ヴィンテージウォッチとの付き合い方 腕時計の耐衝撃性能

2022.03.23
Written by 鈴木 文彦

機械式腕時計の進化にあたって、衝撃は乗り越えなければいけない壁だった。そして、現在でもなお、機械式腕時計を使うにあたって、衝撃は注意すべきことのひとつだ。

耐震装置とはなにか?

機械式腕時計の中を見たことはあるだろうか? まさに吹けば飛ぶような、目を凝らさないと見えないような、小さな金属片のようなものが、拡大してみると歯車だったり、髪の毛のように細い金属線が、その伸縮によって、正確な時を刻む心臓部だったりする。

これほどの精密な機械の集合体が、腕にあって、重力や振動に耐えているのが腕時計なのだ。

とりわけ、時計の心臓部で、重要なパーツをつなぎ合わせている中心軸「天真」は、振動や衝撃の影響を受けやすい。しかも、その直径はわずか0.1mm。腕時計、いや、懐中時計の時代から、衝撃によって天真が折れてしまう、それによって、時計としての機能が停止してしまう、という課題を小さな時計は抱えていた。そして、この問題を解決するべく生み出されたのが、耐震装置と呼ばれる機構だ。

耐震装置のついていない懐中時計の内部

この耐震装置は、天真を受け止めている人工ルビー製の穴石、受石を、バネで押さえるという構造。衝撃が加わると、バネの弾力が、衝撃を受け流し、天真にのみに衝撃が集中してしまうのを防ぐ。そして、耐えられないほどの衝撃が加わった場合は、バネが外れることで、穴石・受石を飛び出させて、天真を守るのだ。これで、天真が折れる、という事態ををかなり防ぐことができるようになった。

1930年代にスイスでおこなわれた盛んな研究から生み出されたこの装置は、1940年ごろから実際に時計に搭載されていった。この装置は、インカ社が開発したことから、今日でも「インカブロック」と呼ばれる。単純ながら、性能が高い耐震装置の基本形として、いまも使われ続けている。

ただし、このインカブロックとその派生装置でも、万全とは言い切れない。だから、現在に至るまで、様々な耐震装置が開発されている。現在、有名なものでは、ロレックスなどが採用する「キフショック」、2005年にロレックスが開発した「パラフレックス」などがある。

写真中央右の、やや紫がかっている人工ルビーを金属で押さえているところが耐震装置。こちらは1989年から現在まで造られているロレックスの3135というムーブメントで、キフショックを採用している

ヴィンテージウォッチを使うにあたって、衝撃で気をつけるべきこと

とはいえ、機械式時計の耐震装置に、完璧といえるようなものは現時点ではない。

だから、衝撃は、なるべく時計に与えないほうがいい。ヴィンテージウォッチにおいては、1930年代 、40年代の時計は、耐震装置がなく、少しの衝撃でも深刻なダメージを受ける場合がある、ということを覚えておこう。少しの衝撃、というのは、たとえば、姿勢を崩して壁に手をついた、という程度の衝撃でも、この時代の時計は「天真折れ」してしまうことがある、ということだとFireKidsのベテランたちは言う。

また、これはヴィンテージウォッチに限らない話だが、耐震装置がある時計でも、落とす、というのは基本的にNG。また、バイクのような継続的に時計がゆすられる環境で、あるいは、ゴルフやバッティングのような瞬間的に大きな力がかかる場合に、時計をし続けるのは、破損の可能性がある。こういうときには、時計を外そう。

とはいえ、大事に使っていても、なにかの拍子に、衝撃を与えてしまうことはありえる。そういう場合、振動数でも衝撃への耐性がかわってきて、毎秒6振動以下の、ロービートと呼ばれる時計の方が、8振動以上のハイビートよりも、衝撃には弱い傾向にある。これについては

「フリスビーやフラフープ、あるいはコマのようなイメージで、回転運動は高速のほうが安定しやすい、とおもってください。」

そして、定期的なメンテナンス、オーバーホールで機械が本来の性能を発揮できている状態のほうが、衝撃の場合でも、耐えてくれる可能性が高まる。

とはいえ、衝撃をあたえてしまって、少しでも不安があったら、放置せず、FireKidsに持ち込もう。

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鈴木 文彦

鈴木 文彦

東京都出身。フランス パリ第四大学の博士課程にて、19世紀フランス文学を研究。翻訳家、ライターとしても活動し、帰国後は、編集のほか、食品のマーケティングにも携わる。2017年より、ワインと食のライフスタイル誌『WINE WHAT』を出版するLUFTメディアコミュニケーションの代表取締役。2021年に独立し、現在はビジネス系ライフスタイルメディア『JBpress autograph』の編集長を務める。趣味はワインとパソコンいじり。好きな時計はセイコー ブラックボーイこと『SKX007』。

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