ブーツメーカー小島親が語る、腕時計。“古び”は唯一無二の味わい
文=長谷川剛
時計好きに「あなたの時計、見せてください」と依頼するこの企画。今回は新進のブーツ職人であり、同時にファッションに関するYouTubeも発信している小島 親さんにインタビュー。次世代のクリエイターが興味を抱く時計のエッセンスについてうかがった。
注目の靴職人のお気に入り
小島さんは東京・世田谷に拠点を構える靴のメンテナンスやケアをメインに行う名店「ブラス」の出身。そのショップにて経験を積み、米国ワークブーツの雄であるレッドウイング勤務を経て独立。2023年の春に、自身のブーツブランド「Aristocrat(アリストクラット)」を立ち上げた注目の靴職人だ。奇しくも新たな工房をファイアーキッズ本店にほど近いエリアに構えたとのことで、非常に縁を感じる人物。そんな小島さんは男らしくも上質さを漂わせるクラシックなブーツを手掛けるクリエイターにして、ファッションにも一貫したこだわりを持つ高感度男子である。
「アメリカのビンテージウエアが昔から好きなんです。ただし昨今は古着だけでなく現行のアイテムもチェックしています。最近で言えば浅草のG&FCo.というショップの服もかなり素晴らしいと思いました。やっぱり自分の作る靴がアーリーセンチュリーなテイストのブーツですので、服も時計も同じようなエッセンスを持つものを選ぶことが多いのかもしれません」
取材当日小島さんは、自身の作であるアリストクラットのブーツで登場。確かに外羽根パンチドキャップトゥかつメタル鳩目の一足は、力強くクラシカルな印象。ビンテージウォッチと非常に好相性な取り合わせだ。そして気になる小島さんの愛用時計に関しては、現在5、6本を所有しているとのことで、今回のインタビューのために、お気に入りの2本を特別にお持ちいただいた。
「最近買ったお気に入りがこのハミルトン。恐らくは1930年代のモデルで、非常に味わいある小振りのクッションデザインや、コブラ風の太針が気に入っています。ネットで探して見つけたものであり、出品説明の時点で動作不安定と紹介されていました。しかし、デザインや雰囲気がかなり自分好みだったので迷わず購入。現在、一応動いてはいるのですが動作に不安があるので、そろそろオーバーホールに出そうと思っています」
ショップで探すことはあまりない
もうひとつが25石のエルジン オートマチック。こちらもネットで見つけて手に入れたもの。
「時計は気になるアイテムのひとつですが、ショップに探しに行くことはあまりありません。ネットで探すことがほとんど。夜間のちょっと手の空いた時間にネットサーフィンがてら、ついつい検索しちゃうんです(笑)。やはり目に留まるのはアメリカンブランドの古いモデル。自分のファッションともマッチしますし、ビンテージウォッチは年月を経たことの“古び”が非常に魅力的。洋服の場合だと汚れになってしまうことも多いのですが、時計の場合は味に変化します。長い時間を経て濃い味わいを身に着けた時計が気になるんです。このエルジンはきっと個性的でもあるのでしょう、自分のYouTube撮影時などに身に着けていると、『どこの時計ですか?』と聞かれることもあるんです」
ひょっとして今日お持ちいただいていない所有時計もアメリカンブランドなのだろうか?
「はい、その通り(笑)。ハミルトンやエルジンです。そもそも一番最初に買った時計がハミルトンのベンチュラ。ミッドセンチュリーならではの独自性あるデザインに一発で惚れ込んでしまいました。アメリカンなビンテージスタイルの時計に興味を持ったのは、そのベンチュラが切っ掛けのような気がします。エルジンに関しては、以前ナトーバンドを付けたミリタリーモデルを持っていました。そちらはあまりに気に入って使い込んでいたら、風防が突然外れてしまい……。結局秒針も紛失し、少し残念な結果になりました(笑)。これからはそうならないよう、きちんとオーバーホールを受けて、長く使っていきたいですね」
小島さんにとって時計とはどういうアイテムなのだろう?
「個人的にはファッションを完成させるアクセサリーのようなもの。だからやっぱり選びのポイントは全体的なデザインにあります。なかでもビンテージウォッチは現行品にはない、年月を経た存在感が大きな魅力。洋服の場合は10年もするとヘタレが目立ってしまいがち。しかし時計は汚れではなく味わいに昇華する。これからもビンテージウォッチは、ことあるごとに探したいなと思っています」
そんな小島さんが、今回ファイアーキッズでの YouTube撮影の際に、ショップの展示品のひとつをチョイスした。それが1940年代のティソ。シリンジ型の青焼き針やスモールセコンドがクラシカルな一本だ。「小振りケースと味わいある文字盤のカラーやスッキリしたデザインが目に留まった」とのこと。ひょっとしたら、小島さん初のスイス時計コレクションが生まれるかもしれない。
writer
長谷川剛
1969年東京都生まれ。エムパイヤスネークビルディングに所属し、『asAyan』の編集に携わる。その後(有)イーターに移籍し『asAyan』『メンズクラブ』などを編集。98年からフリー。『ホットドッグプレス』『ポパイ』等の制作に関わる。2001年トランスワールドジャパンに所属し雑誌『HYBRID』『Warp』の編集に携わる。02年フリーとなり、メンズのファッション記事、カタログ製作を中心とする編集ライターとして活動。04年、エディトリアルチーム「04(zeroyon)」を結成。19年、クリエイターオフィス「テーブルロック」に移籍。アパレル関係に加え時計方面の制作も本格化。