スティーブ・マックイーンが映画『栄光のル・マン』で着用したスクエアケースの名作ホイヤー『モナコ』

スポーツウォッチと共に発展したタグ・ホイヤー
タグ・ホイヤーは19世紀の創業以来クロノグラフをベースに発展し、とりわけスポーツウォッチと関わりが深い。150年を超えるその長い歴史は、スポーツウォッチの歴史と言っても過言ではない。極限のスピードにおける計時を重ねることによって機能=精度が高められていったのだ。
そんなタグ・ホイヤーにあって、レースに関わる人気モデルのひとつが『モナコ』である。1969年に発表された『モナコ』はスクエア型のモデルだった。当時スポーツウォッチというカテゴリーでは、スクエア型のヴィンテージウォッチはあまりなかったのだが、発売当初はそれほど注目されることもなかった。スクエアケース、ブルーダイヤルに挿し色のレッド。。。とても新しくてスタイリッシュ。人気が出ないわけないように感じるのだが。

しかし1971年に公開されたル・マン24時間レースを題材にしたカーアクション映画『栄光のル・マン』が公開されると一変、一躍世界的人気モデルとなったのである。この映画の主演である、スティーブ・マックイーンは劇中、公道でもサーキットでもポルシェを走らせるのだが、その腕に『モナコ』が装着されていたのだった。
このモデル名は地中海に臨む世界で2番目に小さい国、モナコ公国からとられている。ただ、それはモナコの国名というよりも、モータースポーツとタグ・ホイヤーとの関連性から、世界三大レースのひとつ「F1モナコグランプリ」を意識してのものということである。
世界初の自動巻きクロノグラフモデル
もちろん機能も充実。汗がつきもののスポーツウォッチだけに防水性も十分。当時はラウンド型と違い、ねじ込み式裏蓋は非常に難しいと言われていたのだが、ラウンドのようにケースと裏蓋の隙間にパッキンを噛ますのではなく、かぶせ蓋式のケースを採用してその隙間にパッキンをかませるという方法をとり、高い防水性を実現している。この構造は現行モデルにも採用されており、現在では100m防水というダイバーズウォッチに近い機能を持ち合わせている。

また、初代の『モナコ』には世界初の自動巻きクロノグラフムーブメント「キャリバー11」が搭載されていた。これはホイヤー(現タグ・ホイヤー)、ブライトリング、ハミルトン、デュボア・デプラ社の4社で共同開発した「クロノマティック」と呼ばれるものだ。
当時、ホイヤーとブライトリングというクロノグラフ界の二大巨頭が手を組んで自動巻きクロノグラフムーブメントの共同開発がスタートさせるという画期的なことが起こった。そして、当時ハミルトン傘下のビューレン製マイクロローター式の薄型自動巻き機構に、ディボア・デプラのクロノモジュールを載せることで、世界初のムーブメントを完成させたのである。
その構造上、リューズは左側につくことになったが、プッシュボタンがある自動巻きなので、これがアクセントとなり、モデルの大きな特徴ともなったのだ。
70年代に人気を博した『モナコ』も、時代とともにタグホイヤーが他のコレクションにシフトしていったこともあって、次第に生産されなくなっていった。ムーブメントとしては、「キャリバー11」の後継機種である「キャリバー12」を載せたものが多いようだ。
つまり、主に70年代に生産された『モナコ』はヴィンテージ市場では数がとても少ない。非常にスタイリッシュだが、希少性もあるので狙い目である。
writer
