【オーナーインタビュー】パリ・サンジェルマンで出会ったロレックスは生涯1本だけのお気に入り~HACHIYAクリエイティブディレクター 蜂谷雅彦

2023.04.27
Written by 福留亮司
鎌倉のご自宅で話す蜂谷さん。穏やかな語り口だ

「あなたの時計、見せてください」という企画。今回、時計を見せてもらったのはファッションブランドHACHIYAのクリエイティブディレクター、そしてコンサルタントでもある蜂谷雅彦さん。お持ちの腕時計はパリで購入したロレックス『エクスプローラー』。クリエイターが感じたその魅力とは?

鎌倉の素敵なお宅を訪ねる

 鎌倉を訪れた。今回登場いただくのは、この地にお住まいの蜂谷雅彦さん。HACHIYAというファッションブランドのクリエイティブディレクターや、ライフスタイルのコンサルタントなどで活躍中の人である。

 この取材は蜂谷さんのお宅で行ったのだが、まず、現在住まわれている鎌倉の家がとっても素敵だった。もう、こんな家に住んでいるのだから、時計も素敵なものを持っているに違いない、と取材する前に確信を持ったほどである。

 なので、まず家の話からうかがった。鎌倉の海をのぞむ素敵な場所にある古民家をリノベーションした木造建築は、朱色の瓦と木の外壁が印象的であった。

「ここには2019年の3月にリフォームを終えたので、その後、引っ越してきました。なのでコロナ禍はここで。海へ行き、砂浜を散歩したりで、結構快適に過ごしていました。ちょうどいい感じで引っ越したな、と思いましたね」

 そもそも東京、中目黒のマンションに住んでいた蜂谷さんは、鎌倉に引っ越す気などなかったのだが、友達に鎌倉の不動産屋さんを紹介してもらい、内覧にきて、この家を見つけたのだそうだ。

「別の物件を見せてもらっていたんですが、帰り際に海が見える場所にリノベしてから売るつもりの古民家がある、ということを聞いて見にきたんです。まずこの景色を見て“こんなところがあるんだ!”とビックリして。リノベするとお金がかかるのはわかってたんですが、その場で『これください』と言っちゃってましたね」

この空気の中に溶け込めたい

 室内はスケルトン状態だったという。古民家然とした外観を残しつつ、仕上げられた建物は、誰が見ても“素敵”だと思えるものになっている。

「外観は残しました。外壁はやり直してますが、瓦なんかは、綺麗にしてそのまま使っています。まず、この空気の中に溶け込めたいと思ったので」

 蜂谷さんについては、冒頭で現在の仕事について触れたが、鎌倉に移る頃は、仕事から引退するつもりだったという。

 それまでの経歴を聞くと、ずっとラグジュアリーブランドに携わっている。トゥモローランドにはじまり、そのイタリア駐在員。イタリアでアンテプリマへ移籍し社長職。それから独立し、ご自身のブランドを立ち上げ4年間活動。その後帰国して、フェンディ、フェラガモ、グッチで仕事をし、アレキサンダー・マックイーン日本法人の社長を最後に引退するつもりだった。しかし、ファッション業界は放ってはおかない。

「同じような海外ブランドのマネジメントという仕事のオファーがきました。が、そこはもういいって感いいで、すべてお断りしました。それで世界を旅行したり、家を買ってからは設計とかにずっと携わっていました。大きなオモチャを買ってしまったので(笑)」

 そして、一昨年の秋にご自身のファッションブランド、HACHIYAを立ち上げ、現在はクリエイティブディレクターを務めているということだ。

パリのサンジェルマンで見つけた逸品

1960年代のものと思われるロレックス『エクスプローラー』

 そんな蜂谷さんがお持ちの時計は、ロレックスの『エクスプローラー』である。

「いい時計が欲しいな、とは思っていたのですが、なかなかいいのが見つからなくて。自分がデザインの仕事をしている関係もあるのか、好きなものの範囲が本当に狭いんです。ディテールが自分の思いと少し違っただけでもダメなんです。そんななか見つけたのが、この『エクスプローラー』。パリのサンジェルマンにアンティークショップが何軒かある裏通りがあるんですが、その中の一軒のショウケースにこの1本だけ、ガラスの箱に入れて飾ってあったんです」

 いまから30年ほど前で、蜂谷さんもまだ若かった。なので、それをそのままの価格で購入するお金はなかったという。それでも諦めきれず、翌日、また見に行ったのだという。

「このアンティーク時計は光が差してました。基本バイヤー職だったりしたので、ものを選ぶということに関しては早いんです。いいものは光が差すことになっているんですよね。だから、もうこれだと思ったので、交渉して少し値段を下げてもらいました。それで購入できたんです」

ブレスレットは旅客機の座席に挟まって一度壊れたので2代目とのこと。1970年代のものが装着されている

 蜂谷さんは長年ラグジュアリーブランドにいて、いろんなモノを見てきたと思うのだが、いままでで気に入った時計はこれ1本だけだという。

 また家の話に戻るが、室内のソファ、テーブルなどの家具や壁にかけられた絵画まで、すべてがとてもセンスを感じさせてくれるものだった。蜂谷さんの経歴に加え、家の雰囲気も相まって、お持ちの『エクスプローラー』が、それまで個人的に抱いていた印象以上のものに見えてきた。

 以前、「何を着るかではない、誰が着るかが重要なのだ」というようなキャッチコピーを見たことがあるが、まさにその通り。蜂谷さんがつけていることで、この『エクスプローラー』の価値がさらにアップしたように見えたのだった。

 

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福留亮司

福留亮司

編集者・ライター。ファッション誌の編集に携わり、『エスクァイア日本版』副編集長を経てフリーに。2011年には『GQ Japan』シニアエディターを務める。現在、時計、ファッション、クルマなど、ライフスタイル関連を中心にフリーの編集、ライターとして活動。昨年より『ファイアーキッズマガジン』編集長に。

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