ロイヤル オークのような本物を身につけることこそ、生きるうえでの真剣さに響く 

2023.11.21
Written by 土田貴史

文=土田貴史

時計好きに「あなたの時計、見せてください」という企画。今回、時計を見せてもらったのは、ウルトララグジュアリー輸入車ブランドのゼネラルマネージャー山本貴之(やまもと・たかゆき)さん。山本さんは「モノにはパワーがある」と話し、それゆえ自身も本物にこだわるという。

シンプル・イズ・ベスト。だから普段は『ロイヤル オーク』

山本貴之さんが腕にしているのは、オーデマ ピゲ『ロイヤル オーク』。いま他人に時計を勧めるならば、オーデマ ピゲが第一候補と話す。

「デザインに無駄がなく、削ぎ落とされているのに、綺麗。シンプル・イズ・ベストな1本だと思うんです。ルックスはスポーツウォッチではないんですが、オクタゴンベゼルがどことなくスポーティ。そういう背反性もいい。自分自身、最近はどこに行くにもこの時計を着けていますね」

山本さんが時計に興味を持ち始めたのは、20代の頃。年配の時計好きの方に影響され、高級時計の存在を知ったそうだ。

「その人はポールニューマンモデルから何から、多彩なモデルを保有していた人。じつは自分が一番最初に、自動車を買いに行った店舗の社長さんなんです。その社長さん曰く、『若いときにロレックスを買っていれば、その後、自分が何かのときに、そのロレックスを人にあげるとか、きっといいことがあるよ』って教えていただいて……」

そのアドバイスを守り、山本さんが最初に手に入れた高級時計は、ロレックスのRef.16264『サンダーバード』。当時の山本さんは25歳、今からおよそ20年ほど前の話だ。

「ほかにも時計にハマったのには理由があります。もともと僕は、カメラ、車、バイク、家具がとても好きだったんですよ。そして先の時計好きの社長さんの言葉がずっと頭に残っていて。それは“モノにはパワーがある”ということ。いいモノって、大切にされますよね。たとえセカンド市場に渡っても、安いという理由で他人の手に渡っていないんです。欲しくて欲しくてたまらない……そういう強い所有欲のもとに、他人の手に渡ります。ですから次の人のもとに移っても、丁寧に扱われるんです」

車、バイク、カメラ、家具、時計……、山本さんは「嗜好品はすべからくインポートが好き」と言う。その言葉の裏には、パワーがあるものが好きというスタンスが見えてくる。

対して、山本さんはコピーアイテムについてこんな話をしてくれた。

「ロレックスもコピー品がたくさん出回ってますが、そういうものに手を出してもしょうがない。なぜならば偽物にはパワーはなく、職人のクラフトマンシップも当然ない。ただの工業製品なんで、そこに思い入れも沸き起こらないんです。

一方で、本物を身に着けていれば、ちょっと何かにぶつかりそうになったときに、時計を守るべく細心の配慮をするでしょう。偽物だと、そこまで気を回しません。生きるうえでの真剣さが違うわけです。それは自分の生き様にも響いてきます。つまり自分自身がしっかりする、パワーを持つという意味でも、本物を常に身に着けるべきです」

そんな山本さんは、つい先日、正規店でロレックス『GMTマスター』通称“バットマン”を追加購入したそうだ。回転ベゼルの色分けが、青と黒のものである。しかも3回の店舗訪問で、運良く入手に至ったという。

「1回目と2回目にかなりマニアックな雑談をしたところ、3回目に行ったときに、スタッフの方が話の内容を覚えていてくれて。『よく覚えてくれてましたね』と言いつつ、『今日も僕が欲しいモデルはないですよね……顔出しに来ただけなんで』と言ったら、『今日時間ありますか?』って話を向けられて。その後、約束の時間に戻ったところ、『どの品番が欲しいんでしたっけ?』って、改めて聞かれたんです。じつは僕は、ずっとジュビリーブレスレットのGMTマスターって言っていたんですね。何でジュビリーかといえば、そのスタッフさんに『ジュビリーブレスは手首への馴染み方がオイスターブレスとは違う』と説明を受けていたからです。『5連のコマだから、細かく馴染む』と。その説明により、ジュビリーブレスレットを自分自身で使ってみたいと本気で思うようになりました。今振り返ると、一貫して欲しいものをブレずに決めていたことが、奥の部屋に呼んでいただいたきっかけになったのでは? と思っています」

山本さんはもっぱら、“時計は使う”派だ。高級精密機器を取り扱ううえでの基礎知識を身につけた後は、気後れせずに日常で使っていくのが正解と説く。

「早いうちにいいものを手に入れて、長く使っていくのがいいと思います。20代のときに買ったもの、30代のときに買ったもの、というようにモノを積み重ねていきつつ、自分自身も歳を重ねていきたいと思いますね」

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土田貴史

土田貴史

ワールドフォトプレス『世界の腕時計』編集部でキャリアをスタート。『MEN’S CLUB』『Goods Press』などを経て、2009年に独立。編集・ライター歴およそ30年。好きが高じて、日本ソムリエ協会の「SAKE DIPLOMA」資格を保有。趣味はもちろん、日本酒を嗜むこと。経年変化により熟成酒が円熟味を増すように、アンティークウオッチにもかけがえのない趣があると思っている。「TYPE 96」のような普遍のデザインが好きだが、スポーツROLEXや、OMEGA、BREITLINGといった王道アイテムも、もちろん大好き。

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