現代のオメガ・シーマスターはダニエル・クレイグボンドとのコラボでさらなる人気を獲得している
印象的なコラボレーションと共に、世界的名声を得る
オメガの人気モデル『シーマスター』の誕生は『スピードマスター』と同じ1957年に『シーマスター 300』として登場している。当時から200mの防水性能を誇っていたこのモデルの原型は、第二次世界大戦中、英国軍に供給されていた軍用ダイバーズウォッチ『マリーン』ということになる。このモデルには、すでに裏蓋にねじ込み式が使用されていた。
そんな『シーマスター』は印象的なコラボレーションと共に、世界的名声を得ていった。古くは英国のガルフ石油が行った深海油田調査、「ヤヌス計画」での『シーマスタープロフェッショナル600』、通称「プロプロフ」の使用である。600m防水を誇るこのモデルを複数のダイバーが装着し、深海250mで1日4時間の過酷な作業を8日間おこなうというもの。そこで故障せず、高い防水性と耐久性を示したことで、ダイバーズウォッチとしての高いポジションを確立したのだった。
そんななか、もっとも成功し名声を得たのが、映画『007』シリーズでのジェームズ・ボンドの着用である。1995年の『007 ゴールデンアイ』でピアーズ・ブロスナンが着用して以降、最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のダニエル・クレイグまで、すべての作品でボンドの腕には『シーマスター』が巻かれているのだ。
これは、当時オメガのマーケティング部長に任にあったジャン=クロード・ビバーの仕掛けであったと言われている。彼は、のちにウブロでフージョンコンセプトを打ち出し、トップブランドへと導いた時計界のカリスマである。
007シリーズは、53年にイアン・フレミングが英国秘密情報部(MI6)のエージェントを主人公とする小説『カジノ・ロワイヤル』からはじまった。現在も大人気の映画は、62年にショーン・コネリーがジェームズ・ボンド役を演じた『007は殺しの番号』が最初である。
影響はスーツやクルマ、そして腕時計にまで及ぶ
映画が公開されると、ボンドの立ち居振る舞いに世界中の人々が虜となった。その影響は彼が愛用しているスーツやクルマ、そして腕時計にまで及ぶことになる。近年ではダニエル・クレイグのボンドが好評で、彼が身につけているアイテムが大きな注目を浴びている。
ボンドはオックスフォード大学出身の元海軍将校であり、英国MI6のカリスマスパイ。持ち物も一流ばかりなので、憧れるのは当然かもしれない。ダニエル・クレイグボンドでは、クルマはアストン・マーティン、スーツをはじめウエアはトム・フォード、そして腕時計はオメガ『シーマスター』である。
ここでは人気のダニエル・クレイグ・ボンド着用モデルについて話を進めたい。
彼が劇中で着用している『シーマスター』は、どこかヴィンテージ感がある。たとえば最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』で使用されている『シーマスター ダイバー300M』は、本来モダンな印象が強いのだが、彼の腕元のモデルは文字盤に波模様がなく、プレーンなエイジドブラウンカラーが採用されている。さらにその文字盤とベゼルはアルミが採用され、デイト表示は廃されている。シンプルかつ、レトロな要素が満載なのである。
そこにはヴィンテージ『シーマスター』から継承されてきた伝統が息づいている。
ダニエル・クレイグボンドの作品とモデル
ここからは、各作品とシーマスターモデルについて確認していきたい。
まずは『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)である。これはダニエル・クレイグの1作目となるもの。使用されたのは2モデル。冒頭のマダガスカルの追跡シーンでは、ブラックダイヤル、ラバーストラップ仕様の『シーマスター プラネットオーシャン』を装着し、激しいアクションシーンをこなしている。そして、もう1本登場するのが『シーマスター ダイバー300M』。モンテネグロに向かうシーンで登場している。列車内で「いい時計してるね、ロレックス?」「いや、オメガ」というシーンは印象的であった。その後、タキシードを着たカジノ・ロワイヤルの場面に移るので、ダイバーズの中でもドレッシーな1本といえるだろう。
続いて2作目が『007/慰めの報酬』(2008年)。冒頭のシーンは、ボンドのアストン・マーティンDBSとアルファロメオ159とのカーチェイス。14台ものDBSが破壊されたと話題にもなったシーンである。ここでのボンドは『シーマスター プラネットオーシャン』のブレスレット仕様で登場。前回は45.5㎜径のモデルだったが、42㎜と少し小振りなケースに変更されていた。今作からウエアもトム・フォードに変更。そして、拳銃もワルサーPPKと、原点回帰を思わせるもの使用している。
そして3作目がアデルが歌う主題歌がヒットした注目作、『007/スカイフォール』(2012年)である。ボンドカーは1960年代の作品以来というアストン・マーティンDB5を使用。ヴィンテージ感もあり、ヴィンテージウォッチファンには好感を持ってもらえる作品だといえる。腕時計は『シーマスター プラネットオーシャン』と『シーマスター アクアテラ』の2モデルが登場。どちらも印象的なシーンで使用されている。スーツはトム・フォード。ウエアとの相性も良かった作品だった。
次は『007/スペクター』(2015年)だ。プレタイトルですでにブルーの『シーマスター アクアテラ』が登場しており、クルマは前作に続きアストンマーティンDB5が登場。その後DB10も使用されている。途中『007/ゴールドフィンガー』(1964年)へのオマージュなのか、ボンドは赤いカーネーションを胸に白いタキシードを着用。その後に着用する『シーマスター 300』も、ブラック&グレーコンビのNATOストラップであり、どことなくレトロ調となっている。
最後に、最新作にしてダニエル・クレイグボンドの見納めとなった『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)。今作のボンドウォッチは、ダニエル・クレイグ最後の作品ということもあって、彼とオメガが密に連携をとりながら開発が進められたという。着用の『シーマスター ダイバー300M 007エディション』には、頑丈さと軽量さを併せ持つグレード2チタンを採用。ダニエル・クレイグも「ミリタリーを背景に持つ007のような男性にとっては、軽量化された時計がキーポイントになる。また時計に個性的なエッジをきかせるために、ヴィンテージ風のデザインとカラーも提案した」と語っている。