パテック フィリップとアンティーク オーデマ ピゲ2本使いの才女〜ソムリエ・蓮實真知

2023.08.30
Written by 鈴木 文彦

文=鈴木文彦

時計好きに「あなたの時計、見せてください」。今回、時計を見せてもらったのは、ソムリエ 蓮實真知さん。愛用の時計はパテック フィリップ『TWENTY~4』。シンプルかつ上質な装いに溶け込む時計使いとは? さらに、スイスで手に入れた珍しいアンティークのオーデマ ピゲも。

CAからバー経営まで、多彩な女性の装い

「本業は会社員なんですよ」

冒頭にソムリエと紹介したのも間違いではない。蓮實真知さんは多才な人物なのだ。元々は、大手航空会社のCAさん。会社員というのは、蓮實さんが現在、企業の飛行機の専属CAであるという意味だ。

もちろん、ソムリエでもあって、日本ソムリエ協会認定ソムリエ。ほか、ワイン関係の複数の資格をもっている。さらに、日本酒のきき酒師、酒ディプロマの資格も。いずれも、ひとつとるのも、それほど簡単ではない資格だ。くわえて、チーズと書道の資格まで……いったいどんなモチベーションで?

「父から小学五年生までに将来を決めろ、といわれていて、CAになると決めていたんです。当時はまだ、インターネットもなかったので、本を読んでいたら、読んだ本にCAはソムリエの資格をとる、と書かれていて、それでソムリエになることも決めていたんですよ」

なんとも、すごい教育方針……そして蓮實さんは、当時決めたとおりにCAになり、その後、すぐにソムリエ資格を取ろうとした。しかし

「ソムリエ資格って5年間、プロとして仕事をしていないと取れないって知らなくて! それでイギリスのワインの資格を先にとったんです」

と、ころころと笑う。イギリスのワインの資格、というのは「WSET」という資格で、世界的にワイン業界で現状もっとも権威ある資格だ。それから次々と資格をとっていったのだそうだ。

「食に関することは自分の生活が豊かになるので」

と言う。現在は会員制のバーのエグゼクティブソムリエをつとめ、ほかにもワインリストの制作を請け負ったり、食関係のイベントを企画・運営したりしている。副業で。

そんな彼女の腕にブレスレットのように巻かれているのが、パテック フィリップ『TWENTY~4』。ステンレススティールの、バンドと連続したトノー型のケース。ダイヤルとケースサイドには小粒のダイヤモンドが並んでいる。

「こういう派手じゃない色が好きなんです」

この日の装いも、モノトーンの服装に小さなダイヤが花の形をつくる指輪とネックレス。金属はいずれも銀色で、モノトーンを崩していない。

「ネックレスも指輪も変えたりしないし、ピアスの穴も空いていないんですよ」

と、この日が特別というわけではなく、常に装いは飾り気がない様子。そこに、多彩な才能を組み合わせる、高度なコーディネートなのだった。

珍しいダブルネームのアンティークのオーデマ ピゲも

Twenty~4を手に入れたのはいまから2年ほど前。それ以前は誕生日プレゼントでもらったというオーデマ ピゲ『ロイヤル オーク』の34mmモデルを使っていた。

「ただ、もうちょっと気軽に、普段づかいできる時計が欲しいとおもって、Twenty~4を選んだんです。クォーツで使いやすいですし」

と、Twenty~4は誕生日に自分で買ったという。Twenty~4を気軽な普段づかい、というのはちょっと贅沢だけれど、女性ならではの着こなし。

ソムリエは仕事柄、お客さんのそばにグラスをもった手を差し出すことから、手もと・腕もとでオシャレをする人が多い。ワインの知識はもちろんだけれど、ソムリエは飲食店のホールの長。お客さんにいい時間を過ごしてもらうエンターテイナーなのだ。派手すぎず、グラスに触れるなどといった仕事の邪魔はせず、上質。スーツを着用する男性の場合、そんな発想から、薄く、シンプルな、つまりドレスウォッチを選びがちだけれど……

「このTwenty~4を買ったのと同じぐらいの頃にフライトでスイスにいったとき、ボロボロだったこのAPを買ったんですよ」

と、見せてくれたのが、まさに、薄く、小ぶりでシンプルな手巻きのドレスウォッチだった。

「まわりにダイヤがついている時計が好きで、いま、エメラルドグリーンのベルトを友達の職人さんに作ってもらっているところなんです」

早速、写真を撮っていると、フォトグラファー・高梨 秀樹氏が

「これ、チューラーとのダブルネームですね」

と気づいた。スイスの老舗高級宝飾店チューラー(TURLER)がオーデマ ピゲに発注した、いわゆる別注モデルのようだ。正確な製造年は不明だけれど、オーデマ ピゲの表記も「AUDEMARS, PIGUET GENÈVE」となっている年代物だ。1950-60年代くらい? 本人もそんな希少な品だとはおもっていなかったそうで、意外な事実が発覚した。

ところで、海外に行くことも多いお仕事。GMTのような時計は欲しくならないのだろうか?

