『44GS』のデザイン哲学を継承
1960年の発表以来、スイスの高級時計に追いつけ追い越せと数々の名機をつくりだしてきたグランドセイコー。その歴史において、もっとも認知されているのが67年に誕生した『44GS』であろう。デザインにおいて現行グランドセイコーの原点となったモデルである。
ここで紹介するのは、68年に『44GS』のデザイン哲学を受け継ぎながら、さらなる進化を遂げた『45GS』である。『44GS』の影に隠れて、それほどポピュラーな感じではないが、発売当時は大きな話題となったモデルだった。それが、このモデルの最大の特徴であるブランド初となる手巻き10振動ムーブメントの搭載であった。この革新的なムーブメントにより、45GSは姿勢差や外乱に対して驚異的な安定性と高精度を実現している。これによって当時の時計業界に衝撃を与え、グランドセイコーの技術力を世界に知らしめる存在となったのだ。
10振動とは、毎秒10度テンプが振幅運動することを指す。振動数が多いということは秒針が高速かつ小刻みに動くので、姿勢差や外乱の影響を受けにくくなるという利点がある。ただパーツ摩耗が早く、駆動力を保持することも難しくなるというリスクもある。グランドセイコーはそれをブランド草創期から実現していたのである。
誕生から56年経った今年、その『45GS』が復刻モデルを発表した。それはオリジナルモデルの魂を受け継ぎながら、最新技術でさらなる進化を遂げたものであった。その心臓部は、もちろん今春発表されたばかりの最新ムーブメント10振動の「キャリバー9SA4」が搭載されている。特筆すべきはそのリュウズの素晴らしい巻き心地である。リュウズの巻き上げを、所有者との対話の手段として捉え、その完成度を極限まで高めたのである。
巻き上げ操作を楽しめるリュウズ操作
その感触は、指先に伝わる滑らかさと適度な抵抗感を絶妙に備えている。巻き上げ時にパーツが奏でる「チリチリ」という繊細な音は、巻き上げ操作を一層楽しませる重要な要素でもある。それを支えているのが、ムーブメント内部の「こはぜ」と呼ばれる部品。その形状は、グランドセイコーの故郷である岩手県盛岡市の鳥「セキレイ」にインスピレーションを得たものであり、雫石のスタジオ敷地内でも見ることができる。その動きは、まるでセキレイが餌をついばむかのようなのである。
印象を決めるケースデザインは、オリジナルの「45GS」を忠実に再現しており、特筆すべきは、グランドセイコースタイルの真髄である“光と陰”を表現している。歪みのない鏡面仕上げとシャープなエッジが織りなす、ケースの美しさは健在であり、さらに美しく進化している。
ダイヤルデザインも、12時位置の「SEIKO」ロゴ、6時位置の「GS」ロゴと「HI-BEAT」の文字、そして毎時36000振動を示す「36000」など、細部にわたってオリジナルモデルを忠実に再現している。さらに「第二精工舎」のロゴマークも配置され、ブランドの歴史への敬意が示されている。
このモデルは68年のモデルを称えつつ、現代の技術でさらなる高みを目指した傑作といえるだろう。リュウズの巻き心地にこだわったように、所有者のことを考えた、時を刻む道具だけではない腕時計の存在を再認識させてくれるモデルである。