手巻きが売れている? 人気の理由・自動巻との違いをヴィンテージ腕時計屋が再解説

2024.04.24
Written by 編集部

機械式時計の駆動方式には「自動巻き」と「手巻き」の2つがあり、ニーズが高いのは断然便利な自動巻きだが、手巻き腕時計も根強い支持を得ている。今回は、ヴィンテージ腕時計歴30年以上のスタッフ2名が「手巻き」人気の理由や魅力について、自動巻きと比べながら再解説していく。

手巻きの魅力は「シンプルさ」と「手動」の楽しさ

最近、腕時計を販売していると「手巻き時計が良いね」とお客さんからよく聞くというスタッフの松浦さん。手巻きは、時計を動かす動力であるゼンマイの巻き上げをリューズ操作によって行うので、自動巻きよりも使用に手がかかる。少し前だと、手巻き腕時計は「面倒くさいな〜」と言われることが多かったので意外に感じていると話す。

「『自動巻きだったら欲しかったな〜』みたいな」(野村店長)

「ここ最近手巻きが来ているんですよ。あとはノンデイトを探している方も増えました」(松浦さん)

「ノンデイトもそうなんですけど『よりシンプルなものが欲しい』という部分があるかな。それと、やはり時計好きな人って時計に触りたいわけじゃない?」(野村店長)

手巻きは薄型で軽量であることから、シンプルで美しい「デザイン」が際立ち、またゼンマイを自分で巻くことで時計に触れる「楽しさ」が魅力ではないだろうか。色んなものが便利になっていく世の中で、使い勝手が良すぎるものは飽きやすかったり、興味の引きが早かったりする場合があるが、逆に「面倒くさいのが良い」みたいなところが「手巻き好き」に刺さっているのかもしれないとも話す。

「『巻き上げる時の動きが好き』とか、それを見ながらお酒を飲むみたいな話は聞いたことがあります」(松浦さん)

「『たまに巻いてみようかな』という楽しさは手巻きの時計の方があるかなと思っていて。自動巻きでも手巻きできるんですけど、感触が違うよね」(野村店長)

「手巻きはカリカリ感がありますよね」(松浦さん)

単純に手動の楽しさだけではなく「各メーカーが参入しやすいのは手巻きなんですよ」と、メーカー側に手巻き推したいという思惑があるのではないかと野村店長は言う。今の流行を作る雑誌や新作の発表の場では、スケルトンの時計が増えてきている。

「自動巻きムーブメントはどうしてもローターで隠れる部分が大きくて、観賞用として考えた時に『やはり手巻きの方が楽しいよね』という部分は絶対的にあるよね。それで巻いているところで『機械がちゃんと動いている』みたいなね」(野村店長)

「その分部品が少なくて済んだりとか、設計がシンプルで良いみたいな」(松浦さん)

「手巻き人気はメーカーの策略に乗っている部分と、FIRE KIDSに来る愛好家たちはマニアックで手巻き好きというね。そういう部分と両方だと思うけどね」(野村店長)

「ヴィンテージの巻き上げる感触というのはなかなか良くて。カメラは今でこそデジタルが9割以上でしょうけど、男の人は機械ものが好きで、いじるのが好きだったりしますからね」(松浦さん)

機械式時計の駆動方式「自動巻き」「手巻き」はどちらもおすすめ?

「自動巻き」と「手巻き」どちらがいいの? と思っている方は少なくはないのではないだろうか。一概にどちらが良いとは言えず、個人の好み、その人次第ではあるが、自動巻きは基本的に着けていると巻き上がるので「便利さ」を求める人は主流の自動巻きを選ぶ場合が多い。しかし、松浦さんは意外と手巻きが便利とも感じていると言う。

「複数本持っている場合、手巻きは自分のペースで動かすことができるけど、自動巻きは使わずに『止める』というところに対して抵抗感がある。強迫観念じゃないですけど、カジュアルさが違うんですよね」(松浦さん)

「ワインダーをかけるのはやめた方が良いですよ」(野村店長)

「それ言いますよね。ワインダーはなんでダメなんですか?」(松浦さん)

「だって動かしていれば、摩擦は必ずあるわけじゃない。定期的に分解掃除してくれていれば良いんだけど、定期的に分解掃除しないでワインダーにかけちゃう人いるのよ」(野村店長)

油切れ状態のままワインダーにかけて動かしていると、時計内部に大きな負担がかかり故障の原因になってしまうので、使い方は要注意だ。ゼンマイは絞られている時間が長ければ長いほど反発力が落ちていき、ゼンマイが切れやすくなったりする。そういう意味では「動かさない方が良い」とも言える。

「昔は機械の油の品質が良くなかったから、1ヶ月に1回は最低でも動かす必要があったけど、今の油は1ヶ月で固まるなんてことないからね。5年動かさなければ劣化しますけど、半年、1年寝かしたからどうってことないからね」(野村店長)

「昔はワインダーで、並べて動いている様子を見るのが楽しいとかありましたけどね」(松浦さん)

「時計も現金化しやすい時代で危険なんでね。そういうのは避けた方が良いんじゃないかなと勝手に思ってます(笑)」(野村店長)

手動で「ゼンマイを巻き上げる」これが「手巻き」愛好家たちの心をくすぐる大きなポイント。毎日決まった時間に巻くと精度も安定するので、日々のルーティーンにしつつ、巻き上げの感触や音を楽しみながら使ってもらいたい。

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