1960年に誕生。視覚障害者向けに作られたシチズン『シャイン』の魅力

2025.03.30
Written by 編集部

出演:遠藤×クリス

ファイアーキッズのYouTubeでお馴染み、スタッフのクリスさんが「やっと見つかりました」と語る、自慢のヴィンテージ時計を紹介する。日頃から「国産最高!」と叫んでいるクリスさんだが、今回彼が探し当てたのはシチズンの『シャイン』だ。今回はシチズン『シャイン』の魅力を掘り下げていく。

人に寄り添う、シチズン『シャイン』

「シャインは目が不自由な方に向けた時計として、1960年の12月に発売されたモデルです。1960年12月……。実は、グランドセイコーファーストも1960年12月18日に発売されました」(クリスさん)

「そんなクリスが大好きなファーストと同じ時期に出た時計。でもそれは同時期に出たから選んだわけではないですよね?」(遠藤さん)

「そうではないですよ。シャインと言ったら光。目が不自由な方に寄り添い、人々を照らす——。私こういったテーマが大好きなんです! アメリカで生まれ育って、人の冷たさとかいろいろと過酷なことをも体験してきました。だからこそ、人のあたたかみに触れるたびに、人は人に生かされているということを自分のなかで大切にしています。ヴィンテージ時計の世界に入ってこの時計を知った時、この一本は絶対に腕に着けたいと思いました。本当に最高です!」(クリスさん)

「今はいろいろな技術が発展しているので、もっと便利な時計が出てきているじゃないですか? 例えばアラーム時計もそうですよね。今ではアラーム時計がいくつもあるけれど、当時は限られた技術や物のなかで、それらをカバーする技術者たちの意気込みを感じます」(遠藤さん)

「作るにあたっての意気込みもそうですし、設計するにあたってのパッションや心配りが本当にこの一本から感じ取れるんですよ」(クリスさん)

ふっくらとした風防はあたたかみのある触り心地だ。6時位置から蓋が開き、直接インデックスや針に触れることで時間を確かめられる。蓋を開ける時にはあまり力を必要としない一方、締めた時にはきちんとしたクリック感があり、絶妙な開け閉め具合がたまらない。

「本来、デザインは機能美を前提に成り立っているんですよね。デザインが先行するのではなく、『こういう風にしたいからこのデザインになった』というのがあると思うんですけれど、このシャインはすごく美しいですよね」(遠藤さん)

「デザイン性にも優れています。アラビア数字だったりロゴのプレイスメントだったり。そして、触った時に頑丈さを感じられる。すぐにはズレない。芯の部分でしっかり設計されています。インデックスは点字をイメージしていて、シャープなエッジがないんですよ。はっきりと時間がわかるけれど、なめらかさもある。文字盤の膨らみも風防同様に使いやすさを考えられた一本。最高ですよね」(クリスさん)

「趣旨とは違うかもしれないけれど、ダイヤルに触れる時計は他にないじゃないですか? 基本は触ってはダメという認識だからね」(遠藤さん)

「実はこれノンポリッシュでもあるんです。オリジナルのエクステンションブレスも付いてきました。いま私は革ベルトに変えているんですけれどね。このシャキッとしたケースやラグの垂れ具合を見るとクロノメーターを思い浮かべます。ただクロノメーターは1962〜1967年の製造なので、クロノメーターよりも早く設計されている時計です」(クリスさん)

他には文字盤や針を触れる時計がないことや、そのストーリー性に惹かれたというクリスさんだが、格好良さやエレガントさにも魅了されていると付け加えた。

腕時計はシチズンが初。視覚障害者用時計の歴史

シチズン『シャイン』は、国産初となる目が不自由な方向けの腕時計だ。

1939年にセイコーがポケットウォッチで発売しているが、腕時計ではシチズンが初となる。ちなみに、セイコーでは1966年に視覚障害者用の腕時計を発売し、1979年に世界初のクォーツによる視覚障害者用時計が生まれている。加えて、1998年に音声デジタル時計がセイコーから発売された。

スーツでもカジュアルでもOKなデザイン

「目の不自由な方を対象にはしているけれど、時計のデザインとしても仕上がっていると思います。当時は今ほど洋服のスタイルがあったわけではないじゃないですか? でも洋装であれ和装であれ、この時計なら違和感なく着けられますよね。そこにもある種の熱意を感じます」(遠藤さん)

「おっしゃる通り。ケースや文字盤の見た目まで、当時のライフスタイルに溶け込むような寄り添ったデザインがなされているところも美しいポイントです」(クリスさん)

クリスさんは、どんなスタイリングやシチュエーションが似合うイメージを持っているのだろうか。遠藤さんが聞く。

「ギミックがあるので、私は服装よりもギミックを味わいたいときに着けると思います。スーツスタイルでもカジュアルでもどちらでも! 私は服装に合わせて革ベルトを変えて着けますね」(クリスさん)

「この時計は話が盛り上がりますよね」(遠藤さん)

文字盤や針に触れられるため、しっかりと頑丈に仕上げられているシチズン『シャイン』。もちろん蓋が開けられるわけだが、蓋のフィット感も素晴らしく、その加工技術には驚くばかりだ。

そして、当時は視覚障害者用として発売されているが、クリスさんのようにストーリーやデザインに惚れたならば、どんな人が着けてもOKな特別な一本である。

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