機械式時計を日常で活用し深い魅力と新しい価値を発見しよう
メディアでの時計記事は、客観的に取材をしているジャーナリスト、もしくは時計蒐集が高じて語りたくなったコレクターの方々によって書かれているものが多い。しかし、売る側からの発信は、なかなかお目にかからない。それは、その必要がないからでもある。このコラムはバイヤーであり、現在も時計販売に関わっている人物によるコラム。買い付け、売る側の視点から、ヴィンテージ時計の魅力について語っていく。
使う?集める?眺める?
昨今その資産性が大いに注目されメディア露出が増えたことによりかつてない盛り上がりを見せる腕時計市場。そのため、使用、蒐集以外にも購入(投資)目的で時計が売れることもかなり増えたように思う。
時計の価値が認められていくなかで、資産性という側面は時計の魅力を語る上で重要な要素にもなっている。実際に私も購入の際に一つの指標としているので、資産性を重視するという見方を否定するものではない。
だが、改めていいたい。“時計を使おう!”
時計店のスタッフとしてはコンディションがいいものは、個人的にも興奮するし、商品としてももちろん魅力的だ。それを考えると大切にコレクションをされているオーナーの方々には頭が上がらないのも正直あるのだが、個人的には使用することでより時計の魅力を感じることができるのでは、と思うのだ。
正直、実用品としての需要は低くなっている。しかし、腕元を飾る装飾品としての価値はあがっているように思う。自分のお気に入りの時計をつけているだけで気分が高揚しないだろうか?
デザインや造形美といった外観から、ムーブメント、歴史的背景など時計そのものにも魅力はいくつもある。しかし、使用することで時計の機能であったり、あなたが使用することで、さらに新しい歴史がその時計に刻まれていくのだ、と思う。
使うことで見えてくる機械式の魅力
時計の機能でいうと様々あるが、基本的な針の動き(運針)なども、使用するからこそわかるひとつの魅力だ。
たとえば2000年以降のモデルで定番化しつつある8振動のモデルでは、針の動きは非常にスムーズに感じられる。一方で5振動以下のロービートと呼ばれるモデルでは細かく刻むような動きをしているのがわかる。
ヴィンテージ時計にはないものの、セイコーのスプリングドライブ機構をもつモデルは、その機構の特徴から機械式では実現しえない振動数をもつため、スイープ運針といわれるなめらかな動きを実現している。
実用性、つまり精度という観点からいくと、スムーズな運針の方が優れている。ただ、スムーズなら魅力的なのか?、といわれると必ずしもそうではないと思う。
5振動のロービート時計がカチカチと細かく時を刻んでいく様は、ムーブメントを見ずともアンクルが左右に振れている様子が想像でき、機械式を持っている実感がわいてくる。
アナログだからこそ、機能にも味が出る。回転ベゼルを搭載しているモデル、たとえばダイバーズモデルによく搭載されているカウントアップ式の回転ベゼルは、ちょっとした作業の時間測定に使用できる。GMT機能などの第二時間帯を表示できる機能も、出張先など、現地でセットすることでスイッチを入れる役目を果たすし、MLBや欧州サッカーの試合などで、現地開始時刻をチェックのも楽しい。
スマートウォッチほどの多機能を持つ機械式時計は存在しない。しかし、それぞれ特化した機能で、少しでも日常生活を助けてくれる腕時計を使用していると愛着が湧いてくるのは確かだ。
そうしてその時計を味わいつくしたときに、自分とその時計の歴史ができ、個性のある魅力的な一本となっていくのである。
writer
赤井幸平
91年福井県出身。大学卒業後某中古時計店にてバイヤー兼販売員として7年ほど勤務。この度は、時計好きつながりでファイアーキッズにコラムを書くことになった。好きな時計は90年代ロレックス全般 、オーデマピゲ『ロイヤルオーク』、IWC『ポルトギーゼ』