ヴィンテージから読み解く、『グランドセイコー』が世界で愛される理由
時計マニアが集まるFIRE KIDSのスタッフが、ヴィンテージ時計の魅力を伝えるYouTubeコーナー。毎回異なるテーマで、厳選されたモデルをご紹介する。
今、世界の時計愛好家たちが注目している『グランドセイコー』。日本の精密技術と美意識が融合したこのブランドは、確実に世界市場で存在感を高めている。今回はFIRE KIDSの3人、野村・三好・パルティマが「グランドセイコーがなぜ世界で評価されているのか」を語り合った。
日本製腕時計が築いた信頼の土台
そもそも、今なぜ日本製の腕時計がこんなに人気があるのか。その理由について、FIRE KIDSの顧問であり、ヴィンテージ腕時計歴36年の野村に聞いてみた。
「やはり、クォーツを腕時計として実用化したのが日本、つまりセイコーだからだね。しかもセイコーは『自分たちだけのもの』にせず、設計図を公開したからね。スイスも生き残れたのはそういうところが大きいし、日本が世界の時計産業を支えてきたと言っても過言ではない」(野村)
日本の時計産業は「正確さ」と「誠実さ」で成長してきた。職人気質と技術革新を両立させたセイコーの姿勢は、海外のメーカーにも影響を与えた。単なる安さではなく、『信頼できる精度』が日本時計の評価を押し上げた。
グランドセイコーは別格。世界が気づいた日本の誇り
パルティマは最近、香港に行った際に、グランドセイコーの店舗が一流ブランドと並んでいる様子を見かけたという。
「そう、海外ではすでにそういう扱いになっている。セイコーの努力の結果でもあるし、ブランドとしての独立性を確立したのが大きいよね。トヨタのレクサス戦略と同じように、『グランドセイコーは別格だ』と打ち出したことが成功した理由だね」(野村)
グランドセイコーはもともと国内向けの高級ラインとして誕生したため、1960年代のファーストモデルはほぼ輸出されていない。当時、海外の人々が日本製品に求めていたのは「安価な実用品」であり、いまのように「高品質の日本製」が認められる時代ではなかった。

「要は、安い日本製が欲しいという感覚だったんだよね。だからグランドセイコーは輸出の対象にならなかった」(野村)
「でも今は逆ですよね。ヨーロッパやアメリカのコレクターの方が、日本以上に熱くセイコーを評価してくれる印象です」(三好)
「スイス一強の中で、日本製のクオリティは確実に認められているよね」(野村)
特にグランドセイコーは、「精度・仕上げ・デザイン」の三拍子がそろっていて、世界的な地位を確立したと言える。
世界を変えたクォーツ革命と、ヴィンテージGSの再評価
現在、グランドセイコーは非常に高い人気を誇っており、現行モデルに加えてヴィンテージモデルを求める愛好家も増えている。この傾向は今後も続くのか、という問いに野村は答える。
「いや、まだ評価は低いと思う。物の良さに対して価格が追いついていない。だから、これからまだ上がると思う」(野村)
現行のグランドセイコーが70〜80万円台であるのに対し、ヴィンテージは20万円前後から手に入るモデルも多い。しかし新品の価格上昇に伴い、ヴィンテージ市場も上昇傾向にある。「現行品が100万円を超えるようになれば、ヴィンテージも50万円くらいが相場になってもおかしくない」と野村は語る。
「確かに、海外のコレクターさんたちも結構増えてきましたよね」(パルティマ)
「海外の方は、日本の時計だから好きというより、ただただセイコーが好きなんですよね。ストーリーや哲学そのものに惹かれていて」(三好)
そんな中で、世界にグランドセイコーを知らしめたのが『61GS』や『56GS』などのモデルだ。1969年の12月、クォーツの登場で時計産業が激変する中、これらの自動巻きモデルは日本の技術力と美意識を象徴する存在となった。

「『クォーツアストロン』が40万円台という高価格で登場した一方、『グランドセイコー』は3万円台。当時はクォーツが上とされていたんだよね。特に『56GS』はデイデイト仕様が多く、輸出を意識して作られたモデルだね」(野村)

日本人は過小評価? グランドセイコーの真価とは
ボタン電池が手に入りにくい国では、機械式時計が重宝された。1970年代半ばまで修理体制が整っていなかったことを考えると、自動巻きモデルが根強い人気を持つのも当然だ。
「私たち日本人は、時計を選ぶ環境にも恵まれていると改めて感じます」(三好)
「その通り。今のクォーツ文化は日本の功績そのもの。でも日本人は日本の時計を過小評価している部分もあるよね。1980年代の映画でも、バーテンがタイメックスからセイコーに替えることで出世を象徴していたくらいだからね」(野村)
セイコーが築いた精度と信頼。その延長線上にグランドセイコーがある。ヴィンテージモデルを手に取ることは、単に時計を買うことではなく、日本のものづくりの誇りに触れることでもある。
「セイコーが今後さらに評価されるためには、ヴィンテージの修理対応などをしっかり続けていくことが大切だと思う。メンテナンス体制が整えば、グランドセイコーの地位はもっと上がるはず」(野村)
Q1.グランドセイコーは、普通のセイコーと何が違うのですか?
A1.グランドセイコーは、セイコーの中でも「最高精度と最高品質」を目指したフラッグシップラインです。
ムーブメント(機械)の精度基準が高く、ケースや針・インデックスの仕上げも一段上のグレードで作られています。ザラツ研磨と呼ばれる平滑な鏡面仕上げや、日本的な光の表現を意識したダイヤルデザインなど、「実用時計でありながら、工芸品レベルの仕立て」である点が大きな違いです。
Q2.初めてグランドセイコーを買うなら、現行モデルとヴィンテージ、どちらがおすすめですか?
A2.どちらが「正解」というより、求める体験で選ぶのがおすすめです。
現行グランドセイコー:
最新スペックの精度、防水性、耐磁性、保証など、安心感と実用性を重視する人向き。ビジネス用の一本として毎日ガンガン使いたいなら現行が快適です。
ヴィンテージ・グランドセイコー:
1960〜70年代のデザインやサイズ感、日本のものづくりの歴史を「手首で味わいたい」人向き。同じグランドセイコーでも、現代とは違う雰囲気を楽しめます。ただし、コンディションやメンテナンスの履歴を見極める必要があるため、信頼できるショップで買うのが前提になります。
Q3.ヴィンテージ・グランドセイコーを選ぶときに、特にチェックすべきポイントは?
A3.ヴィンテージGSは「状態」と「オリジナリティ」が重要です。代表的なチェックポイントは次の通りです。
ムーブメントの状態:
オーバーホール(分解整備)の有無や時期。最近整備されていると、日常使いしやすくなります。
文字盤と針:
リダン(塗り直し)かオリジナルか、汚れやヤケの具合。多少の経年変化は味として楽しめますが、違和感のあるフォントや印刷は要注意です。
ケースの痩せ具合:
研磨され過ぎてエッジが丸くなっている個体は、本来のシャープさが失われています。グランドセイコーらしい「キリッとした輪郭」が残っているかがポイントです。
部品の一致:
リューズやバックル、ケースバックの刻印などが当時仕様と合っているか。モデルごとの「正しい姿」を知っているショップで選ぶと安心です。
日本の技術力と美意識を象徴する『グランドセイコー』。ヴィンテージも現行品も、その精度と作りの丁寧さは、手にすることで実感できる。今後もグランドセイコーは、日本のものづくりの誇りとして、世界の時計愛好家に評価され続けるだろう。
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