【社長の愛用腕時計】本質と行く末を考慮して選んだパテック&カルティエの2本
文=長谷川 剛
時計好きに「あなたの時計、見せてください」と依頼するこの企画。今回はグルテンフリーやヴィーガン向けスイーツを手掛けるTHE TOKYOのCEO、黒川さんにインタビュー。物欲の根本を見つめたソリッドなウォッチチョイスは、確かに参考になるもの。
洋服と時計にこだわり
長年におけるアパレルショップ勤務を経て独立した黒川さん。趣味のコーヒーを極めるなかスイーツブランドを立ち上げるなど、ユニークな経歴を持つ人物だ。洋服と時計に関しては若いころから強いこだわりを持ち、特に近年、そのこだわりをさらにブラッシュアップさせ現在に至っていると言う。
「時計に関して言えば、近年まではブライトリングやロレックス『サブマリーナー』、それにパネライなど、わりと外見的にも存在感や重量感のある時計を選んでいました。しかし、あるときそういった自身のチョイスを見直す切っ掛けがあったのです。僕のスタイルのひとつにタトゥーがあるのですが、あるとき懇意にしている彫師さんに絵柄を相談した際、『歳をとってシワなどが入るようになったときでも絶対に後悔しない絵柄がイイ』とアドバイスを受けたのです。その意見を自分なりに考えてみて、確かにそうだと納得する部分があり、身の回りの色々な事物にも当てはめてみたのです。衣服についてもそうですが、インテリアや時計に関しても長年納得して使用できるものとは何かを考えてみたのです」
熟考の末に黒川さんが選び出したひとつがサントスのガルベである。腕時計の元祖とも言われるカルティエ サントスにおける、曲線美とビスモチーフをポイントとするモデルだ。
「時を経ても変わらず身に着けていたいモノを意識したときに、僕の場合はまず適正サイズであることが基本と思いました。いわゆるデカ厚ではなく、腕に心地よくフィットするサイズ感を重視したのです。そして日常使用もひとつの前提ですので、素材は耐久性あるステンレススチールを。またタトゥのこともあるので、あまり腕元がイカつく見えないエレガントなデザイン、さらに長年のサポート的にも体制が整っている、背景の確かなブランドということを考慮し、カルティエの『サントス』を選び出したのです」
オーストラリアのオーナーから
現行モデルの『サントス ガルベ』では黒川さん的にやや大きめ。そこで数型前となる90年代後半モデルをピックアップ。オーストラリアのオーナーからインスタグラムを介して購入したのだという。
「ポイントはアイボリー文字盤とブルーインデックス。アイボリー文字盤はソフトな経年変化が楽しめますし、ブルーインデックスとのコンビネーションにより、適度なカジュアル感があって自身の服装ともマッチする色合いです。確かに白や黒のダイヤルも良いのですが、僕にはちょっと違うかなと。また、パテックの『ノーチラス』なども候補に上がっていたのですが、少し自分のサイズ感や使用目的にマッチしない部分があり、最終的にサントスに落ち着きました。購入前からの予想どおり、このサントスは自分の趣味であるユーズドスタイルにもハマるし、襟付きなどのキレイめな服装にも品良くマッチします。この時計に合わせて90年代のトリニティリングやラブリングとコーディネートし、自分らしい腕元スタイルを楽しんでいます」
『サントス ガルベ』はSS製ということからシルバートーンが特徴となる。ワードローブやコーディネートにこだわりを持つ黒川さんは、その対となるゴールドバージョンを狙うようになったのはある意味自然だ。偶然の出会いもあって、金無垢のパテック フィリップ 『カラトラバ』を半年ほど前に手に入れたのだそう。
「これは、とある質屋さんが手放すという情報を聞いて押さえたもの。いわゆるビッグ・カラトラバと呼ばれる35㎜ケースが特徴のRef.570です。ポイントは希少なYGケースであるところ。WGモデルはたまに見掛けますが、これを購入するときに、某ショップでは『現在出回っているYGのRef.570は三本』と紹介していたので、それなりにレアモデルと思われます。ビンテージの『カラトラバ』と言えばRef.96のように31㎜等の小径ケースが象徴的。しかし骨太の自分にはバランス的に少々小振りすぎと感じました。というわけでミッドセンチュリー的なRef.570に目を付けたのです。その質屋さんから出てきたRef.570は非常にコンディションも良かったため、プライス的にも中々のモノ。ですので、それまで愛用していたロレックス2本とクロムハーツのアクセサリーを処分して手に入れることとなりました。手にして改めて感じるのは、カラトラバの研ぎ澄まされたデザイン性。スイス時計の頂点と言われるパテック フィリップの代表作だけあって、素晴らしい完成度を眺めるたびに感じます。今年(2023年)の6月には限定的な展示会が日本で行われるということで、思わず応募してしまいました(笑)。すべての現行モデルに加えレアピースも多数取り揃うということで、今から参加がとても楽しみです」
writer
長谷川剛
1969年東京都生まれ。エムパイヤスネークビルディングに所属し、『asAyan』の編集に携わる。その後(有)イーターに移籍し『asAyan』『メンズクラブ』などを編集。98年からフリー。『ホットドッグプレス』『ポパイ』等の制作に関わる。2001年トランスワールドジャパンに所属し雑誌『HYBRID』『Warp』の編集に携わる。02年フリーとなり、メンズのファッション記事、カタログ製作を中心とする編集ライターとして活動。04年、エディトリアルチーム「04(zeroyon)」を結成。19年、クリエイターオフィス「テーブルロック」に移籍。アパレル関係に加え時計方面の制作も本格化。