【時計の基礎知識講座】セイコーから幻のメーカーまで。国産5メーカーの歴史と魅力を解説!

2024.05.22

出演:野村×宮崎

セイコーやシチズンに加え、すでに姿を消したメーカーまで。ファイアーキッズが選ぶ国産5メーカーの歴史と時計の魅力を解説する。

日本を代表する国際メーカー、セイコー

まずは、国産時計といえば!のセイコーから。宮崎さんが解説する。

「セイコーは1881年に創業した日本の時計製造会社です。高品質な腕時計・壁掛け時計・目覚まし時計などを製造しており、特に精密なクォーツ時計や機械式時計で世界に知られています。セイコーは世界初のクォーツ腕時計を発明したことでも有名です」(宮崎さん)

「いきなり腕時計を作り始めたのではなく、当初は時計の修理などから始めている。そこから自社製品を作るようになった。国産時計産業の生みの親だよね。歴史も一番長い」(野村さん)

その長い歴史は、東京・銀座にある『セイコーミュージアム銀座』でも知ることができる。

「世界初の自動巻きクロノグラフを作ったり、世界初のクォーツ時計を作ったり。技術力のセイコーといった感じです」(宮崎さん)

「その通りです! セイコーの製品は万人受けする。グランドセイコーもそうだと思いますし、クルマでいうとトヨタですよね。『トヨタを買っておけば安心』みたいな感じで『セイコーを買っておけば安心』ではあるよね」(野村さん)

ここで、セイコーの時計を一本紹介する。用意したのはセイコー 『ロードマーベル36000 1972年製 Ref.5740-8000』。

「これは良い時計だよね。『ロードマーベル』は国産初の高級時計として売り出されたもの。高級感はゼロに近いけれど、高精度でしっかりとした作り。手巻き式で10振動」(野村さん)

「少ないですよね。手巻き式で10振動となると」(宮崎さん)

「あとは4号系の機械でキングセイコー、グランドセイコーくらいしかないけれど。これは10振動の手巻き式ですごく魅力的な時計だと思います」(野村さん)

10振動は狂いにくいという精度の良さがあるが、加えてコンパクト化する技術でもあると説明する野村さん。海外メーカーでも10振動のモデルは薄型の機械が多い。有名なゼニスの『エルプリメロ』が10振動を採用したのも、自動巻きユニットを付けるにあたり、テンプを小さく収めるためといわれている。

そうしたなかで、この『ロードマーベル』は比較的分厚い。野村さんは「コンパクト化よりも精度に全振りしているのが良い。個人的にも日常使いしているけれど『あれ? グランドセイコーよりも精度良くない?』と思うことも。もちろん個体差が多少ありますが、本当に良い機械だと思います」と語る。

価格は10万円アンダーの8万8千円。魅力的な価格だ。

セイコーのライバルとして台頭したシチズン

続いて、シチズンを見ていく。こちらも歴史の紹介から。

「1918年に創業した日本の時計と電子機器メーカーです。エコドライブ技術を搭載した腕時計が有名で、日光や室内光を電力に変えて時計を動かします。また、正確な時刻を保つために、衛星と同期する衛星ウェーブ技術を用いた製品も展開しています。——ハイテクですね」(宮崎さん)

「シチズンは一言で表すとセイコーのライバルだよね。セイコーを強く意識しているモデルが多いです」(野村さん)

現状はセイコーのヴィンテージの方が人気であるため、シチズンは割安で良いものが見つけられるブランドだ。それでは、ピックアップした一本、シチズン 『デラックス パラウォーター 1960年製 手巻き』を見ていく。

「セイコーよりもいち早く防水に取り組んだモデルで、個人的にも好きなモデルです。防水には自信があって、実際に水に浸けた試験をやっている。初期のオメガやインターもそうで、スナップバックだけれど防水というのが格好良い」(野村さん)

「シチズンはセイコーのライバルでありながら精度も良いですし、価格帯は若干安いですか?」(宮崎さん)

「そうですね。同じグレードだったらシチズンの方が安い。同じ価格で出すなら何かプラスαが付いているイメージ」(野村さん)

セイコーはマニアがいるため価格が高くなりがちだが、シチズンは比較的プレミアが付いているモデルが少ないため、求めやすくなっている。

「個人的にも1960年代前後くらいのシチズンが好きなんだよなぁ」と唸る野村さん。宮崎さんも「見た目がめちゃくちゃ好きですね。針が良いですし、文字盤のカーブしている感じが当時の雰囲気。ケース径も自分の好きなサイズで10万円アンダー(9万8千円)」と、推しの一本だ。

独自路線を走る、オリエント

3つ目に登場するのはオリエント。国産時計といえば、セイコー、シチズン、そしてカシオの名前が上がるが、カシオは電池時計しか作っていないため、ファイアーキッズでの取り扱いはない。そのためオリエントを3番手に位置づけている。

