石田純一の時計遍歴の根幹は思い出深いブレゲと憧れのパテック フィリップ

2023.12.22
Written by 長谷川剛

文=長谷川剛

時計好きに「あなたの時計、見せてください」と依頼するこの企画。今回は誰もが知る高名な俳優にインタビュー。石田純一さんは1980年代に端を発する数々のトレンディドラマに出演し、芸能界に一時代を築いた人物だ。ファッショナブルでダンディなスタイルはつとに有名だが、実は生粋の時計ファンであることを知る人は少ない。そこで今回は名優がたどった華麗な時計人生を、石田さんならではの思い出とともにうかがった。

ジャン=ポール・ベルモンドが僕のスター

時計に興味を持ったのは何時ごろからですか?

「若いころから時計は好きでした。ただし20代の当時は貧乏な舞台俳優でしたので、自由にモノが買えるようになったのは、コンスタントにテレビに出るようになってから。20代のころはジャン=ポール・ベルモンドが僕のスターであり、彼がブレゲのビンテージウォッチを着けた着こなしに憧れていました。また、パテック フィリップの古いカラトラバ等にも興味を持っていましたが、その当時は買えるモノではありませんでした(笑)」

1980年代に石田さんは著名なタレント事務所に所属し、本格的にテレビドラマを中心とする俳優を目指していたと振り返る。当時の事務所の社長から『キミはどういった仕事がしたいのか?』と尋ねられ、石田さんは『“マイアミ バイス”のようなドラマに出たい!』と答えたことがあるのだそう。

「“マイアミ・バイス”はご存知のとおり、1980年代に人気を博したアメリカの刑事ドラマです。主演のドン・ジョンソンが白のテスタロッサを乗り回し、マイアミを舞台に活躍するストーリー。彼が色気たっぷりのスーツに金無垢のバブルバックを着けたスタイルがとてもクールで痺れましたね(笑)。それで僕も知り合いが経営するビンテージショップにバブルバックを買いに行ったのです。しかし、当時の自分にはやはり手が出ず、それとなく値引きをリクエストしました。するとその知り合いに“200万の時計を100万に下げたら、その時計は結局100万のモノになってしまうから”と諭されて……。確かにそうだと思い直し、石にかじりついてでも稼ごうと決心したのです(笑)」

フジテレビ“月9や木10”のトレンディドラマが始まる

その後、俳優業における石田さんの地道な努力が功を奏し、ついにテレビドラマの主要キャストに抜擢されるチャンスが到来。そう、いわゆるフジテレビ“月9”や“木10”のトレンディドラマが始まるタイミングである。

「厳密に言うと僕が出演した『抱きしめたい!』の前に、浅野ゆう子さんと陣内孝則さん、柳葉敏郎さん、三上博之さんによる『君の瞳をタイホする!』がスタートしており、そちらがいわゆるトレンディ路線のオリジンです。しかし『抱きしめたい!』も制作サイドの期待以上にヒットを記録することができました。撮影にもいろいろと斬新なチャレンジがなされており、当時のことを今もあれこれと思い出します。マスターショットとクローズアップを同時に撮ったり、トラッキングショットを多用したり、エキストラに外国人のモデルを使ったり。僕も岩城滉一さんも衣装は全部自前であり、しかもノーメーク。また、岩城さんはそのころから非常にお洒落な人であり、以前に会ったときに『素足でローファーは俺のほうが早かったよね』と言われたことがありました(笑)」

以降、順調にドラマ出演などの仕事が増えて、色々な意味で生活も安定したという石田さん。そこでようやく念願のブレゲを購入することができたという。

「先ほど述べたビンテージショップの知り合いから、このブレゲを手に入れました。当時からクラシックかつシンプルなモデルが僕の好みであり、このブレゲは非常に理想的な一本。当時、僕はアルマーニを筆頭に、ヴェルサーチやフェレといったイタリアンスタイルに傾倒しており、そんな服装にこのブレゲを合わせて楽しんでいました。今ではそういったイタリア系のブティックも増えましたが、当時は非常に数えるくらいしかなく、青山のフロムファーストなどにも良く顔を出していました」

当時一番買い求めやすかったノーチラス

1980年代を経て、1990年代前半に人気俳優の地位を築き上げた石田さん。若い時分から憧れていたパテック フィリップを、ついに手にいれることができたのもそのころ。

「20代から比べれば、生活にもそれなりに余裕が生まれました。それでもパテックは、当時一番買い求めやすかったノーチラスを選択。手に入れたのは初期に発表されたSSケースのブルー文字盤モデルです。非常に気に入っていたのですが、残念なことにあるとき紛失してしまいました。その後、ホワイトやブラック文字盤もリリースされましたが、個人的には初期のブルー文字盤が一番素敵だと思っています。その後、ノーチラスは二本ほど手に入れました。とにかく着け心地も理想的で万能な時計ゆえ、普段はこればかりを着けています」

