シチズン初のクロノグラフ『レコードマスター』とは? 時計屋が惚れたヴィンテージの魅力

2025.07.23
Written by 編集部

時計マニアが集まるFIRE KIDSのスタッフが、ヴィンテージ時計の魅力を伝えるYouTubeコーナー。毎回異なるテーマで、厳選されたモデルをご紹介する。

FIRE KIDSのスタッフ・久保が最近購入したのは、1960年代後半に登場した国産クロノグラフ、シチズンの『レコードマスター』。知名度は高くないが、短命ゆえに希少性が高く、独自の個性を放つ1本だという。その魅力と購入の決め手を語ってもらった。

国産初期クロノグラフ。シチズン『レコードマスター』

「購入したのは1969年製の後期モデルです」と話す久保さんが腕に巻いていたのは、黒文字盤にレザーベルトを合わせた1本。元はブレスレット仕様だが、「自分の好みでレザーに替えました」と、日常的に楽しめるスタイルに仕上げている。

『レコードマスター』は、1967年に登場したシチズン初のクロノグラフとされるモデル。セイコーが1964年の東京オリンピックに合わせてワンプッシュクロノを発表した後、それを追うように誕生した。製造期間はわずか5年間と短く、希少性は高い。

「当時はあまり売れていなかったらしくて(笑)」と久保は笑うが、むしろその短命さこそがヴィンテージファンにはたまらない。1973年には後継機として『チャレンジタイマー(通称・ツノクロノ)』が登場し、レコードマスターは幕を閉じた。

搭載されるクロノグラフ機能もユニークで、「1分しか測れない」簡易仕様。しかも積算計は非搭載。しかし、その不完全さがむしろ魅力だ。「シンプルさに惹かれて買いました」と久保さんは話す。

さらに、「この価格帯でフライバック機能が付いているのも驚きでした」と語る。フライバックとは、クロノグラフを動作中にそのままリセットでき、すぐに再スタートできる機構。高級クロノグラフにしか見られない機能を持ち合わせる点も、レコードマスターならではだ。

一目惚れの直感と、黒い文字盤への挑戦

購入のきっかけは「直感でした」と久保さんは語る。普段は34mm前後の小ぶりな時計を好んでいたが、レコードマスターの38mmケースには「最初は大きく感じたけれど、着けていくうちにしっくりきた」という。

また、黒文字盤という点にも新鮮さがあったと言い、実は久保さんは、黒い服や時計をあまり身に着けないという。「黒ってちょっと苦手だったんです。でもこの時計は、黒なのに重く感じなくて。むしろ明るく見える黒なんです」。そうした自分の中の違和感も、選んだ理由のひとつ。実際、黒のレザーベルトと文字盤を持つこの時計は、明るい服装と合わせることが多いという。

比べて気づく。前期・後期モデルの面白さ

今回購入したのは後期モデルだが、FIRE KIDS銀座店には前期型も並んでいる。両者を見比べてみると、針の形状やタキメーターの有無など、細かな違いがある。「前期の針は尖っていて、僕の後期は丸みがあります」と久保は説明する。

このように、同じモデルでも細部のデザインが異なるのがヴィンテージ時計の醍醐味。「人と被らないところもポイント。気になった時計を調べていくうちに、どんどんストーリーが見えてくる。その過程も含めて楽しめました」と久保さん。

最初に手にしたヴィンテージ時計は、セイコー5のバースイヤーモデルだったという久保さんは、それ以来、国産時計に親しみを感じているとのこと。「FIRE KIDSと言えば、やっぱり国産。セイコーが王道だけど、シチズンも面白いんです」と話す。

『レコードマスター』は、派手な機能やブランドバリューではなく、ストーリーやデザイン、そして直感で選ばれた1本。。時計屋が自ら購入する時計には、その人の好みや価値観が色濃く表れる。そんな“自分だけの1本”を、あなたも見つけてみてはいかがだろうか。

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