たに時計を買い足しました。それがカルティエです。時計自体をスタイリングするという仕事も多く、いわゆるスイスの高級時計なども数多く触れてきました。そういったなか自分が個人的に着けたいものとなると、いわゆる時計専業ブランドからは見つけられませんでした。ただし、カルティエの時計は非常にデザインも華やかで個性的。そもそも自分は時計を腕元のアクセサリーと捉えており、そう言う意味でカルティエはジュエラーだからなのでしょう、別格に感じる部分があります。スーツ姿にもエレガントにハマりますし、モードな着こなしにもスタイリッシュにキマるモデルを多彩に打ち出しています」
エレガントな時計を連発するカルティエのなかでも、特に仲唐さん好みであるのがタンクとサントス。
「こちらに関しても、自分らしくあえて王道ではないチョイスがポイントです。このタンクは反転ケースが特徴のバスキュラント。ドレッシーな着こなしのときはこの一本で腕元から格上げを図ります。そしてサントスの方はスクエア型でなく八角ベゼルのオクタゴン。ゴールドのビス留めブレスレットは、まさにアクセサリーのようなルックスです。カルティエらしい洒落感が楽しめる一本だと思い購入しました。特徴はメンズではなくボーイズやレディースなど小さめサイズであること。そもそも自分は手首が細く、いわゆるゴツめ・厚めの時計が似合いません。カルティエのボーイズやレディースくらいのサイズがしっくり馴染むのです。また腕元のアクセサリーとして考えると、このくらいの控えめなサイズ感がワル目立ちせず、すべてにおいてちょうど良いのです」
そんな仲唐さんだが、次にカルティエをさらに買い足すのであれば、タンクのミニサイズが欲しいとのこと。しかもタンク アメリカンのミニなどではなく、タンク ルイ カルティエのミニなのだそう。繊細なバランスにこだわり尽くすところが、いかにもプロのスタイリストといったチョイスである。
writer
長谷川剛
1969年東京都生まれ。エムパイヤスネークビルディングに所属し、『asAyan』の編集に携わる。その後(有)イーターに移籍し『asAyan』『メンズクラブ』などを編集。98年からフリー。『ホットドッグプレス』『ポパイ』等の制作に関わる。2001年トランスワールドジャパンに所属し雑誌『HYBRID』『Warp』の編集に携わる。02年フリーとなり、メンズのファッション記事、カタログ製作を中心とする編集ライターとして活動。04年、エディトリアルチーム「04(zeroyon)」を結成。19年、クリエイターオフィス「テーブルロック」に移籍。アパレル関係に加え時計方面の制作も本格化。