【オーナーインタビュー】時計はやはり時代を経て価値を受け継いできたアンティークウォッチがいい 〜株式会社エイ・エル・エイ 代表取締役社長 三浦隆輔 文=青山 鼓
時計好きに「あなたの時計、見せてください」という企画で、ご登場いただいたのは栄養補助食品やスキンケアシリーズを手掛ける、株式会社エイ・エル・エイの三浦隆輔さん。ファッションモデルをしていたこともある彼が選ぶ腕時計とは?
バルトなどの緩さがいい
「昔持っていたロレックス『エアキング』はもう手元にないんですが、ちょっとベルトとかがなんか緩い感じがあったりして、あのユルさが良かったなと今になって思っています」
株式会社エイ・エル・エイの代表取締役社長、三浦隆輔さん。経営している会社では、乳酸菌生産物質の「バイオファーメンティクス」をベースにした栄養補助食品『生源』や、スキンケアシリーズ『LAB Fe』の企画・製造および販売を手掛ける。
三浦さん自身は、かつてはファッションモデルをしていたこともあり、ファッションにはこだわりが強い。この日もお気に入りの『ジェフリー ビー スモール』のセットアップスーツを着用して取材に臨んだ。
「例えば昔のテーラードジャケットって、襟の裏に細かくステッチを入れて形を整えているんですよね。でもそれは手間がかかるから、いまはフェルトを接着するようになってしまっていたりする。この『ジェフリー ビー スモール』というブランドは、そういうところで、わざわざ昔の服作りの手法を取り入れていたり、ボタンを全部バラバラの種類にしていたり、ぱっと見は普通なのに、実は遊びが入っている。すごく面白いブランドなんですよ」
生地に風合いの出るシャトル織機で織った生地を使っているジャケットは、ヴィンテージの趣きを持ちながら、形はモダンに今らしかったりする。そのあたりのギャップが面白いと三浦さん。
「こんなブランドの服を着るときにはアンティークウォッチも相性がいいのかなと思うんですよね。新しいモノって、かっちり作られていて、ちょっとこう、キラキラしていて。それが少し気恥ずかしいところがあるんです、僕は」
現在の所有数は3本
そこで、冒頭の「『エアキング』持っておけばよかったな」という発言に至るというわけだ。聞けば、最後に時計を買ったのは2000年。現在所有しているパテック・フィリップの『ノーチラス』だ。
現在所有している時計は、わずかというべきか、3本だけ。『ノーチラス』と、ロレックスの『オイスター パーペチュアル デイト ディープシー』、そして父親から譲り受けたというロレックスの『オイスター パーペチュアル デイデイト』。
ゴールドのケースで文字盤に石も入っている『デイデイト』はきらびやかすぎるとほぼ着用することがなく、大ぶりの『ディープシー』も着用頻度が徐々に減っていき、使っているのはほぼ『ノーチラス』のみ。
それまで、オーデマ・ピゲ『ロイヤルオーク オフショア』や、ヴァシュロン・コンスタンタンの『パトリモニー』などの時計も所有したものの、好みに合わず売却してしまったという。
「着ている服がわりと今日のようなモノトーンが多いので、そこに合わせて自然に馴染む時計というと、どうしても『ノーチラス』ばかりになってしまうんですよね。文字盤の構成もクロノグラフとかちょっと見づらいなと感じてしまってあまり好きじゃない。シンプルな3針くらいがちょうどいいですね。ぱっと見で時間がわかるし、他の余計なものがないほうが僕は好みです」
インタビューを通じて懐かしく思い出したのが、先に述べたロレックス『エアキング』。大学生のころに10万円くらいでアンティークウォッチのお店で購入したという。
「昔から今みたいなシンプルな服が好きで、それはずっと変わらないんですよ。だから話題になっている時計を買ってみたりもしたんですが、どうしても今持っている時計のような、こういうシンプルな方向に戻ってきてしまうんですよね」
家族全員の服を選ぶ
そんな三浦さんには4人のお子さんがいる。長女はフロリダの大学に留学しており、中学生の男の子がふたり、そして小学生の娘さん。面白いのは、家族全員の服を三浦さんが選ぶという三浦家のルール。
「子供だけじゃなくて妻の服も全部僕が選ぶんです。昔からそうなんです。みんなの服をトータルでコーディネートすることが楽しくて。そのときにはやっぱり時計まであわせて決まるなといつも感じています」
たとえば、いま中学校2年生の息子さんを連れて、原宿の老舗古着ショップである「ベルベルジン」によく行くという。大人と子供の中間くらいのサイズで、いい具合にこなれた洋服が買えるのだそう。
「ちょうど息子が着られそうな、1960年代のパーカがあったりするんですよね。今新品でお店に並んでいる服のほうが安くて綺麗かもしれないんですが、それでも時代を超えていまに残っている本物のほうが良いのではと思っているんです」
オリジナルの良いものを、身につけて肌で知ること。それは先々、自分で物を選ぶようになったときのものさしになる。そう三浦さんは考えている。
「サプリメントの会社を経営しているから、身体に入れるものはしっかり吟味します。だから自宅で料理するときんは化学調味料は使いません。味覚もきちんとしたものを育てていくことを大切にしています」
それらしく見た目が良いものは世の中に蔓延していると三浦さんはいう。そんな時代にあって、子どもたちにはしっかりと本物を見極める目を持っていて欲しいと考えている。
「時計もそうです。そんなに高価じゃなくても、それぞれにピタりとハマるものを選んであげたい。やっぱり洋服の着こなしは最後に時計があって完成すると思っているので。なかなか難しくて選びきれていないんですけどね」
そのとき選ぶ時計は、やはり時代を経て価値を受け継いできた、アンティークになりそうだ。「子供も子供なりに、本物にしか興味を示さない」と苦笑いする三浦さん。4人の子供たちそれぞれの個性にピタリとはまる時計を探し続けている。
writer
青山鼓
1974年生まれ。2005年よりフリーランスのライターとして、雑誌『POPEYE』『BRUTUS』でファッション、カルチャーの分野での編集・執筆活動を開始。現在は『Forbes JAPAN』『PEN』『GQ Japan』『Business Insider Japan』などのライフスタイルメディアや『トヨタイムズ』など企業のオウンドメディアで、ビジネス、自動車、時計、ファッション、酒、旅など幅広い領域における、海外取材やVIPインタビューなどを手掛ける。