【時計の基礎知識講座】歴史から仕組みまで「機械式時計」を徹底解説!

2024.04.12

出演:野村店長×宮崎(販売スタッフ)

今回は新企画『時計の基礎知識講座』をお届けする。初回のテーマは機械式時計について。購入してから「機械式時計って何?」「針が動いていないのだけれど……」といった問い合わせも少なくないという。このYouTube(記事)を見れば機械式時計の基礎はバッチリだ!

機械式とクォーツの違いとは?

まず、時計は大きく「機械式」と「クォーツ」の2種類に分けられる。その違いについて野村店長が解説する。

「スプリングドライブという例外もあるけれど、機械式は基本的にゼンマイを動力としている時計です。クォーツは電池が動力。電池もしくは二次電池、充電池ですね。大きく分けるとゼンマイと電池の違いです」(野村店長)

機械式には手巻きと自動巻きがあるが、その違いについても聞く。

「手巻きは巻かれたゼンマイの戻る力を利用している。テンプといわれる輪が一定の速度で動くことによって、ゼンマイの解けるスピードを調整しているもの。長いものでは一週間巻きみたいな時計もあるけれど、一般的には2日弱くらい持ちます。毎日巻いてあげると良い時計です」(野村店長)

「自動巻きは、手に着けて運動することによってゼンマイが巻き上げられる方式。これが画期的なシステムで1930年くらいから出ている。ロレックスが一番実用的といわれていて、全回転ローターというタイプです」(野村店長)

「中に重りみたいなものが入っていて、動くことによってそれが回転して動力になる」(宮崎さん)

「回転することによってゼンマイが巻かれていくシステムですね。毎日使っていれば勝手に動き続けてくれる」(野村店長)

野村店長曰く、自動巻きの時計は時間のズレが生じやすいという。年代にもよるが、1日で数秒〜1分くらいのズレが発生する。それに対し、クォーツのズレは月や年単位で数秒ほどだ。正確性ではクォーツの方が優れているが、メカニックへの憧れから機械式のファンも多い。

「機械式の良いところは、分解掃除を続けていけば一生使える時計がほとんどです。それに対してクォーツは交換する機械がなくなったらおしまい……。クォーツの時計で一生使える時計はほぼないかな」(野村店長)

クォーツは1969年に誕生したが、直せなくなっている時計もたくさんあるという。機械式も状態が悪ければ直せなくなる時計もあるが、そのほとんどが使い方の問題。丁寧に扱えばクォーツよりも長く楽しめるのが機械式だ。

「一生使うことを考えると、クォーツの部品問題を含め、ヴィンテージ(機械式)の価値が上がっている意味がわかる気がします」(宮崎さん)

「そうだよね。機械式でもなんとも言えない時計もあるけれど、ヴィンテージ時計は基本的に町の時計屋さんで直せる設計なので、メンテナンスはしやすくて一生物と言っていい作りの時計が多いと思います」(野村店長)

メンテナンスは4年に1回が目安。定期的に分解掃除することでより長く使えるようになる。時計にもよるがメンテナンス代は2万円くらい。複雑な時計であれば10万円ほどかかる場合もあるだろう。クォーツも基本的には分解掃除が必要だといわれているが、電池交換をして動かなければ買い換える流れがほとんどだ。

「クォーツは製造打ち切り後、8年間は修理を受けつけるという法律がある。その間はメーカーで修理やパーツの供給が義務付けられているけれど、年数を超えるとなくなってしまう。分解掃除しても回路がなかったら直せないですね」(野村店長)

軍用から広まった機械式の歴史

続いて、機械式時計の歴史をたどる。

「19世紀になると今の基本的なゼンマイ時計が登場。ゼンマイの解ける速度をテンプといわれる振り子の部分で調整する……。振り子時計はわかる?」(野村店長)

「曲でありますよね。『大きな古時計』の時計ですよね?」(宮崎さん)

「振り子が一定の速度で振れることによって、ゼンマイが解けて針の進みも一定の速度になる。中に天輪といわれる輪があって、今の機械だと8振動(1秒間に8回行ったり来たりする)を一定の速度で動くことによって、ゼンマイの解けるスピードが安定して針の動きも一定になる方式。それが19世紀に確立されてくる」(野村店長)

「腕時計の基礎みたいなものが19世紀に生まれた?」(宮崎さん)

「そうだね。その当時はまだ懐中時計というポケットウォッチ。当時テンプの速度は5振動とか低振動のタイプだけれど、今の時計に近いものが開発されたのが19世紀」(野村店長)

「基礎的なことが19世紀に開発されて、20世紀になると懐中時計から腕時計への移行が進んだ?」(宮崎さん)

「19世紀末くらいにドイツ軍がジラール・ペルゴに『腕に巻けるように作ってくれ』と発注したのが最初といわれているけれど、イギリス軍が最初だとか諸説あります」(野村店長)

