クロノグラフ初心者必見!ムーブメントオタクのスタッフが違いを解説

2023.12.10
Written by 編集部

出演:クリス×尾崎(販売スタッフ)

今回はクロノグラフの特徴に加え、クロノグラフにまつわる「振動数」「自動巻き/手巻き」「伝達」といった時計用語についても触れていく。まずは、クロノグラフの時計3本をピックアップ!

フライバック付きのエイラン『TYPE20』

はじめに紹介するのは、エイラン『TYPE20』(フランス空軍 Cal.222 フライバックパイロットクロノグラフ 1960年代製)。フランス空軍に納品されたモデルで、Cal.222というバルジューの機械が入っている。

「当時、フランス空軍がエイランをはじめ複数社に『この規格で時計を作ってください』とオーダーして納品された時計。市販品ではないため特別ですね」(尾崎さん)

「ちゃんとしたミリタリー時計?」(クリスさん)

「そうです。通常のバルジューにはない機構が追加されている。軍用でフライバック機能が追加されているので、そこが普通じゃないです」(尾崎さん)

フライバックとは、タイムの計測中にボタンを押すとリセットされ、即ゼロからのタイム計測を開始する機能のことだ。軍用時計には必ずしもフライバックが採用されていたわけではなく、なかには不要としていた国もあるという。

「なぜフライバックが欲しいのだろう?と思って聞いた話によると、エアクラフトで着陸しないで、そのままスイープで立ち上がるときにフライバックの方が使いやすいとか……。おもしろいですよね」(クリスさん)

「あとはグローブをはめていて素手で操作できるわけではないので、操作が簡単なのもフライバック機能の良いところでしょうね」(尾崎さん)

エイラン『TYPE20』はリューズも大きめで操作性を意識して作られていることがわかる。フライバック以外にも特徴はあるのだろうか?

「一番の特徴は、やはりフランス空軍が規格を決めて作られた普通の出所のデザインじゃないこと。見た目が何よりも特徴なのかなと思います」(尾崎さん)

メジャーなヴィーナスを搭載。ジュベニア『2レジスター』

続いて紹介するのは、ジュベニア『2レジスター』(クロノグラフ Cal.VENUS150 1940年製)。ヴィーナスと呼ばれるムーブメントはブライトリングの『ナビタイマー』にも搭載されているため、メジャーなクロノグラフムーブメントの一つだ。

「プッシャーの位置がリューズから均等になっているけれど、先ほどのエイランは下の方にプッシャーがありましたよね」(クリスさん)

「それぞれのメーカーの設計で作っているので特色はあると思います。特にミネルバの13-20CHとかは離れていますね」(尾崎さん)

ちなみに、こちらにはフライバック機能は付いていない。

「フライバック機能付き」などと表現するが、尾崎さん曰く構造的には機能を付け足しているのではなく、機能を抜くことでフライバックが可能になるのだという。

月に行った時計。オメガ『スピードマスター』

3本目はオメガ『スピードマスター』(5th 初期 1968年製 Ref.145.022 Cal.861)だ。このモデルではないが『スピードマスター』は月に行った時計として有名で、その流れを汲むムーンウォッチである。

「Cal.861はCal.321と何か違いはあるんですか?」(クリスさん)

「大きな違いはピラーホイールというクロノグラフを制御するパーツがカム式になっていることです」(尾崎さん)

このピラーホイールとカム式の違いについては後述する。

プッシャーの押し心地は構造で変わる!

尾崎さんはクロノグラフを語るうえでお伝えしておきたいことがあるようだ。それはプッシャーの押し心地の違いについて。

「今回この3本を選んだ最大の理由があります。お客さまから『2個目を買いました。でもボタンの押し心地が違うんです』と言われたときのために、その原因について話したかった。機械なので油のさし具合で感触が変わることもあるのですが、それ以上に構造の違いがあります」(尾崎さん)

フライバックのリセットについて触れたが、リセットを手動で戻しているのか、それともバネの力で戻しているのか。この2種類の構造の違いにより押し心地が変わる。

紹介した3本のなかでは、エイラン『TYPE20』が手動、ジュベニア『2レジスター』とオメガ『スピードマスター』がバネだ。バネはバネの力で勝手にリセットしてくれるため、あまり力を必要としない。一方、手動は根本までグッと押さなければ針がゼロには戻らない。

「お客さまのなかには『押し心地が違う。ちゃんとゼロに戻らない』という方もいるので、故障ではなくムーブメントの構造の差なんですとお伝えしたいです」(尾崎さん)

クロノグラフのオーバーホールは見積りができない?

