セイコーに対抗してきたシチズン。代表的な4本とともにその魅力を再解説
時計マニアが集まるFIRE KIDSのスタッフが、ヴィンテージ時計の魅力を伝えるYouTubeコーナー。毎回異なるテーマで、厳選されたモデルをご紹介する。
国産時計として「セイコーとシチズンはどっちが上?」と比較されることが多いが、今回は、優れた品質と技術力を持ち、クオリティの高い腕時計が比較的安価に手に入ることでも知られているシチズンに焦点を当て、FIRE KIDSの野村顧問とスタッフの新海がその魅力について改めて解説する。
セイコーの成長にも影響を与えたシチズン
「国産=セイコー」のイメージが強いかもしれないが、「セイコーが成長するのにはシチズンという存在があったからという部分は絶対的にある」と野村さんは言う。戦争の影響で時計産業が下火になり、そこから1950年代に復興していく中で、シチズンとセイコーがライバル関係に変化していったと考えられる。
「当時、タカノとかいろいろあった中で、シチズンが残り続けたのは技術力の高さですか?」(新海さん)
「それはあるよね、シチズンは天皇陛下に献上する懐中時計を作ってるわけだから。それに、海外のものをコピーをする能力は、やはり日本人の特徴じゃない? それはセイコーにもあったし、コピーをするにも技術力の高さというのが言えるよね」(野村さん)
「『マネて作る』というので劣ってしまうと、『結局スイスの方が良いんだね』となってしまうので、自分のものにする、形にするというところで、やはりシチズンは強かったんですね」(新海さん)
現行品で言うと、MIYOTAムーブメントという技術力もシチズンを強くする一因だったのではないかと新海さんは話す。「実は、この時計の中身はシチズンでした」という時計は世の中にたくさんあるとか。さらに、生産本数だけで見ると、セイコーよりも中価格帯、低価格帯が強いシチズンの方が多いかもしれないとも話す。
「クォーツ、機械式、GMTも最近出したみたいですし、色んなラインナップがある中で、世界中どこに出しても恥ずかしくないというか、汎用ムーブメントの中で1番コスパが良いのは正直セイコーよりも、シチズンかなと」(新海さん)
「新技術の開発もすごいよね。文字盤をソーラーパネルにしたエコ・ドライブとか、国内だと防水にいち早く取り組んだり、先行してガラスを採用したりとか。セイコーとお互いに切磋琢磨しているのが見て取れる。『シチズンがなかったらセイコーもない』みたいなところもあるかもしれない」(野村さん)
ジャガー・ルクルトそっくりな『アラーム』
シチズンの魅力を感じられる1本目は、ジャガー・ルクルトのアラームを意識したデザインが特徴的な『アラーム 1960年代製 14金張り 手巻き』。
「これはもう最高でしょう。そっくり作っちゃってるというところがね、でも性能が良いから。本家のジャガー・ルクルトからクレームがついてデザイン変更することになるんだよね。出来が良くなかったらさ、歯牙にもかけないと思うんだけど」(野村さん)
2時位置のリューズでアラーム(インダイヤル)の操作を行い、4時位置のリューズで時計の操作を行う。裏蓋の6つの丸穴はアラームの音を響かせる為の工夫で、ジリリリと虫の鳴き声のような音が出る。
「1960年代にセイコーが天文台コンクールで成績を上げて、国産の黄金期みたいなのが来るんだけど。その前の1950年代に、アメリカ市場に日本製の時計がたくさん輸出できたことで、開発によりお金が回るようになったという部分もあるんだよね。性能の良さと、安かったから売れたというのもあるね」(野村さん)
「セイコーもシチズンも1960年代に一気に花開くというか、高級品の生産に繋がってくるのかなという風には感じました」(野村さん)
イチから作り上げられたマニアック腕時計『クロノメーター』
2本目は「完全にグランドセイコーに対抗した時計だよね」ということで、国産腕時計最高峰の1つと言われている名機『クロノメーター 1964年製 ノンポリッシュ 31石手巻き』。
「ムーブメントが抜群に良いわけなんだけど、これは機械を見ないと始まらないよ。懐中時計かというぐらい天輪が大きい」(野村さん)
「グランドセイコーは、クラウンスペシャルというベースの機械をより高精度に改良したんだけど、これはイチから機械を作っているんだよね。この時計用に色々作っちゃってるから修理が厄介だったり、他の共用パーツが使えなかったりと、マニアックな時計になってるんだけど、この作りの良さ」(野村さん)
シチズンのクロノメーターの良さは「ムーブメント」と言われることが多いが、ケースやインデックスの作りにも細かいこだわりを感じる、非常に良い時計だ。
「ケースの良さが際立つ時計かなと。グランドセイコーより高精度を目指している1本だよね」(野村さん)
「シャキシャキですし、石数も31石と多いですね」(新海さん)
「メンテナンス性はグランドセイコーの方が良いけどそうじゃない良さがあったり。シチズンのクロノメーターを買うんだったら、コンディションの良さが重要。コンディションにこだわって買わないと修理で苦労するかも」(野村さん)
時代遅れ感が逆に良い。フライバック機能搭載『レコードマスター』
3本目は、『レコードマスター 1973年製 手巻き ブラックダイヤル』。セイコーに遅れを取ったから「なんか付けなきゃね」という感じでフライバック機能が搭載されたクロノグラフだと言う。
「これは抜群にカッコいいからルックスで買っていく人が多いんですけど、垂直クラッチを使っていたり、フライバック機能を付けていたり、後発だからこそワンポイントを足していて良いよね」(野村さん)
製造期間も僅か5年というレアなモデルだが、デザイン面でも商品化までに随分時間がかかったというレコードマスター。シチズンが意識したセイコーのモデル発売は1964年、レコードマスターは1960年代後半と、遅れを取った。
「外観のデザイン的には1960年代中盤っぽいデザイン。デザインは先に固まっていたけど、機械がなかなかできあがらなかったのかな? というのをケースのデザインから感じられる」(野村さん)
「もうクォーツが出ている時代にこのデザインってちょっと古めかしい。周りとは一線を画していてデザイン的にもカッコいい。むしろ『時代遅れ感』が良い」(野村さん)
レトロフューチャーされた『クロノメーター』
最後に紹介するのは『レオパール36000 1970年製/昭和45年製 Ref.4-720326 TA 純正ステンレスブレス』。
「セイコーより早くガラスも採用していたりと、そういったところがやはり売りだよね。でもセイコーはクォーツを作っちゃっている時代にやっと10振動」(野村さん)
「渋いですね」(新海さん)
「高振動化はセイコーの方が早かったんだけど、ガラスの採用はシチズンの方が早かったりとか、一長一短だよね」(野村さん)
28石10振動のハイビートムーブメントを搭載した準高級機で、キングセイコーに対抗したモデルだ。
「当時、21世紀には月旅行へ普通に行けるはずだったり、車は空を飛んでいるはずとか、そういう時代背景もあって『21世紀ってこんなデザインじゃないかな』みたいな、レトロフューチャーした時計の1つ」(野村さん)
「厚みも若干抑えていたり、日本人の細腕にすごく馴染む使いやすいサイズ感」(野村さん)
セイコーとともに国産時計を牽引してきたシチズン。腕時計を一般の人たちも買えるようにと、比較的手が出しやすい価格帯で優れた品質の時計を作り続けてきた。
『マネる』ことから始まったモデルも多いが、技術の面で本家を超える勤勉さや、新技術を生み出す強さも持っている。国産時計はセイコーだけではない。高品質で実用性、デザイン性を兼ね備えたシチズンも選択肢の1つにしてはどうだろうか。