軍隊では作戦行動の時間を部隊で合わせる必要があった。それが腕時計の発祥とされている。そこからどのように一般の人へと広まっていったのだろうか。

「時計は高価な物だった。だから貴族とかお金を持っている商人とかが懐中時計を持っていた。それが一般に広まったのはやはり20世紀に入ってからですね。大量生産化されたのが19世紀中で、より一般化されたのが20世紀」(野村店長)

「懐中時計を腕に巻いている時代があった。その後、腕時計の形になったのは何年くらいですか?」(宮崎さん)

「1930年代。それまで腕時計をするのはパイロットや軍人など職業的に必要な人。お金持ちは金の懐中時計を持っていた。パテックがカラトラバ30mmくらいのサイズで正確な時間を刻める時計を出して、お金持ちの間にも袖口に収まるサイズで腕時計が広まっていった」(野村店長)

1930年代は、小さいサイズの腕時計をすることがお金持ちの間でステータスであったという。それからより一般化したのには戦争の影響がある。第二次世界大戦にてスイスが生産力を上げたことが大きい。一般人が腕時計をするようになったのは1940年代に入ってからのようだ。

昔は、教会の鐘の音やラジオで時間を確認していたが、腕時計は戦後の大量生産により一般人にも手が届く価格で提供され、人々の必携アイテムへと成長。1950〜1960年代には、社会人であれば一本は持っているものへと一般化されたという。

機械式に冬の時代が到来。1969年のクォーツ革命

機械式が一般化された後、1969年により正確なクォーツ時計が発売されたことで機械式に冬の時代が到来する。

「1969年。セイコーからクォーツが出たことによって、機械式は“冬の時代”を迎えることになるんですけれども……」(宮崎さん)

「クォーツのファーストモデルはセイコーが出したけれど、車のカローラと同じくらいの価格だった。1969年の時点ではそんなに強い影響はなかったです。でも量産化していくことによって、一気に価格が下がっていった。僕は1972年生まれで、5歳くらいの時には親からクォーツの時計(2〜3千円)を買い与えられていたと思う」(野村店長)

「機械式は金額面や精度でクォーツに勝てず、ここからクォーツの時代が始まる」(宮崎さん)

「たぶんスイスの時計メーカーの3分の2がなくなったんじゃないかな。名前だけ残ったメーカーもたくさんある。破綻したり破綻を避けるためにメーカー同士がくっついたり。有名どころだとスウォッチグループ。オメガ、ティソ、ブレゲ、ロンジンとかがくっついて生き残りを図った」(野村店長)

「機械式には相当なショックがあった」(宮崎さん)

「有名な話だけれど、オメガが生き残ったのはスウォッチのおかげ。スイスのお土産物として数千円で買えるスウォッチ(クォーツ時計)が世界的にヒットして、オメガが潰れなかったといわれるくらい」(野村店長)

ステータス感やメカニカル志向による、機械式の復権

クォーツが市場をひっくり返したが、今は機械式も人気がある。新品の時計でも「高級時計といえば機械式」といわれる時代だ。機械式はどのようにして復権していったのだろうか。

「いろんな要因があるけれど、最初はヴィンテージが流行ったんですよ。なぜかというと、スイスのメーカーも良い機械を作らなくなったから『ヴィンテージの方が良いよね』という流れが1980年代後半くらいからきた。その流れが1990年代も続くなかで『研究開発費をかけて新しく機械を作っていこう』というメーカーが増えていった。そして、腕時計に求めるものが変わったことが大きい」(野村店長)

2000年以降は誰でも携帯を持つようになり、正確な時刻がわかる時代になった。だからこそ機械式の復権につながっていると野村店長は分析する。正確な時刻がわかる今、腕時計に求められているのは、ステータス感やメカニカルとしての魅力。デジタル化の流れと逆行し、“道具”としての時計が再評価されている。

「2000年くらいの時計は大きいですよね。それはやはり『これを着けているぞ』と見せられるようにあえて大きくしたんですよね?」(宮崎さん)

「それも一つあるし、あとは自社ムーブメント化のなかで、機械が大きくなっちゃったという理由もある。最近はまた小さくなっていく傾向。技術競争のなかで厚さが注目されて薄型化が進んでいる」(野村店長)

最後に、ファイアーキッズが機械式を推している理由を聞いた。

「やはり一生物。使い方を誤れば一生物じゃなくなっちゃうけれど、丁寧に使ってあげれば50年でも100年でも使えるよ! というのが古い時計の良いところ。特にヴィンテージの時計は町の時計屋さんでも修理できるように設計されている。そこが今の時計と違うヴィンテージの良いところかなと思います」

時計を長く楽しむには維持費もかかり、メーカーでしか直せない時計はメンテナンス代も高くつく。メンテナンスしやすく何年でも維持できる一生物と出合えるのが機械式(ヴィンテージ時計)の魅力だ。

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