【スタッフインタビュー】いまは毎日時計に囲まれている環境が楽しくて!
ファイアーキッズ 商品部 部長/遠藤元樹

時計好きが集まる場所
横浜、六角橋で1995年に産声を上げたヴィンテージ時計店『ファイアーキッズ』には、多くの時計好きが集まる。そして、スタッフとの時計談義などに話を咲かせながら、店内で楽しい時間を過ごすのだ。その話は時計だけにとどまらず、ファッションやクルマなど他分野の話に及ぶこともある。対話は人間同士のキャッチボール。ファイアーキッズには多様な経歴のスタッフがいるので、そんな空間が成立するのである。
ここに紹介する商品部の部長、遠藤元樹さんも違う業種でキャリアを積んできたひとりである。
「前職は某有名ブランドのブランド統括マネージャーでした。時計ではなくアパレルで、そこに約7年いました。仕入れとかも含めブランディングなどのブランド運営をやっていました。」
大人気ブランドの統括マネジャーということはガッツリ洋服畑の人かと思ったのだが、シューズブランドや家具ブランドなどにも身を置いていたこともあったようだ。でも、その職歴に時計は出てこない。接点はどこにあったのだろうか。
「時計は10代の頃から好きだったんです。18歳の時に初めて購入したのがオメガ『シーマスター』でした。きっかけは藤原ヒロシさんや木村拓哉さんが着けているというトレンドもあったんですが、それ以前に他界した祖父の形見分けで1930年代のオメガ『レクタンギュラー』を受け継いだことも大きかったですね。その時計は止まっていたので、現行の高級時計が欲しいと思ったのを覚えています」
80年生まれの遠藤さんが『シーマスター』を手に入れた時は、まだ新品でも10万円台で購入できた時代。つまり10代の若者でも高級と言われている時計の現行品を買える時代だったのだ。なので、その後もロレックスの『GMTマスター』や『サブマリーナー』をショッピングローンなども利用して数多くの時計を手に入れていく。実はファイアーキッズ顧問の野村との出会いもこの頃で、ヴィンテージ時計の魅力にどんどんハマっていく。
人と同じ時計では満足できない。
「当初は人気のスポーツモデルばかりに興味がありました。学生時代に古着が好きだったこともあって、人と同じものが嫌になっていくんです。本当のヴィンテージが欲しいと思って、時計雑誌を読み漁りました。そこに掲載されていた『ケアーズ』の川瀬社長(現会長)の記事を読んで、森下のお店を訪ねたんです。たまたま川瀬さんが接客してくれたんですが、その時は欲しい時計がなかったので希望のディテールを伝えて、入荷したら電話をもらう約束をしました。その1か月後、川瀬さんから電話が来ました。そして時計を購入するのですが、購入した時計はリクエストしていた時計ではありませんでした」
遠藤さんが欲しかった時計はブラックギョーシェダイヤルのロレックス。でも、目の前にいる彼はロレックスの『オイスターデイトRef. 6294』ブラックダイヤルを着けている。
「“仕入れたのがギョーシェじゃなかったんですよ”と出されたのがこの時計だったんです。Ref.6294です。彫り込みの王冠マーク、経年変化したハーフミラーで赤赤カレンダー。その場で即決しました。それまでは徹底的に調べてから時計を買ってたんですけど、なぜか満足できなかったんです。なのでヴィンテージ時計のプロがお勧めする時計を買いたいと思っていました。当時は購入後に本当にこれで良かったのかという疑問はあったのですが、今では一番のお気に入りで相棒のような存在です。似たディテールの時計に出会わないので、本当に良い時計を紹介してもらえたと20年経っても感じていますし、今では僕にとって特別な時計の一本です。」
このロレックス購入をきっかけにヴィンテージ時計にハマっていったという遠藤さん。その魅力に触れることにより、長く携わってきたブランドビジネスにも影響を及ぼしたようだ。

「長らくブランドビジネスをやっていて、一番のジレンマは新作がどんどん出てくるということでした。新作リリースのサイクルが早いので、自分が良いと思っている商品をずっと提案できないんです。周知のことですがファッション業界は、トレンドの変化が激しくて、新しいものがどんどん出てくる。それはそれで面白い事でもあったんですが、良いモノを愛着を持って長く使いたい自分の価値観とは少し違う価値観でした」
はじめて本当に好きなものを商材に
本物志向の強い遠藤さんに、そこで転機が訪れる。
「43歳という年齢的にも、方向転換をするなら今しかないと思っていました。もちろん服は好きなんですけど、服の好みは、年齢やトレンド、立場によって必然的に変化する。しかし時計だけは20年間ずっと好みが変わらない。時計に携わる仕事をしようと思いました」
そんな遠藤さんは、以前から知っていた野村顧問のいるファイアーキッズに興味を持つ。そして『時計好き仲間を増やす』というパーパスを掲げるファイアーキッズに参画する事を決意する。強い気持ちでヴィンテージ時計の業界に飛び込んだ日々をこう語る。
「本当に時計が好きなんだと再確認しました。見た目だけじゃなく、中の機械とかもすごく好きで、昔からロービートの時計を耳に当てて音を聞いたりとか。リューズを巻く感触が好き、とか。なので、毎日時計に囲まれている環境というのが楽しくて。自分の業務も忘れて店頭で接客対応している事があります」
さらに、時計店で働くメリットも口にする。
「ただ好きだった時と、今との一番の違いは裏蓋を開けて機械を見れる、ということです。これはもう全然違います。仕入れ作業とかやってると、普通は機械を見れないような時計の機械も業務として見れるわけで。つい先日もパテック フィリップを仕入れたんですが、その時はインター(IWC)のCal.89も仕入れていてたんですよ。なので2つの時計の裏蓋を開けて、似てるといわれる機械を並べて見た時は格別に感動しましたよね。そんなことはプライベートでは絶対にできないので」
オタク感満載のコメントだが、時計好きならではのコメントでもある。またファイアーキッズで働く楽しさは他にもあるという。
「私が在籍しているのが、商品部という部署なので時計好きなプロがそばにいて、すぐに質問できる環境ということです。まずはネットで調べるんですけど、ネットで調べても答えが出ないものとか結構あるんです。そういう時にその場で聞いて、答え合わせがすぐにできる。しかも質問したときに“そんなのも知らないの?”って感じにはならないんです。本当にスタッフみんなが時計好きなので、質問の内容以上に話してくれるんですよ」
スタッフが楽しめるということはいいお店である、ということの証明と言える。そこにお客さんが加わって、ファイアーキッズという時計好きのための空間が生まれる。
「趣味を語れる場所って意外と限られてるんですよね。だからお客様も思いっきり時計の話ができるファイアーキッズに来てくださる。当然そこで話が盛り上がりますし、情報交換もできる。お客様同士で会話している事もあったり、そういうのは現行時計やファッションにはないヴィンテージ時計や、ファイアーキッズならではの光景だと思っています」
遠藤さんは40半ばにして、最高の職場を手に入れたようだ。
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