【オーナーインタビュー】ロレックス、フランク・ミュラー、APなど王道ブランドのちょっと変わり種に惹かれる
文=長谷川剛
時計好きに「あなたの時計、見せてください」と依頼するこの企画。今回は大手広告代理店において、マーケットデザインや事業開発などを行う部署を統括するエグゼクティブにお話をうかがった。学生時代から時計の魅力に取りつかれ、着々とコレクションを増やしたエリートビジネスマンのウォッチストーリーは、ある種時計趣味の理想系。「ゼンマイお伽話」といえる内容なのである。
テーマ型ビジネスを開発する業務に携わっている
今や立派なウォッチジェントルマンである世良豪浩さん。大学を卒業したのちに著名な広告代理店に入社し、現在はその大阪支社にて観光や大型イベントなど、いわゆるテーマ型ビジネスを開発する業務に携わっているという。そんな本邦ビジネスシーンの根幹を支える人物は、いかにして時計を趣味に選んだのだろうか?
「時計に関しては中学生時代が原点だと思います。Gショックやスウォッチが流行った時代であり、自分もそれに影響され、そういった時計をアレコレ探しました。今思えば、そういった自分のお気に入りを吟味し探して身に着けるスタイルは、この時代が始まりですね。そしていろいろ集まりだして改めて感じたのが、“どうせ(腕時計を)着けるなら、キチンとしたものも欲しい”ということ」
後に父親からオメガのシーマスター ポラリスを譲り受けた世良さん。シーマスター ポラリスとはオメガがその時代に合わせて作りだした革新系の意欲作。今もってなかなかの革新時計だが、ポラリスはそもそもクォーツ式ウォッチである。
「ブランドの本格時計ということで僕も満足していたのですが、あるとき友人所有のロレックス サブマリーナーを見せてもらって。どうも彼の時計と自分のポラリスを較べてみると、なんだかどこかが違う……。そう、ステップとスイープといった運針に違いがあるんです。そして、見ているうちになんだかカチコチ動く機械式のスイープ運針のほうが、少しエラいように感じてしまい(笑)」
機械式時計にハマる
そんな経験から次なる獲物として、世良さんは機械式時計に狙いを定める。時間をかけ資金を貯めて購入した一本が、ロレックスのGMTマスター2(Ref.16700の青赤)だ。いわゆるペプシカラーを纏った著名なスポーツロレックスだが、独特の完成度やポップな洒落感を持ちつつ、当時は値段もかなり手頃だったと振り返る。その頃から自身の時計収集癖に気付きだした世良さん。しかしネガティブにとらえず許容することで、自分らしい趣味として確実に広がっていった。
「GMTマスター2を皮切りに、いろいろなロレックスにハマりました。最終的にはデイトナをいくつも集めることに。2000年のミレニアムイヤーにリリースされた“デイトナ ビーチ”は、4色すべてを集めようとやっきになりました(笑)。ブルーとピンクのモデルは入手できたのですが、結局はすべて売却することに。そのまま売らずに手元に置いておけばと、今は少しだけ後悔しています(笑)」
一時期はデイトナをメインにロレックスに深く傾倒した世良さん。その後はフランク ミュラーのみを集めたり、オーデマ ピゲばかりを揃えたりと、ブランドを絞って収集することが多くなったと語る。そんなこだわりの時計道を自分なりに突き進むなか、ひとつのスタイルが確立した。
「いわゆるブランド自体は王道ですが、メインの人気モデルとは異なる一本を手に入れるスタイルが自分流として定着しました。また、プロダクトとしての作り込みやディテールの仕上げなど、よりマニアックな視点で時計を選ぶようにもなりました。APにしてもロイヤルオークは人によって老成した印象があるかもしれません。あえてオフショアではないところで差別化が図れるように感じていました。実際にロイヤルオークのクロノグラフは時計としても素晴らしく、機械はもちろん文字盤やインデックス、針の仕上げも実に緻密で繊細。ケースからブレスレットのコマに至るまで、どこを取っても満足できる一本です」
ノーチラスでありながら、少し異端児的
なかでも特に世良さんの所有欲をくすぐったのが、パテック フィリップのノーチラスRef.3710だ。
「ノーチラスは今も世界的な人気モデルです。しかしこの3710はノーチラスでありながら、少し異端児的なところがあるんです。そもそもスポーツモデルなのにローマン数字であったり、パワリザ表示の位置も実にユニーク(笑)。恐らくドレス要素を考慮した一本であり、ケース自体の厚みは抑えられていて非常に付け心地も抜群。見るからに高級感ある3710ですが、複雑系ではなくシンプルな3針式なので、日常的なTシャツスタイルにも装着可能。そしてタキシードのシーンもこの一本で出掛けています」
現在はお気に入りの20本ほどをシーンによって付け替えつつ、時計生活を楽しんでいる世良さん。総括すると歴史あるブランドのオリジナリティあるモデルが自分好みと指摘する。そしてそういう要素を備えた時計が、名品として後世に残っていくと考えているのだそう。
そんな世良さんだが、昨今は以前に手放したモデルを、いま一度買い直すことが増えているとか。
「手放すことで、その良さがしみじみ分かると言いますか(笑)。一旦は何らかの事情で売却してはいますが、そもそも欲しくて買った時計ですから、自分好みであることには間違いありません。また手放したモデルには、その後値上がりしたものも本当に多い。現在は幾分余裕をもって探し直せるので、当時所有していたモデルでも、より状態の良い個体をじっくり探しています。そして今度こそ、手放さず持ち続けたいと思っています(笑)」
writer
長谷川剛
1969年東京都生まれ。エムパイヤスネークビルディングに所属し、『asAyan』の編集に携わる。その後(有)イーターに移籍し『asAyan』『メンズクラブ』などを編集。98年からフリー。『ホットドッグプレス』『ポパイ』等の制作に関わる。2001年トランスワールドジャパンに所属し雑誌『HYBRID』『Warp』の編集に携わる。02年フリーとなり、メンズのファッション記事、カタログ製作を中心とする編集ライターとして活動。04年、エディトリアルチーム「04(zeroyon)」を結成。19年、クリエイターオフィス「テーブルロック」に移籍。アパレル関係に加え時計方面の制作も本格化。