奥深いパテック フィリップ『カラトラバ』の世界に触れる
文=戸叶庸之
パテック フィリップの基幹コレクション『カラトラバ』から、現代のライフスタイルにもフィットする ホワイトゴールドケースの自動巻きモデル、Ref.3445ついて解説する。
美観と実用を完備する35mm径のドレスウォッチ
パテック フィリップはその長い歴史において、複雑機構からクォーツまで腕時計のほぼすべての分野で成功を収めてきた稀有なブランドであり、その中心に立つのが、かの有名なカラトラバ・スタイルである。
そのルーツは、“今日のあらゆる腕時計の模範”とされる、1932年に誕生したラウンド型ケースのRef.96にある。Ref.96は、直径30mm強の小ぶりのドレスウォッチであるが、力強い針やインデックスのデザインなどに加え、ベルトの幅が太いため、着用すると数字以上のサイズに感じられる。
調べれば調べるほど実感するのだが、『カラトラバ』の世界は奥深い。
実は、『カラトラバ』という呼び名は、古くからあったわけではなく、この数十年の間で呼ばれるようになったもので、それ以前は基本的にはリファレンスナンバーで識別されていた。Ref.96ひとつとっても把握できないどのバリエーションがあり、先日フィリップスの時計オークションに出品された清朝最後の皇帝・愛新覚羅 溥儀が所有していた1937年製のRef.96 QLは、4900万香港ドル/620万米ドル(日本円で約8億8880万円)という驚異的な価格で落札されたことが大きな話題を呼んだ。
話を戻すと、『カラトラバ』は確かにコレクタブルな側面を持つタイムピースあることには違いないが、落ち着いた価格で購入することができる場合が多く、実用的なドレスウォッチとして選択するも妥当だろう。
かなりマニアックな話になるが、たとえばRef.96の場合、圧倒的にイエローゴールドの製造本数が多いのだが、この時代の高級時計の主流はイエローゴールドのだったため、これは至極当然の話である。これよりも希少なピンクゴールドやホワイトゴールドのモデルもあるが、レア度に関してはステンレスチールの方が遥かに上回る。
今回紹介する18KホワイトゴールドケースのRef.3445は1975年製の個体というだけあって、Ref.96とは趣がだいぶ異なる。第一に注目すべきポイントは、35mm径のケースサイズにある。Ref.96よりも二回り大きいケースは、現代のライフスタイルやファッションにもすんなりと馴染んでくれる。
もうひとつRef.3445の大きな強みが、スクリューバックであることだ。ヴィンテージウォッチの大敵である防水性能は、かなり厄介でたとえダイバーズウォッチでも日常生活防水レベルで考えのが妥当だろうし、実際に非防水であることもある。この点からもRef.3445は一押しできる。
搭載されたCal.27-460Mは、パテック フィリップ初の自動巻きムーブメントCal.12-600ATを薄く軽量化したムーブメント。つまり、この薄型のケースフォルムはCal.27-460Mがあるからこそ成り立つわけだ。
最後にデザイン全般に触れてみよう。Ref.96と比べると搭載されたムーブメントの違いがあり、6時位置に日付表示が付くなどレイアウトは大きく異なる、ケースデザインも然りだ。薄型のケースに合う直線的かつストレートなラグも特徴に挙がる。
結論を述べると、Ref.3445は美観や実用などの面からもフォーマルはもちろん、現代的なジャケットやスーツに違和感なく馴染む。パテック フィリップの入門機としても最適な1本だろう。
【オーナーインタビュー】パテック フィリップ『カラトラバ』はミニマリストな生き方に最高の相棒だ〜
writer
戸叶庸之
神奈川県出身。大学在学中に出版社でのアルバイトからマスコミ関係の仕事に携
わる。その後、カルチャー誌、ファッション誌で編集・ライターとして活動をスタート。Web媒体は黎明期から携わり、藤原ヒロシ氏が発起人のWebマガジン「ハニカム」、講談社「フォルツァスタイル」などの立ち上げに参加。現在は、各種メディアで執筆、編集、ディレクションのほか、Webマーケティングや広告案件に従事。時計については、趣味でヴィンテージロレックスを収集しつつ、年代やジャンルを問わず、様々な角度から高級時計のトレンドを常に追いかけている。