オメガ フライトマスター Cal.910/911 パイロットウォッチ解説

2026.04.06
最終更新日時:2026.04.06
Written by 編集部

1969年、オメガはパイロット向けの本格的な航空時計「フライトマスター」を発表しました。GMT機能とクロノグラフ機能を一つのケースに統合したこの複雑時計は、3つのリューズと複数のインダイヤルを備え、航空計器のような情報密度を持つモデルです。

スピードマスターがNASAの宇宙計画で名声を得た同時期、フライトマスターは民間航空のプロフェッショナルに向けて開発されました。手巻きのCal.910からCal.911へとマイナーチェンジしています。

この記事では、フライトマスターの設計思想、搭載キャリバーの仕様、リューズ操作の仕組み、そしてコレクターズアイテムとしての魅力を解説します。

フライトマスターの設計思想

オメガ フライトマスター Cal.910/911 パイロットウォッチ解説

パイロットが求めた機能

1960年代後半、国際線の運航が急速に拡大する中で、パイロットにはタイムゾーンを跨いだ時刻管理と経過時間計測の両方が求められていました。GMT機能によって出発地と現地の時刻を同時に把握し、クロノグラフによって飛行時間やアプローチ時間を計測する。フライトマスターはこの二つの機能を一つの時計に集約しました。

3つのリューズという特異な構造

フライトマスターの外観で最も目を引くのが、ケースサイドに配された3つのリューズです。一般的な時計がリューズ1つで操作を完結するのに対し、フライトマスターではそれぞれのリューズに異なる機能が割り当てられています。

  • 3時位置のリューズ:時刻合わせとゼンマイの巻き上げ
  • 10時位置のリューズ:GMT針の操作
  • 7時位置のリューズ:内回転ベゼルの操作

この配置により、パイロットは操作したい機能に対応するリューズを直感的に選択できます。ケースの右側に3つのリューズが並ぶ独特の外観は、フライトマスターを一目で識別できるデザイン要素にもなっています。

回転ベゼルとGMTスケール

フライトマスターには24時間スケールが刻まれた回転ベゼルが備わっています。GMT針と回転ベゼルを組み合わせることで、最大3つのタイムゾーンを同時に読み取ることが可能です。

搭載キャリバー

オメガ フライトマスター Cal.910/911 パイロットウォッチ解説

Cal.910:手巻きクロノグラフ

フライトマスター初期モデルに搭載されたCal.910は、Cal.861をベースとした手巻きのクロノグラフムーブメントです。

項目Cal.910
巻き方式手巻き
石数17石
振動数21,600振動/時
機能クロノグラフ、GMT
パワーリザーブ約44時間
ベースCal.861

Cal.910の特徴は、GMT機能とクロノグラフ機能を一つのムーブメントに統合している点です。クロノグラフ部分はコラムホイール式ではなくカム式を採用しており、耐久性を重視した設計となっています。

Cal.911:手巻きクロノグラフ

1971年頃、フライトマスターのキャリバーはCal.911へとアップデートされました。

項目Cal.911
巻き方式手巻き
石数17石
振動数21,600振動/時
機能クロノグラフ、GMT
ベースCal.910

リファレンスの変遷

オメガ フライトマスター Cal.910/911 パイロットウォッチ解説

Ref.145.013:初代フライトマスター

1969年に登場した初代フライトマスターのリファレンスはRef.145.013です。Cal.910を搭載し、ステンレススチールケースに回転ベゼル、3つのリューズを備えた構成です。ケース径は約43mmと、1960年代末の時計としてはかなり大きなサイズでした。

文字盤はブラックが基本で、12時位置に「OMEGA」、すぐ下位置に「Flightmaster」の表記が配されています。インダイヤルは3つ配置され、それぞれクロノグラフの積算計と24時間計を表示します。

Ref.145.026:Cal.911搭載モデル

Cal.911への移行に伴い、リファレンスはRef.145.026へと変更されました。24時間計部分が60秒計に変更されています。

フライトマスターとスピードマスターの違い

設計思想の違い

スピードマスターとフライトマスターはどちらもオメガのクロノグラフですが、設計思想が根本的に異なります。

項目スピードマスターフライトマスター
主な用途宇宙・モータースポーツ航空(パイロット)
GMT機能なしあり
リューズ数1(+プッシャー2)3(+プッシャー2)
ケースサイズ約39〜42mm約43mm
製造期間1957年〜現行1969〜1977年頃

スピードマスターが経過時間の計測に特化したシンプルなクロノグラフであるのに対し、フライトマスターは複数のタイムゾーン管理とクロノグラフを統合した複雑時計です。この複雑さゆえに、操作には一定の慣れが必要ですが、パイロットが必要とする情報を一つの時計で完結できる点が最大の長所です。

コレクターズアイテムとしての魅力

短い製造期間

フライトマスターの製造期間は1969年から1977年頃までの約8年間と、スピードマスターやシーマスターに比べて短期間です。後継モデルが存在しないこともあり、総生産数はオメガの主力モデルと比較して少数にとどまります。

唯一無二の複雑機構

GMT機能とクロノグラフ機能を一つの時計に統合した設計は、同時代のオメガの中でフライトマスターだけに見られるものです。3つのリューズという特異な外観と相まって、コレクションの中でも際立つ存在感を発揮します。

よくある質問

Q: フライトマスターの3つのリューズは壊れやすいですか?

A: 3つのリューズは各機能を独立して操作するための設計であり、構造上の弱点とは言えません。

Q: フライトマスターのオーバーホールは一般の時計店で対応できますか?

A: Cal.910/911はGMTとクロノグラフを統合した複雑キャリバーであるため、これらの修理経験を持つ時計師に依頼することが望ましいです。レマニアベースのクロノグラフムーブメントに精通した工房であれば対応可能です。

Q: フライトマスターは日常使いできるサイズですか?

A: ケース径約43mmは現代の時計基準ではスタンダードなサイズですが、3つのリューズを含む全体の幅はそれ以上になります。装着感は腕周りとの相性もあるため、可能であれば実際に試着して確認することをおすすめします。

Q: フライトマスターにはどんなブレスレットが使われていましたか?

A: 純正では、オメガのステンレス製ブレスレット(Ref.1162/173など)が装着されていました。純正ブレスレットが付属する個体は、コレクション価値を高めるポイントとなります。

まとめ

オメガ フライトマスターは、1969年に登場したGMT機能付きクロノグラフパイロットウォッチです。3つのリューズ、複数のインダイヤル、24時間回転ベゼルという航空計器のような装備を備え、パイロットが必要とする時刻管理と計測機能を一つの時計に集約しました。約8年間という短い製造期間と後継なき唯一無二の存在感は、オメガのヴィンテージコレクションの中でも特別なポジションをフライトマスターに与えています。

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