カルティエ『タンク マスト ドゥ カルティエ』は遊び心あふれたデザインが楽しめるモデルだ!
文=戸叶庸之
カルティエの腕時計を代表するロングセラー「タンク」からブランドの認知拡大に大きく貢献した「タンク マスト ドゥ カルティエ」について解説する。
カルティエの普及に大きく貢献したディフュージョンモデル
カルティエ代表作「タンク」が、カルティエの3代目当主ルイ・カルティエが1916年のソンムの戦いで使用された戦車からインピンスピレーションを受けて創作されたことはあまりにも有名だ。1919年に発表されたファーストモデルは、ブレゲ針を持つ正方形のケースが特徴だった。
現在のレクタンギュラーケースが登場したのは、初期タンクの5大ファミリーに数えられる「タンク ルイ カルティエ」からであり、「タンク」をイメージを広める大きな役割を果たした。
それから1970年代に入ると、「タンク」は大きな転換期を迎える。それまで貴金属ケースの手巻き時計として展開されていたのだが、コストダウンを図り、シルバー製のケースに金メッキを施したヴェルメイユケース仕様の「タンク マスト ドゥ カルティエ」を1977年に発表された。サイズ展開は「タンク ルイ カルティエ」と同様、SMがレディス、LMがメンズ用となる。
ちょうどその頃は、ファッション史にその名を刻む天才イブ・サンローランが、オートクチュール(注文)から打って変わってプレタポルテ(高級機制服)を推進していた時期と重なる。アーヴィング・ペンやホルストらの著名な写真家が撮り下ろしたイブ・サンローランのポートレイトでは、「タンク マスト ドゥ カルティエ」を着用していることが確認できる。
ヴィンテージウォッチとしての『タンク マスト ドゥ カルティエ』の魅力を簡単にいくつか挙げると、第一に製造本数が多かったことからこなれた価格で購入できる点が挙がる。次に無数にあるダイヤルのバリエーションに注目しよう。この点も『タンク ルイ カルティエ』と大きく異る。
ここでの一押しは、ファイアーキッズでも非常に人気があるブラックダイヤルだ。『タンク』の歴代モデルを振り返ると、ブラックダイヤルを採用していたモデルはかなり限らることが分かる。ローマンインデックスのモデルもあるが、こちらのダイヤルはブランドロゴのみで構成されている。すっきりしたデザインゆえ、現代のファッションとも非常に好相性なのである。ファイヤーキッズでも非常に人気があるモデルなのだ。
writer
戸叶庸之
神奈川県出身。大学在学中に出版社でのアルバイトからマスコミ関係の仕事に携
わる。その後、カルチャー誌、ファッション誌で編集・ライターとして活動をスタート。Web媒体は黎明期から携わり、藤原ヒロシ氏が発起人のWebマガジン「ハニカム」、講談社「フォルツァスタイル」などの立ち上げに参加。現在は、各種メディアで執筆、編集、ディレクションのほか、Webマーケティングや広告案件に従事。時計については、趣味でヴィンテージロレックスを収集しつつ、年代やジャンルを問わず、様々な角度から高級時計のトレンドを常に追いかけている。