時計職人も絶賛するオメガのヴィンテージ:初めの1本には『シーマスター』を選ぶべき理由
出演:野村店長×クリス(販売スタッフ)
ファーストヴィンテージにオススメの『シーマスター』
気合い充分なクリスさんが「今日はオメガの『シーマスター』について語り合いましょう!」と投げかけて始まった今回は、“シーマスター尽くし”でお届けする。
「初めて買ったアンティーク(ヴィンテージ)が『シーマスター』だった」と語る野村店長。16歳の時に1970年前後くらいの『シーマスター』をフリーマーケットで手にしたという。価格は驚きの2万円! 「99%の人がクォーツの時計を使っている時代だったので、ちょっと変わり者でしたよね」と買った当時を振り返る。
そして腕元を見ると「珍しく『シーマスター』を着けている!」と野村店長。少々取ってつけたような感じではあるが(笑)撮影の日は雨が降っており、偶然にも防水性の高い『シーマスター』をチョイスしていたようだ。
するとクリスさんが「他のモデルもあるなかでなぜ『シーマスター』を買ったのか?」と尋ねる。
「とにかくオメガの時計が欲しかった。でも新品が高いのはわかっていた。16歳で買える時計はたかが知れているから、2万円台で買える時計は『ジュネーブ』や『シーマスター』くらいだったんだよね」(野村店長)
それでは、初心者こそ注目だというヴィンテージのオメガ『シーマスター』を3本紹介する。
珍しい黒文字盤『シーマスター ギョウシェブラックダイヤル』
1本目は『シーマスター ギョウシェブラックダイヤル』(1953年製 手巻き Cal.420 2759-2SC)ギョウシェとは文字盤に用いられる立体模様のことで、クリスさん曰くブレゲが開発したデザインだという。
「ブラックのダイヤルでゴールドのインデックスとか、シルバーのダイヤルでもゴールドのインデックスとか。特にギョウシェとの組み合わせは1950年代らしいよね。他のメーカーでも多いかな」(野村店長)
文字盤はブラックだがやや緑がかって見えるため、野村店長は「苔が生えているみたい」と表現する。確かにモスグリーン(苔の緑)が混じったような色味だ。
続いて裏蓋や側面を見ていく。
裏蓋は、シンプルなスナップバックを採用。防水機械体は1940年代初期の『シーマスター』と同じ構造だという。スナップバックでもパッキンを入れることによって防水性能が担保されている。
「ラグ足はいかにも『シーマスター』という顔だよね」(野村店長)
「ベゼルとラグ足が同じ幅。『コンステレーション』みたいなドレスっぽさじゃなく、スポーティー感が出ますよね」(クリスさん)
「良いところに気づいたね。ベゼルとラグ足の太さ。そこはバランスが大事だよね。バランスが悪い時計って見ていて落ち着かない」(野村店長)
スポーツモデルは大きめに作る傾向があるが、これも当時としては大きめのサイズだったのだろうか。
「1940年代くらいまでの主流は30mmくらい。1950年代は一回り大きくなっている。お金持ちがする時計として、パテックフィリップの『カラトラバ』が30mmくらいで出てきて、小さくて高精度な時計だった。1950年代になると視認性を重視して32〜35mmくらいまで大きくなるんですよね」(野村店長)
野村店長に似合いそうな『シーマスター ギョウシェブラックダイヤル』だが、「黒文字盤はあまり着けないですよね?」とクリスさん。野村店長は「歳取ると針が見えなくなる。でも視力は1.2とかあるから!」と笑う。
その昔、良いメーカーの腕時計を買えるのはそれなりの歳の人が多かったことから、針が見えづらい黒文字盤は少なかったようだ。しかし今は、その格好良さから黒文字盤を探している人も多いという。
スペシャルな『シーマスター クロノメーター』
続いて紹介するのは、野村店長が「スペシャルな時計ですよ」と語る『シーマスター クロノメーター』(1969年製 Ref.166.010 SP)。
「今の人はクロノメーターに感銘を受けないかも知れないけれど、昔はクロノメーターってすごいことだった。正確な時間はテレビの時報や電話で確認していた時代に、正確な時計だったのがクロノメーターなわけですよ」と絶賛する野村店長。
クリスさんは「自分は日時計から研究を始めたんですけれど、砂時計や水時計、あとは教会の鐘。そこからだいぶ進化してここまで精密なものになったのはすごいですよね」と時計の歴史を振り返る。
大昔のクロノメーターは天文台で検定を受けて合格したものを指していたが、後にクロノメーター検定所が開設。検定所の試験をクリアしたものがクロノメーターと認定されるようになった。
野村店長は「1960年代には10万個連続でクロノメーター試験に合格している。それだけ欠陥品がなかったということでしょう? すごい話だよね。そしてオメガの何がすごいのか——。良いものが安い! これが20万円アンダーだよ」と舌を巻く。
