時計のプロがススメる腕時計と永く付き合うために必要なこと

2023.09.10
Written by 赤井幸平

文=赤井幸平

1958年製のモデル(ロレックス『デイトジャスト』)もしっかりメンテナンスしていれば、美しい状態を保つことができる

時計のバイヤーとして仕事をしているとやはり販売買取というところにフォーカスしてしまうが、実際に時計を持つと言うことはその時計と10年単位での付き合いになる。それが何十年と続いても、しっかりとメンテナンスなどを行えば使い続けることができる、というのは機械式時計の一つのメリットである。しかし不適切なメンテナンスで良さが失われてしまうこともある。

日々のメンテナンス

日常的な使用による汚れは目立たないものの着実に蓄積されている。ダメージの補修は難しいが、柔らかいクロスで汚れを軽く拭き取ることで、汚れの蓄積を防ぎ、綺麗な状態を保つことができる。

しつこい汚れがついた場合防水性能の高い時計については水洗い派の人もいるが、ヴィンテージについては防水性の確保が難しいことを念頭にいれ避けた方がいい。どうしても気になる場合は購入店に相談するのもいいだろう。

例えばブレスレットだけ簡易に超音波洗浄を行うなどできるかもしれない。(ちなみに本体ごと超音波洗浄に入れたという話を聞いたことがあるがヴィンテージに限らず故障につながるのでブレスレットのみにとどめた方が良い)

オーバーホール・分解掃除

必要なメンテナンス、頻度は数年に一回と高くないものの、怠ると悲惨な目に遭うことも。

具体的に何をするかというと分解して掃除、洗浄し注油を行うのだが、いわゆる定期的なオーバーホールは最後の油部分が厄介で、当然ながら摩擦を少なくすることを目的としているが、3年から5年ほどで油が劣化し、粘性をもち、各パーツを傷める要因になる。

そのため例えば一見正常に動作しているように見えてもオーバーホールをした方がいい場合は存在する。

ひとつひとつが非常に繊細な部品で構成されるため、一概にオーバーホールが要因とは断言しづらいが、パーツの破損欠損につながり、次のオーバーホール時に費用が嵩んでしまったり、時間が余計にかかってしまったりする。

長く付き合うなら定期的なメンテナンスをおすすめする。

磨きについて

最後に紹介するのは非推奨のメンテナンス、磨きについてである。

非常に一般的なメンテナンスの一つで、メーカーでもコンプリートサービスという形でオーバーホールに加えポリッシュを行う、という場合もある。中古時計の販売店においても仕上げ済み、などという表記があるが、これも磨きがされているということだ

一般的なメンテナンスの一つに見えるが個人的には非推奨だ。

磨きは削るということ、削るために可能な回数が決まっており何回もできるものではない。傷を消すのではなく、削り取ってわからなくする、という認識の方が近いかもしれない。

そのため最もよく言われるのはケース形状が変わる、いわゆるケース痩せなどと言われるもので、エッジが丸くなったり、細くなったりする。一見した見た目に綺麗になっても、ケース自体はダメージを負っているという認識でもいい。

また全体のポリッシュは時計によるが5回程度が限界と言われていて、それ以上は品質が保てないためメーカーでも断られるという場合もある。

このように見た目や性能が下がる磨きはやはり極力行わない方が良い。もしするとしたら、ある程度の傷は自身の時計らしさだと思い、どうしても磨きをしたくなった場合だけ販売店やメーカーに相談しつつ慎重に検討してほしい。

writer

赤井幸平

91年福井県出身。大学卒業後某中古時計店にてバイヤー兼販売員として7年ほど勤務。この度は、時計好きつながりでファイアーキッズにコラムを書くことになった。好きな時計は90年代ロレックス全般 、オーデマピゲ『ロイヤルオーク』、IWC『ポルトギーゼ』

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