スピードマスターとコンステレーション、オメガ2本使いのカリスマ美容師

2023.12.04

文=小山田滝音

時計好きに「あなたの時計、見せてください」。さまざまな職業の時計付きの専門家に、時計との出会いや遍歴、愛について伺うこのコーナー。ひとつの時計が持ついくつものストーリーから、知られざる時計の魅力を発信していきます。

今回、時計を見せてもらったのは、美容院「Marrows(マロウズ)」オーナーの神田晋介さん。オメガが好きで、特にお気に入りは『スピードマスター』と『コンステレーション』の2本。どうこの2本を使い分けしているのか? 最終的にはオーデマ ピゲ『ロイヤル オーク』を手にしたい、神田さんの思いとは…?

新宿にある人気店のオーナー

1986年生まれ、東京・町田出身の神田さん。中学卒業後、内装業などを経て16歳で美容師の世界に飛び込んだため、37歳ながらにしてこの道20年のキャリアを持つ美容師のカリスマだ。

22歳の頃、都内や川崎市にある美容院に勤めていた神田さん。当時通っていたタトゥースタジオの社長から「美容室を出すから店長になってほしい」と誘われ、その店の店長に就任した。やがて店が繁盛し“予約が取れない店”に成長すると、独立を決意。2017年、31歳のときに新宿に「Marrows」をオープンさせた。

幼少期からヴィンテージものに囲まれて育ったという神田さん。父親が着けていたセイコーの時計に憧れを抱いたことも影響しているようで、いまではヴィンテージの時計が好きという。

「ヴィンテージ家具に囲まれ、木製の家具などはレモンオイルで綺麗にするは当たり前。音楽はレコードで流すような家で育ちました。古いものの質感が私にとっては馴染みのあるもので、自分の店もヴィンテージ家具で揃えています。時計もどうしてもヴィンテージものに目が行ってしまいます」

そんな神田さんの左手首にあるのは、オメガ『スピードマスター プロフェッショナル』。1998年製のモデルだ。

泣く泣く手放したスピードマスターを再び手に

「実はスピードマスターはもともと持っていたんですが、コロナで地獄を味わって…。当時街から人が消え、お客さんは誰も来ない。営業がまともにできるはずもなく、さらには生活もできなくなり、泣く泣く売るしかなかったんです。そのときに『絶対に取り戻そう』と決めていました」

と辛かった時期を振り返る。

コロナが落ち着くと客足も戻り、店の売り上げもコロナ前くらいと同じくらいに回復。そして今年の夏、念願叶って『スピードマスター』を再び手にすることになったという。

素敵なエピソードを語ってくれた神田さんは、「実は今日、もう一本持ってきたんです」と少し照れた表情を浮かべ、バッグに手を伸ばす。バッグから取り出したのは、オメガ『コンステレーション』だった。

「オメガが好きで、今年に入りコンステレーションを購入しました。どちらを着けるかはその日のファッションで決めます」

金髪、そして、腕にはタトゥーが入る神田さん。「Tシャツ、タトゥー、時計でワンセット。トータルでコーディネートしています」と神田さん流のスタイルを教えてくれた。

最終目標はオーデマ ピゲ『ロイヤル オーク』

「時計は生きているアクセサリー」と語る神田さん。いわゆる高級時計を初めて身に着けたのは31歳のときだったそうで、当時、約35万円でオメガ『スピードマスター』だった。ちょうど自身の店を出すタイミングで、気合いを入れるために購入したそうだ。

以来、ロレックス『サブマリーナー』やロンジン『アドミラル』、パネライ『ルミノール』など、心境や状況に合わせて相棒を替えてきたというが、常日頃時計を身に着けているとひょんな出会いもあるという。

「サロンのお客さまから『その時計は何?』などと興味を持たれ、そこから会話が弾んで仲良くなるというシーンは何度か出くわしましたね」

ときに不思議な縁を運んでくるヴィンテージ時計だが、神田さんはヴィンテージ自体が「とっつき難いジャンル」と言及する。

「時計だけでなく、家具全般のヴィンテージものに言えることですが、すぐ壊れないか、維持にお金がかからないか、適正な価格は?といった不安は、深く入っていかないとわからないところがあります。そんなときに、僕みたいな気楽に話せる人がいると良いのかなと勝手に思っています。そのアクセサリーは?時計は?あの家具は?僕が経験した範囲で赤裸々に答えられますし、分からなかったらもっと詳しい人にバトンを渡せます。時計のことならもちろんファイアーキッズをまっさきに紹介しますが(笑)。なので一つのアイコンとして、ヴィンテージ時計は大切なコミュニケーションツール。美容師として、サロンとして、一つの武器といえるかもしれません」

これまでに手にした時計を一つひとつ大切にしてきた神田さん。

「時計は“生きているアクセサリー”。手入れを怠ると少し時間がずれてしまうし、古いものであるが故に少し手間をかけないといけないところもありますが、そういった時間や行為も含め、大切にしたいと思っています」

最終目標は「オーデマ ピゲ『ロイヤル オーク』を手に入れること」と意気込む神田さん。店を大きくし、発展させ、そして欲しい時計を手にいれるため、今日も目の前にいる人の髪をカットする。

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