【オーナーインタビュー】PRのプロが個人的に選ぶ時計は「マニアになりすぎず、時計の世界に触れていたい 」ものだった〜トランジットジェネラルオフィス 矢部 修 文=青山 鼓

2022.10.06
Written by 青山鼓

アンティークウォッチのオーナーにご自身の腕時計の魅力を語ってもらうインタビュー企画。その第2回は、トランジットジェネラルオフィス経営企画部の矢部 修さん。PR業という一見派手な仕事は逆に、比較的地味なモデルが並ぶ、その想いを語ってもらいました。

所有する時計は6本

矢部 修さんは、食、ファッション、アート、建築、デザイン、音楽そしてイベントをコンテンツに“遊び場”を創造することを目指す、トランジットジェネラルオフィスのPR。インタビューの場に、所有する6本の時計を持参した。

ロレックスの『チェリーニ』、カルティエの『マストタンク』、セイコー『シャリオ』、同じく『ファイブアクタス』、そしてチューダーの『ブラックベイ』、アバウトヴィンテージの『1926』。

「チェリーニは後輩が営むヴィンテージウォッチのお店で買ったものです。ビジネスではクライアントワークが多いので、いわゆるデイトナやサブマリーナーといったわかりやすいロレックスだと目立ちすぎてしまいますし、自分のキャラクター的にもちょっと違うのかなと思っているんです。その点で、チェリーニはロレックスの高級感がありながら、いかにも、ではないところ、知る人ぞ知るという感じが良いと思っています」

『チェリーニ』を着用して仕事をしていても、会った人に「ロレックスですね」と言われた回数はゼロ。矢部さんの狙い通りではあるものの、いつかこの時計に目を留めた人と会話が膨らむシーンを楽しみにしているともいう。さらに、こだわりを持って愛用していると矢部さんが言うのがセイコー『シャリオ』。

「シャリオは80年代にクオーツになって、スティーブ・ジョブズが愛用したことで有名になった時計です。僕が持っているのは自分の生まれ年の1975年のモデルです。非常にシンプルなデザインで、同時期の74年のファイブアクタスとともに、ビジネスシーンで重宝している時計です。ビジネスで時計ブランドさんと関わることもありますが、セイコーのヴィンテージは非常にニュートラルなので現場でも使いやすい」

薄い時計は目立たない

ドレスウォッチが自然と増えたという矢部さん。理由は、通常の勤務時はカジュアルスタイルだが、PRイベントなどの現場に出るときは、スーツやジャケットを着用するから。薄いドレスウォッチであればシャツの袖の中にひっそりと隠れ、時計が目立ちすぎなくていいのだという。

「時計に限らず、ちょっと古いものが好きなんです。長く使われてきたものは、これから先もきちんと動くという信頼感があって。また、例えばマストタンクだったら現行のモデルもありますが、誕生当時には技術的にどれだけ薄くできるかを追求しながら、同時にいかにエレガントにできるかということを当時の方々が考えていたといいます。そんなエピソードも魅力的だなと感じて思い入れできる理由になっています」

ロレックスでもチューダーでも、60年代、50年代といった時代のものもアンティーク市場では流通しているが、そこまで古いモデルには信頼性の面で不安があるという矢部さん。75年前後のモデルが、趣と信頼面のバランスが程よいと感じている。

「時計選びに限らず、なのですが自分のラッキーカラーは緑だと思っていて。時計でもバンドをグリーンにしたり、文字盤が緑のものには目が行きます。財布も、車も実はグリーン系なんです」

車はダイムラーダブルシックス。色はジェイドグリーン。ブリティッシュグリーンよりは浅めの、明るいグリーン。乗り心地がよく、かつエレガントな雰囲気が気に入っている。たまたま近所のガソリンスタンドで見かけ、一目惚れ。やがて売りに出たことを知り一念発起して購入。買ったときには大きめのホイールが入っていたが、ノーマルのサイズを探してわざわざオリジナルに戻したという。

「やっぱりノーマルはデザイナーさんが良いと思ったバランスで作られていると思うので。古い時計を持っていて残念だなと思うのは、オリジナルのベルトがほぼないことですね。開発した方々の思いがすこし分かりづらいところです」

たとえばクオーツであれば機械式時計に比べると薄型であったり機構もシンプルであったりと、機能面ではすぐれている。しかし矢部さんに言わせると「少し面白みを欠く」。

「クラフツマンシップを感じない、なんて言ったらちょっと生意気かもしれませんが……。手巻きの時計なんて、何度もオーバーホールを経ていろいろな人が手を触れてきた機構がいま動いている。そこが僕はすごく好きです」

マニアを目指してはいない

最初はファッションとして見ていた時計。『チェリーニ』を手に入れてからビンテージウォッチに興味を持ち、やがて魅了されたという。その一方で、自分で分解するほどのマニアになることは目指していないという矢部さん。

「チェリーニは磨きもやりすぎていなくて、外箱もとてもきれいな状態で保存状態が良かったんです。前のオーナーさんがどれだけ愛情を込めていたかということが伺いしれて、そこに思いを馳せていると、内心アガるものがあります。バトンタッチみたいなものですよね、前の方々から受け継いでいま自分が預かっているという感覚です」

次にほしい時計はと聞くと、今持っているものである程度満足できているという。

「それなりに揃った感覚ではいるんですが、チェリーニやシャリオの角型ケースのものが欲しいなと思っています。それからMIDOは欲しいなと思って検討していたモデルがあったんですが売れてしまって。あと、やっぱりチューダーのドレスウォッチ。三針ではなくて二針のヴィンテージがあったらいいなと思っています。エンブレムが現行と同じ盾のものがレアですがあるらしく、それがいいなと思っているところです」

売買には興味を持てないという矢部さん。購入する場合も全財産を投入するというわけではなく、自分の身の丈から頑張ったら手が出る、くらいのレンジのものを探すところに面白みを見出している。

「もし手放すとすれば、子供や自分が縁がある人に譲る形がいいなと思っています。赤の他人のところに行ってしまうよりも、親しい人と時計と繋がっていくのがいい。時計ではよく聞く話ですが、やっぱり思い入れのある時計は、子供に使ってもらえれば嬉しいなという気持ちが僕にもあります」

こだわりは持ちながらも行き過ぎない。矢部さんなりのバランス感覚で、これからもヴィンテージウォッチとの付き合いは続いていく。

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青山鼓

青山鼓

1974年生まれ。2005年よりフリーランスのライターとして、雑誌『POPEYE』『BRUTUS』でファッション、カルチャーの分野での編集・執筆活動を開始。現在は『Forbes JAPAN』『PEN』『GQ Japan』『Business Insider Japan』などのライフスタイルメディアや『トヨタイムズ』など企業のオウンドメディアで、ビジネス、自動車、時計、ファッション、酒、旅など幅広い領域における、海外取材やVIPインタビューなどを手掛ける。

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