そんな大のパテックファンである石田さん。一番思い出深いモデルは何かと尋ねたところ、複雑モデルのワールドタイムだと断言。最初に手に入れたワールドタイムはローズゴールドケースの一本。東尾理子さんとの結婚式及び新婚旅行に着用した、忘れ難い時計なのである。

「彼女とのウエディングは本当に特別でした。ナパバレーのワイナリーで2009年に式を行ったのですが、以前に海外のファッションモデルからそういったオープンな結婚式の話を聞いており、非常に印象的だったのです。晴れ渡ったブドウ畑の真ん中に長いテーブルを並べ、白いテーブルクロスを敷いてお祝いするパーティは本当にロマンティック。料理は当時人気だったレッドのシェフが自ら作ってくれました。もちろんワインも飲み放題。そして滞在先はカリストガのスパを借り切りました。全コテージのホテルで、今となってはとても贅沢な思い出です。しかし堅実的な彼女は、このプランを伝えたときに“まったくオトメチックなんだから…”と呟いたことを覚えています(笑)」

新婚旅行はカリフォルニアからイタリアへ

そしてこの思い出深いウエディングの後に、カリフォルニアを離れ二人は新婚旅行のためイタリアに向うことに。もちろん石田さんの腕には大切なローズゴールドのワールドタイムを着けたまま。そして思いもしないドラマが待ち受けていたのである。

「イタリアではレンタカーを利用し、ローマからナポリ、アマルフィーコーストなど南部エリアを回る旅程でした。今では東京でも本場のナポリピザを供するお店もありますが、当時は本気で食べたければナポリに行くのが当たり前。そこで僕等もマルゲリータ発祥の店であるブランディまで出掛け、世界一と評判のピザをいただきました。問題はその後です。そこからアマルフィを目指すのですが、渋滞にはまってしまい、ある広い道路でノロノロ運転をしていたのです。そこにやおらスリ抜けのバイクが現われ、車のドアミラーをバタッと倒したまま行ってしまいました。しょうがなく僕はウインドウを下げてミラーを直そうとしたところ、ガッと腕を掴まれて……。アレコレ揉みあいの末、時計は結局盗られてしまったのです。後で思えば3人ひと組みの窃盗チームであり、腕を車外に出させるバイク担当と、ウインドウから伸ばした腕の時計を外す役、そして後方で見張りをする役。見事なチームワークに引っ掛かり、まんまとヤラれたというワケです(笑)」

しかし、思い出の一本であり大切なコレクションでもあった特別なワールドタイム。石田さんはその後、日本国内にてホワイトゴールドモデルを買い直すことになったという。そして現在はノーチラスとこのワールドタイムをメインの時計として愛用しているのだ。

万能に使えるノーチラス

「一番多く着用するのはこのノーチラスですね。僕は毎日、朝起きたらまず家の近くをジョギングします。そういったシーンでも着用するほど身近な存在なんです。服装にも合わせやすく非常に使い勝手が良く、ビーチサンダルのスタイルから、スポーティなカジュアル服やタキシードまで、この一本でほぼ済ませてしまいます(笑)。その他、テニスをプレーする時にもノーチラス。一方、ワールドタイムも同じように愛用していますが、革ベルトなのでやはりドレッシーなシーンが多いかも知れません」

すっかりパテック フィリップのファンとして、長い年月を重ねている石田さん。現状のノーチラス&ワールドタイムの二本体制で、心から満足しているのだろうか?

「色々な時計を見てきましたが、やはりパテック フィリップの時計は品格があって格好良い。人生を共にする価値を持つアイテムだと思っています。そういう意味でドレッシーなモデルとスポーティなモデルの二本を所有できているのは非常に幸せなこと。しかし、可能ならもう一本特別なモデルも欲しいですね。例えばミニッツリピーターなどあれば、一層人生が豊かになるように思います。しかしこればっかりは縁ですからね。この先どうなるかは、僕にもちょっと分かりません(笑)」

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長谷川剛

長谷川剛

1969年東京都生まれ。エムパイヤスネークビルディングに所属し、『asAyan』の編集に携わる。その後(有)イーターに移籍し『asAyan』『メンズクラブ』などを編集。98年からフリー。『ホットドッグプレス』『ポパイ』等の制作に関わる。2001年トランスワールドジャパンに所属し雑誌『HYBRID』『Warp』の編集に携わる。02年フリーとなり、メンズのファッション記事、カタログ製作を中心とする編集ライターとして活動。04年、エディトリアルチーム「04(zeroyon)」を結成。19年、クリエイターオフィス「テーブルロック」に移籍。アパレル関係に加え時計方面の制作も本格化。

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