クリスさんが「シャキッ!シュッ!パチッ!」と表現するケースの裏蓋には、気密性の高いスクリューバックを採用。そして「最初から自動巻きの『シーマスター』もあるんですか?」とクリスさんが質問する。
「あるんです! 『シーマスター バンパーオートマチック』でスモールセコンドだよね」(野村店長)
「スモールセコンドが付いた時計はヴィンテージ感もあって良いですよね。スモールセコンドの上にChronometerとかObservatoryとか書いてあったらパーフェクト!」と語るクリスさんだが、「それロレックスじゃない?」とツッコミが……(笑)。
ロレックスではバブルバックで厚みがあったケースの頃に、オメガでは初めに紹介した『シーマスター ギョウシェブラックダイヤル』くらいの厚みで自動巻きを出しているという。
「バブルバックは値段がバンと上がるけれど、オメガはそんなに上がってない。そう考えるとオメガは良くできたものを安く売っている。何で安いかというと、たくさん売れたから。この『シーマスター クロノメーター』もそう。やはり売れた時計は割安感があるよね」(野村店長)
「売れているということは、それだけ支持されているんですね」(クリスさん)
オメガの現行モデルは“コーアクシャル”と呼ばれるメーカー独自のムーブメントを採用している。摩擦を低減する構造により、高い精度とエネルギー効率を大幅に改善したものだ。そのため、メンテナンスする場合はメーカー送りとなる。
「2000年代半ばくらいに出た頃はメンテナンスしなくて良いくらいの触れ込みだったけれど、4〜5年するとちょっと遅れる傾向があった。だいぶ改善されたとは思いますがね」(野村店長)
一方で、ヴィンテージのオメガはメンテナンスやオーバーホールしやすいといわれている。野村店長も「メンテナンスするのはどこの時計が良いか?の話になると、みんな『やはりオメガは良いよね』と言うよ。時計職人さんからオメガのメンテナンスが嫌だという話は聞いたことがない」と話す。オメガは昔から職人にも支持されているようだ。
本格ダイバーの『シーマスター300』
3本目に紹介するのは、サイズ感のある本格ダイバー『シーマスター300』(1967年製 3rdモデル Ref.1660.024-67)だ。いつも紹介する時計が欲しくなるクリスさんは、今回も「これ買います!」と勢いよく話しながらベゼルをカチカチと回す。
「この頃のロレックス『サブマリーナー』なんかはベゼルがスルスル動くタイプだけれど、これは『シーマスター300』の3rdモデルといわれる後期型で、ねじ込みリューズだしベゼルもカチカチいうし良いよね!」(野村店長)
主張のあるインデックスとベゼルに施された夜光は経年変化で焼けた印象があり、それがまた良い雰囲気を醸している。そして、矢尻の秒針や、Bold(大胆)と表現する存在感のある佇まいがクリスさんの好み。先日、本マガジンでも紹介したシチズンのダイバーが目に留まったクリスさんだが、同様にオメガのダイバーもいたく気に入った様子だ。
ケースはツイストラグを採用。左右非対称で『スピードマスタープロフェッショナル』の4th以降と同じタイプのケースだという。そして、大きめのリューズも目を引く。
「リューズの大きさもバランスが大事。時計が大きくてリューズが小さいとバランスが悪く感じることがあるけれど、これはもう抜群」(野村店長)
ちなみに、野村店長は『スピードマスタープロフェッショナル』を持っているが、使わずに家に眠っているようだ。
「1990年代の頭に買ったやつなんだけれど、見るたびにこんなに夜光が焼けていたかな?みたいな……。みなさん日焼けと思いがちかもしれないですけれど、実際のところは勝手に変質していくんです。もちろん日が当たれば紫外線の影響もあると思います」(野村店長)
左腕に着ける人が多いため、袖に隠れる左側に比べてリューズがある右側の方が変色しやすいもよう。ヴィンテージ時計は経年変化が見られるのもおもしろい。
最後に野村店長は、初心者ほど『シーマスター』を購入するべきだと力説する。
「今でこそ非防水として売っているけれど、もともとは防水性が高い頑丈なケースでしょう? これはロレックスの『オイスター』も一緒で、中のコンディションが悪いものが少ないのよ。特にウチみたいにケースの状態にこだわって仕入れていると、ほぼ直らないものはない。初めての人ほど一発目でコケると、もうアンティーク(ヴィンテージ)はいいや……となってしまいがち。だから最初の1本は『シーマスター』を選ぶと良いです」(野村店長)
ダイバーの『シーマスター300』は100万円越えだが、『シーマスター ギョウシェブラックダイヤル』は26万8千円、『シーマスター クロノメーター』は19万8千円と比較的安く手に入る。そして、精度が高く知名度もあるオメガの『シーマスター』は誰からも一目置かれる時計だ。
野村店長は「特にこれといったものがなければ『シーマスター』を買えば間違いない」と太鼓判を押す。ヴィンテージ初心者は注目してみてはいかがだろうか。