クロノグラフの修理は複雑なので手間がかかる。そこで、これから購入を考えている方に注意してほしいのは、クロノグラフはオーバーホールにかかる見積りが出せないことだ。

「見積もりするためにはある程度機械をバラして状態を確認しなければいけないのですが、複雑なクロノグラフはもう一度組み直して調整しなければなりません。それはもうオーバーホールをしていることに近いので『見積りはごめんなさい』という機械なんです」(尾崎さん)

「何もなければこれくらいです」と大まかな価格はわかるものの、正確な価格を事前に伝えることは難しい。ちなみに、紹介した3本のオーバーホールは6万円前後が目安。修理やパーツの交換などがあると、プラス1〜2万円かかる場合があると覚えておくとよいだろう。

時計の振動数とは何を表している?

クロノグラフついて熱心に勉強しているクリスさん。ネット記事などから情報を集めては、自作のエクセルに詳細を書き込んでいるという。メーカーはもちろんのこと、キャリバーや振動数、巻き上げなど複数の項目が並ぶ。そのなかから初心者の方にも伝えたい情報を尾崎さんに解説してもらう。まずは「振動数」について。

「時計の裏蓋を開けたら、テンプ(機械の心臓部)という輪っかがクルクルと動いているイメージはありますか? 振動数は、その輪っかが動く数のこと。あれは振り子の原理を輪っかにしているものです」(尾崎さん)

自動巻きと手巻きの違いは?

クロノグラフに限らず、ヴィンテージ時計を語るうえで「自動巻き」「手巻き」といった巻き上げの言葉は頻繁に耳にする。

「手巻きは、時計のパワーを溜めるためにリューズでの巻き上げを手動で行うもの。自動巻きは、この手巻きに加えて手の振りによって自動的に巻き上げてくれる機構を載せているタイプです」(尾崎さん)

「つまり手巻きの時計は巻いてエネルギーを吹き込む。愛を吹き込む! 自動巻きは歩いているだけで勝手に愛が溜まっていく。最高ですね!」とクリスさん節が聞かれた。

ピラーホイールとカム式とは何か?

続いて、先ほど出てきたピラーホイールとカム式の違いについて解説する。

「ボタンを押すといろんなレバーとつながっていて、そのレバーを制御するクロノグラフの中心的パーツです」(尾崎さん)

【ピラーホイール】

ピラーホイールは複雑な構造だが、その分繊細な制御が可能。操作感もなめらかで高級感がある。パーツ製作はプレスではなく切削するしかないためコストが高い。コラムホイールとも呼ばれている。

【カム式】

カム式はシンプルな構造。ピラーホイールのような繊細な制御はできないが、耐久性があり低コストであるため生産性に優れている。操作感はピラーホイールに比べると固い印象。

尾崎さんは生産性に優れたカム式について「クロノグラフの一般化に寄与したといえるのではないか」と語った。

時計でいう伝達とは?

「伝達は、ボタンを押してから針が呼応して動くまでのことを意味します。いろんなパーツを通って最後に針に伝わるんですけれど、その伝達の種類のことです」(尾崎さん)

伝達は「水平クラッチ(2種類)」と「垂直クラッチ」がある。それぞれ解説していこう。

【水平クラッチ/キャリングアーム方式】

古典的なクラッチの仕組み。動きが良く見え見栄えも良いことから、高級時計に採用されることが多い。スペースを取るため自動巻きとの相性は悪い。

【水平クラッチ/スイングピニオン方式】

小さな歯車がクロノグラフを動かす歯車に噛み合うことで作動させる。簡素化されており大量生産に向く構造。スペースを取らないため自動巻きにも対応する。

【垂直クラッチ】

クロノグラフを動かす歯車を垂直に連結する方式。スペースを取らないため自動巻きと相性が良い。近年は自動巻きが主流のため採用されることが多くなった。ほかの方式と比べて動きの精度が高いといわれている。

今回は尾崎さん解説のもと、クロノグラフのアレコレをお届けした。興味深いフライバックをはじめとしたクロノグラフの動きは、動画の19分00秒あたりから見られるのでぜひチェックを!

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