「1950年に設立された日本の時計メーカーで、セイコーエプソンの完全子会社です。特に自動巻き機械式腕時計で知られており、価格の手頃さや品質の高さで評価されています。デザインは伝統的なものからモダンなスタイルまで、幅広く用途に合わせたスタイルを提供しています。——1950年なのでだいぶ後ですね」(宮崎さん)

「1950年頃の時計は素材がまだ良くないので、あまり実用品としては残っていない。セイコーとシチズンのライバル関係とはまったく別で、おもしろい時計が多いよね」(野村さん)

「店舗にオリエントのショーケースがあるじゃないですか? 同じブランドなのかと思うくらい種類があるので、本当に違う軸で戦っているんだなと思いますね」(宮崎さん)

「一言で表すとおもしろい!」(野村さん)

宮崎さんは「これはどういうことなんだ?」と言い、野村さんも「時間読み取れないもん」と笑うのは、オリエント 『ミステリアス 1960年製 GF 純正尾錠付き』。とてもユニークで珍しいデイト付きのモデルである。

「海外のメーカーでも、アーネストボレルとかがミステリアスみたいな形で出していたり、ロンジンにも針の代わりに文字盤が動くやつがあったりする。1960年代に入ってからだよね、こういうデザイン性のある時計が出たのは」(野村さん)

1960年代は、腕時計が“お金持ちの道具”であった時代から誰でも持てるようになってきた時代。差別化が図られた時計が増えてきたのにはそういった時代背景がある。

「セイコーとシチズンがいるなかで『何をしていけば良いのか?』が見えるデザインですよね」(宮崎さん)

「独自路線で楽しいメーカーだね」(野村さん)

価格は10万8千円となっている。

技術力のあった幻のメーカー、タカノ

次に紹介するのは、幻のメーカーといわれるタカノだ。

「タカノは高級機械式時計の製造で知られる日本のブランドで、特に限定品やカスタムメイドの時計で注目されていました」(宮崎さん)

「ドイツ製のムーブメントを輸入して、日本でケースに収めて売ったのが最初。海外メーカーのコピー品みたいなムーブメントだけれど、自社ムーブメント化した。コピーしただけじゃなくて、当時最薄の機械にするという技術力があった。ただ、伊勢湾台風で工場がやられてリコーに買収されてしまう。幻のメーカーだよね」(野村さん)

製造期間は3〜4年と短い。特に関西圏で売れ、関東ではあまり見かけないメーカーだという。ファイアーキッズでは現在タカノ 『スーパー スクエアケース 1950年代 手巻き』のみ扱っている。価格は11万8千円だ。

「もっと評価されても良い時計じゃないですか?」(宮崎さん)

「そういうところはあるよね。レアすぎて探している人がいないのかもしれない。30年近く前に幻のメーカー的な扱いを受けて物が出なくなってきているし、どんどんコンディションの良い物がなくなってきている」(野村さん)

スタンダードなモデルが多く、ロゴマークはロンジンを意識していると思われる。野村さんは「ロンジンと間違えて買ってもらおう!的な意図が見え隠れする。その感じが嫌いじゃない」と笑った。

上品で手作業が光るタカノの魅力は国産ならでは。レア度が高い割には割安感があるメーカーだ。

過去の大阪万博にも登場したリコー

最後に登場するのは情報機器で有名なリコー。

「リコーは、主にプリンターやコピー機、デジタルカメラなどの情報機器を製造している会社ですが、過去にリコーウォッチとして腕時計も製造していました。現在は時計の製造からは撤退しております」(宮崎さん)

「タカノを買収したわけだけれど、初期のモデルでは外見はリコーだけれど中の機械はタカノが入っているものもあった」(野村さん)

来年に迫った大阪万博だが、過去の大阪万博では記念モデルを発売している。リコー 『大阪万博記念モデル 1970年製 ロジウムメッキ ブルー文字盤 ペンダント用金具付き』は、腕時計としてはもちろん、アダプターが付いていてペンダントウォッチとしても使えるユニークな一本だ。価格は9万8千円。

「後年になると“リクオーツ”といってクォーツの時計も製造していたんですよ。やはりセイコーには敵わなかったということなんでしょうね。最後は価格で勝負みたいな感じになって、それでなくなっていくわけですけれど……。初期はタカノを引き継いだ上品なものもあって、おもしろいメーカーだと思います」(野村さん)

「一言で表すと、リコーはどんなメーカーですか?」(宮崎さん)

「レア物としてのおもしろさですかね。時計の精度の話になるとセイコーやシチズンには遠く及ばないけれど、デザインの自由度が高いおもしろいメーカー」(野村さん)

「特にこの記念モデルなんかは相当おもしろいデザインですし。来年の大阪万博にこのペンダントをして行ったらモテモテですね」(宮崎さん)

「いや、モテないだろう……(笑)おもしろくて可愛い時計ですね」(野村さん)

ファイアーキッズには、ヴィンテージだからこそ出合える国産時計が待っている。

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