「私にとって時計は、時間を確認する実用品ではあるけれど、シンプルなデザインが好きで、日付もいらないんです。いまは、この時計のベルトが出来上がるのが楽しみで、そうしたら2本を交互に使おうとおもっています」

ブレスレットをしているわけでもないし、その手首にふさわしいのは、最低限の機能性と装飾性を兼ね備えた腕時計、ということのようだ。

シャンパーニュはブラン・ド・ノワール派!

ちなみに海外経験豊富な蓮實さんに、旅の先輩として世界のどんなところが好きなのか聞いてみると……

「実はCAってなかなか、行った先でのんびりできることはないんです。多い時は1カ月に10日くらいは海外で過ごしていますけれど、フライトが連続するんですよ」

ということで、仕事ついでに観光、という素人がCAに抱く華やかなイメージは、実際は違うらしい。

「でも、食べることが好きだから、気になるお店があれば海外にでも行っちゃいますよ! 好きな街はやっぱりパリですね。歩いているだけで幸せな気持ちになれるから」

パリはワインも揃いますしね!

「ワインで言うと、2020年にオスピス・ド・ボーヌで名前入りのワインを造っていただいたんですよ」

オスピス・ド・ボーヌは毎年11月にブルゴーニュで開催される、ブルゴーニュワインのオークション。最大の目玉はリリース前の出来たてのワインを樽買いできること。熟成を経てリリースされるときには、ボトルにオリジナルラベルを貼ってもらえる場合も多く、ブルゴーニュワインファンはこの時期、ブルゴーニュに赴いて、樽買い、というのが夢なのだ。1樽はワインボトル300本相当。価格も高いし、量も多いので、一人で全部飲む!という人はそうそうおらず、共同購入したり、お店が買ってお客さんに売ったりするのが一般的だ。

やっぱり蓮實さんもブルゴーニュワイン好き?

「ブルゴーニュも好きなんですが、一番好きなのはシャンパーニュで、シャンパーニュには何度も行っています」

好きな造り手を聞くと「ボランジェ」の名が。

「007のイメージもありますけれど、私にとっては、ボランジェは、現在のボランジェの基礎を作ったのがマダム・ボランジェことエリザベス・リリー・ボランジェなんです。女性の作ったシャンパーニュ・メゾンだということ、そしてなにより、シャンパーニュのピノ・ノワールが好きなんです」

ボランジェはピノ・ノワールを極めたシャンパーニュ・メゾン。シャンパーニュでも最良のピノ・ノワール畑をもち、手塩にかけて育てたブドウの潜在能力を最大限開花させる。その際に、樽を巧みに使うのがボランジェのユニークネスで、シャンパーニュでは樽を使うのがそもそも結構、めずらしいのだけれど、ボランジェの場合、なんと樽の管理、運用のために、樽工房を持ち、社内に樽職人がいるほどで、シャンパーニュにおける樽文化を受け継ぐ企業として、フランス政府から「無形文化財企業」という認定を受けている。

「コクと深みのあるシャンパーニュが好きなんです。シャンパーニュが好きな方には爽快なブラン・ド・ブランが好きな方も多いですけれど、私はブラン・ド・ノワール! 夏でも飲みますよ」

と、聞いて「そうか、蓮實さんはブラン・ド・ノワール(=黒の白)なのだ」とおもった。一見エレガントな白ワイン色のシャンパーニュ。しかし、その果汁は黒ブドウ(ピノ・ノワール)から来ていて、味わいは力強い。それは、黒い服装を白い上着で覆う装いもそうなのだけれど、なにより、実力をひけらかさない、人間としてのスタイルが、ブラン・ド・ノワールっぽい。

writer

鈴木 文彦

鈴木 文彦

東京都出身。フランス パリ第四大学の博士課程にて、19世紀フランス文学を研究。翻訳家、ライターとしても活動し、帰国後は、編集のほか、食品のマーケティングにも携わる。2017年より、ワインと食のライフスタイル誌『WINE WHAT』を出版するLUFTメディアコミュニケーションの代表取締役。2021年に独立し、現在はビジネス系ライフスタイルメディア『JBpress autograph』の編集長を務める。趣味はワインとパソコンいじり。好きな時計はセイコー ブラックボーイこと『SKX007』。

記事を読む

ranking