セイコースタイルとは? GS61など名作4本をもとにヴィンテージのプロが徹底解説
時計マニアが集まるFIRE KIDSのスタッフが、ヴィンテージ時計の魅力を伝えるYouTubeコーナー。毎回異なるテーマで、厳選されたモデルをご紹介する。
国産時計の最高峰と言えばグランドセイコーを思い浮かべる方も多いのではないだろうか。高い精度や技術力、美しいデザインは世界的な評価も非常に高く、ヴィンテージ市場でも人気のモデルだ。今回は人気の理由を深堀すべく、セイコーのデザイン文法「セイコースタイル」について解説していく。
セイコースタイル3つのポリシーと9つのデザイン要素
高級腕時計に相応しい外観を与えるために考案されたセイコーのデザイン文法「セイコースタイル」。1967年発売の44GSと呼ばれるグランドセイコーが「セイコースタイル」を確立させたと言われ、この基本デザインは61GSや45GSへ継承されていった。
「セイコースタイルには3つのポリシーがあって、1つ目は平面を主体として、平面と二次曲面からなるデザイン、三次曲面は原則として取り入れない。2つ目は、ケース・ダイヤル・針の全てにわたって極力平面部の面積を多くする。3つ目は各面は原則として鏡面とし、その鏡面からは極力歪みをなくす」(松浦さん)
この3つのポリシーによって9つのデザイン要素が施されていると言い、セイコースタイルでは重要なポイントとなっている。
1.12時位置のインデックスが他のインデックスの2倍
2.文字盤が平ら
3.全てのインデックスが多面カット
4.針も多面カット
5.横から見ると逆斜面カットのケース
6.ケースの平の仕上がりが鏡面
7.ベゼルも鏡面仕上げ
8.リューズが埋め込まれている
9.ケースの丸みが接線
「スイスと競るというよりは、セイコーはスイスを超えてきている意識みたいなものが現れているかな」(野村店長)
「1960年のグランドセイコーファースト登場から3年後にセカンドが出て、セカンドから44GSと62GSが誕生。1967年に44GSはロービート手巻き、62GSがロービート自動巻きとしてそれぞれ2年間の製造。44GSから引き継いで45GS、ハイビート自動巻きが引き継がれて、そこから61GSハイビート自動巻きとなる。1970年に56GS、8振動自動巻きに戻るというようなタイムラインです」(クリスさん)
「何といってもこの素敵な見た目。スイス時計にはないケーシング、これぞやはりセイコー、これぞ国産の頂点と言える時計ですよね」(クリスさん)
立体的インデックスのVFAと74年8月のみ制作の希少モデル
まずはスタンダードの61GSに比べると特徴が少し変わってくる『グランドセイコー V.F.Aファーストモデル Ref.6185-8020 1969年製 61V.F.A 純正尾錠付き』。ケースの12時と6時位置、傘型のカットが施されている。
「デザインとしたらこのVFAのインデックスはたまらんよね」(野村店長)
「昔、時計の中の世界が街みたいだと思いました。やはりVFAは中身の素晴らしさ、当時月差1分という点もすごいんですけれども、このセイコースタイルというケースは皆さん欲しいですよね。セミバブルじゃないですがポコンとした感じが」(クリスさん)
「腕に乗せた時の座りの良さ。これは裏蓋のおかげ」(野村店長)
10振動は小型化できる技術力として海外メーカーは使っているが、グランドセイコーはどちらかというと精度に全振りしているため厚みは結構あると言う。「でもブレス付きも良いですよね」ということで、『グランドセイコー スペシャル 1974年製 ハイビート 61GS Ref.6156-8040 GSブレス付き』を見ていく。
「やはりブレス付き、スペシャル嬉しい。雪国ダイヤル。白樺まで行かないみたいな」(野村店長)
「日本カタログに出ていなかった、マレーシアやシンガポール向けに出していたGSから白樺をインスパイアして出しているんでしょうね」(クリスさん)
「しかもケースにラグがない。これはブレス付き、もちろんブレスモデルになってくるとそういうのが多いですよね。ただ革ベルトを付けてもカッコいいですよ」(クリスさん)
1974年の8月にしか作ってないと言われている希少モデルだ。
当時月差±1分以内のVFAと実用性に優れた56GS
諏訪セイコーから製造された当時月差±1分以内という超高精度の調整が施された『グランドセイコー V.F.A 1971年製 Ref.6185-8021 10振動自動巻き』は、最終型とも言えるそうだ。
「61GSは1番製造期間が長いモデルなので個体数もたくさんあって、あまり人気じゃないという面もありますが、顔になっていた時間が長いので、グランドセイコーの代表と言ったら、やはりファーストじゃなくて61GSです」(クリスさん)
「賛同する。56GSになると8振動に落ちるでしょう? チューンナップ的には、この61GSの10振動が技術的には最終型だと思っていて、トップ・オブ・GSみたいな」(松浦さん)
「61GSは1つの完成形だと思うよ。10振動はコンクールで上位の成績を出す技術で、それに自動巻きも加えてあります、変に小型化してませんってね」(野村店長)
56GSは背景的にはクォーツという最高級品が別にあるため、最高級品としては発表されていないように感じていたとも話す。『グランドセイコー 1971年製 Ref.5646-7010 56GS アイボリーダイヤル 8振動自動巻き』は、センターセコンドで3時位置にデイデイト付き、スクリューバック仕様、視認性と防水性が高く実用性に優れている1本だ。
「文字盤のスタイルや色味など、これはこれでまた別カテゴリーで超最高なんです」(クリスさん)
「サイズ感は日本人の腕にはちょうど良いよね。着けやすさ、使いやすさが絶対的にある。それぞれ良いところはあるんだけれど、61GSは最高級品として作られてると思う」(野村店長)
アメリカ出身のクリスさんは、日本やセイコーの芸術的なセンスにも惹かれると言う。逆斜面カットにすることで光と影の演出が美しく、光らせれば良いということではなく、意図して影をつくることで薄さや表情のある輝きが生まれると話す。
「本当にシンプルだもんね。『V.F.Aファーストモデル Ref.6185-8020』なんかは、どうせだったら左右対称にして欲しかった気持ちもなんとなくある」(野村店長)
「分かる気がします。完成しているんですが、確かにセイコースタイルの10番があったとしたら、10要素目は『左右対称』かもしれないです」(クリスさん)
「そうなってるかもしれないね。セイコースタイルあってこその、このキラキラ感あるもんね。シンプルなこのスタイルの中に」(松浦さん)
平面を主体とした造形に、鏡面が放つ光と影に日本的な美意識が反映されているセイコースタイル。この機会に、シンプルでありながら洗練されたデザインと高い技術力を備えたグランドセイコーシリーズを改めてチェックしてみてはいかがだろうか。