長生きする一生モノの時計。30万円以下で買えるヴィンテージウォッチ3選
出演:野村店長×クリス(販売スタッフ)
美品&最高級! セイコーのロードマーベル
今回は、30万円以下で手に入る一生モノの時計を紹介する。30万円以下で買えるものはたくさんあるが、そのなかでも厳選した3本を見ていく。1本目はクリスさんがおすすめする、セイコー『ロードマーベル』(1959年製 初期 手巻き SS Ref.14056)だ。
「私はこれを『グランドセイコー1st』のお父さんと呼んでいます。なぜお父さんかというと、日本初の高級時計として出たモデルです。翌年1960年に『グランドセイコー1st』が登場しますが似ていませんか?」(クリスさん)
「似ている! グランドセイコーとは系統が違うけれど、文字盤や針にそのにおいは感じるよね」(野村店長)
6時の位置にある星のようなマークは、SD(Special Dial)ダイヤルと呼ばれるものだ。貴金属を使っている高級文字盤であることを意味し、インデックスにはプラチナメッキが施してある。『グランドセイコー1st』もほとんどがSDダイヤル。尖った山型の針も『グランドセイコー1st』の初期の特徴と酷似している。文字盤上部の“Seiko Lord Marvel”の文字はプレスされている彫文字タイプだ。
「当時は国産の最高級時計として売り出されたモデルなので、作りは良いですし高級感のある顔も良いよね」(野村店長)
価格は29万8千円。『ロードマーベル』のなかでは高い方だが、現在ファイアーキッズにあるものは非常にコンディションが良い。裏がラバーになったファイアーキッズオリジネルの革ベルトが付いている。
戦時下の面影を残す、ミネルバのオリジナル
次は、野村店長がチョイスしたミネルバ『オリジナル』(1940年代 ブラックアラビアダイヤル 手巻き)を紹介する。
すでに80年が経過しているが一生使える代物で、価格は17万8千円だ。黒文字盤に夜光入りのアラビア数字と夜光入りの針を組み合わせたデザインは、第2次世界大戦中に一番売れたという。軍隊に卸していた軍用時計とは別のラインナップとして売り出され、士官などの偉い人たちは自分で買い求めていたようだ。
この時代の時計は戦争を経ているため状態が悪いものが多いが、ミネルバのケースはステンレスで状態が良い。当時は真ちゅう地にクロムメッキが主流であったなか、無垢のステンレスを使っている。
「ステンレスだからこそ一生使えるというのもありますよね」(クリスさん)
「メッキが剥がれたり、腐食が進んで水が入ったり湿気が入ったり。ステンレスの場合はそういうのが少ない。だからこそ一生モノ」(野村店長)
耐震装置も入っておりステンレスケースで防水性もバッチリである。
ミリタリーテイストではあるが、アラビア数字がカジュアルな印象を与える。クリスさんは太めのアラビア数字が可愛く見えるようで、二人とも「女性が着けていたら2度見するね」と笑う。男性はもちろん、意外性を狙う女性にもおすすめの1本だ。
実用時計の王様! シチズンのホーマー
ラストに登場するのは野村店長が「カッコイイ!」と思わず拍手をする、シチズン『ホーマー』(門鉄 手巻き 1971年製)。「この時計こそ実用時計の王様。しかも一生モノ」と太鼓判を押す。
『ホーマー』は国鉄の職員に支給されていた時計だ。価格は5万8千円で、一生モノの時計としては安めといえる。たくさん支給されていたからこそ価格が抑えられており、当時国鉄の職員がたくさんいたことがうかがえる。
「何よりこの時計は見やすいですよね」(クリスさん)
「国鉄は今のJR。いかに正確な時間で運行できるか、この時計が重要な役割を担っていたと思う。針が目盛りにピッタリな感じがたまらないね」(野村店長)
「子どもに時計の絵を描かせたらこんな感じになりますよね」(クリスさん)
「子どもに描かせたようなデザイン? 面白いね、その発想は」(野村店長)
そのシンプルで機能的なデザインから、野村店長はドイツのバウハウス(機能主義的な芸術)の影響を受けているのではないかと推測する。
するとクリスさんは「これは国鉄なので」と言いながらリューズを引いた——。秒針が止まるかを確かめるためだ。今では当たり前の秒針規制装置だが、当時は高級時計にしか付いていない機能。『ホーマー』は高級時計ではなく普及機の位置付けだが、時刻が重要である国鉄に支給する時計として秒針規制装置が付けられていた。
1972年の早生まれである野村店長は、1971年製の時計を見ると「同級生という感じがする」と語る。クリスさんは1986年生まれ。すでにクォーツが主流の時代であったため、常々自分の生まれ年の機械式時計に出合いたいと思っているもよう……。同じ時を刻んできた生まれ年の時計を買うというのも、面白い選び方かもしれない。
裏蓋の刻印もしっかりと残っており、改めて状態の良さを見た野村店長は「一生モノといって間違いない。こいつは俺より長生きするよ」と付け加えた。
国鉄を退職する際には返還し、また次の職員へと貸与された『ホーマー』。処分する際には国鉄から売りに出され、裏蓋に廃棄のマークが刻印された。しかし、これには廃棄のマークがないため「正規のルートを辿っていないのでは?」という。
「そういうストーリーを考えたり聞いたりする楽しみがヴィンテージ時計にはあるじゃないですか。最高ですよね」(クリスさん)
「新品で一生モノの時計となると何でも高いけれど、ヴィンテージ・アンティークの時計は本当に手頃な価格で一生モノがある」(野村店長)
手頃な価格である理由は、メンテナンスのしやすさにもある。野村店長曰く、一生モノといわれる時は町の時計屋さんでメンテナンスすることが前提で作られているという。ヴィンテージウォッチを買う際には、メンテナンスがしやすい時計かどうかもチェックポイントにすると良いだろう。