若者よアンティークウォッチを身に着けよ」 『タンク』を愛用するファッション業界のプロが教える裏技 文=鈴木文彦

2023.03.13
Written by 鈴木 文彦

時計好きに「あなたの時計、見せてください」普段は某有名百貨店に勤務しつつ、副業で「la mia」(ラミア)というネクタイを中心とした小物の製造・販売を行うファッショニスタ オカダ レイさん。今回は、オカダ レイさんからの提案です。

一般的じゃないからこそチャンス!

東京、表参道のマンションの一部屋。そこがオカダ レイさんが友人とふたりで営むブランド「la mia」のアトリエだ。室内にあるのは、このブランドのメイン商品、ネクタイとポケットチーフ。現在では、それなりにフォーマルな場面でも着用されることの少なくなった男性用アイテムだが……

「そうなんです。「la mia」はネクタイからスタートしたブランドですが、いま、ネクタイ市場はとても小さいんです。ネクタイ専門店に辿り着く人も少ないですし、そこでも、あるネクタイといえば、ほとんどが紺無地、ペイズリー、小紋柄。手縫い、セッテピエゲなどは、あってもバリエーションはとても少ないんです」

そういう斜陽な業界にわざわざ踏み込んでいくのがオカダ レイ・スタイル。

「いま、ネクタイをして、さらにセッテピエゲを選ぶ人なんて、ファッション好きに決まっています。そういう方には、明るい色、ポップなデザインもニーズがあるんじゃないか?という発想です」

「la mia」はネクタイを、生地からデザインして、「山梨の織元さん」で織ってもらい、縫製は自分たちで行っているという。

裏芯なしのセッテピエゲにも驚くが、セッテピエゲでリバーシブルでしかも両端とも大剣というネクタイもあり、こんな複雑なものどうやって作るんだ……と唖然とさせられる。

さらに、襟なしの装いでもスカーフとネクタイの中間のように首に巻ける、もはや新ジャンルといいたくなる巻きモノもあり「la mia」と出会ったのが運の尽きで、スーツを仕立ててしまった女性もいるのだとか……

la miaのエントリー商品、ポケットチーフとスタッズ付きネクタイを試着させてもらう。ポケットチーフは、時間が経ってもポケットの中に埋没していかず、華やかな色ながらコンサバなファッショにも映える、という。岡田さんが首に巻いているのが「新ジャンル」なネクタイ
「オックスフォードシャツのボタンをいくつかあけて、ダメージデニムにこれとか、いいですよ」

それは男性でも粋だけど、女性がやったらヤバいな……とすっかり口車にのって笑顔になってしまう。さすが本業は誰もが知る百貨店に長年勤務しているだけのことはある……うっかり財布を取り出しそうになって、いかん、時計の話をしに来たんだった!

アンティーク時計のご利益

つまり、オカダ レイさんが言いたいのはそういうことなのだ。

「いま時計って、機能・性能では意味合いがなくなっているじゃないですか。だからこそつけることが色気なんです。みんながしないからこそ、抜きん出やすい」

みんながネクタイをしていないからこそ、ネクタイをしている、ということがトレードマークになる。しかも、それがオシャレなネクタイをしている、ポケットチーフまでつけている、となればなおさらだ。時計もそう。時計をしている、というのが特別なことになりうるというのだ。

今回の取材前に、ファイアーキッズマガジンをあれこれ読んでおいた、というオカダさん

「すごい先輩たちばかりなので、僕から話せることなんてあるんだろうか?と悩みまして、おもいついたんです」

と、企画を考えておいてくれた。その名も

「20代にこそ、アンティークウォッチがオススメ!」

さて、そのココロをうかがってみよう。

「僕の経験上『若手社員腕時計問題』っていうのがあるんです。OLさんのとっての『ブランドバッグ問題』と近い話で、安いっぽいものはイヤだけれど、だからといって諸先輩方より、高級なものもおかしい、というやつです」

ふむふむ?

「僕は特に、百貨店勤務ですから、周囲にステークホルダーが多いんです。社内だけでなく、お店のお客様がすべて、ステークホルダーです。お客様からしたら、せっかくのお買い物で『いいもの』が欲しいのに、ちゃちな時計をつけている人から、買いたくないですよね?」

それはたしかに。しかし、かと言って、店員が妙に高級な時計をしているのにも、違和感がある。

「お客様には目利きな方、良いものを知っていらっしゃる方がたくさんいますから、時計をしていれば気がつきますし、その時計がどういうものなのかもわかるものです」

新入社員時代はまだいい。新人であることが周囲にもわかるし、責任ある現場を任されることもほぼない。また、就職祝いで時計をもらう、などということもあって、そういう時計で「実家の太さが垣間見える」のも微笑ましいといえば微笑ましい。

「問題は、25,6くらいになって、自分で稼いだお金で買い物ができるようになったときなんです」

ここで「時計を買おう」という選択をするのは二重マル。だが『若手社員腕時計問題』が頭をもたげるのだ。予算は、懐事情と社会的事情を考えて、大体、10万円から20万円くらいだろう。

「大抵は、そのくらいの範囲内か、ちょっと背伸びしたくらいでなにか選びます。ただ、僕は、ちょっとその既定路線にのりたくないなぁっていうのがあって、帰省した時に学生時代から通っている、神戸のオシャレな古物屋街に行って1980年代のオメガ『デ・ヴィル』を買ったんです。スクエアのレディースウォッチです。リューズがプッシュ式っていうのは全然知らなくて、時間を合わせるのは一苦労だったんですが、職場につけていったら、すごい、反応がよかった」

社内の調和を乱すことなく、お客さんからも時計の話題を振られるようになった。

「お客様から「いい時計ね」とか「懐かしいわね」と話をふられるようになって、神戸が地元で、そこで買った、という話をすると、お客様が神戸に行ったときの話をしてくれたり、時計がきっかけで話が弾むんです」

オカダさんは、その経験から、アンティークは需要がある、という事実に気づき、百貨店の保証があって安心して買えるアンティーク商品を取り揃えた催事、という企画を発案。大成功を収めた、という実績まで手に入れた。アンティークウォッチは、ご利益万来なのだ。

カルティエ タンクをバンドを変えて楽しむ

そんな思い出のオメガ『デ・ヴィル』は、その後、後輩に譲ったという。現在愛用しているのはカルティエ『タンク』。1960年代のモデルで、ケースの傷が味わい深い一本。

「催事がうまくいったときに、思い出に買ったんです。『タンク』はずっと欲しい時計でした」

小ぶりでシンプルな時計が好きなオカダさんは、ずっと、理想の『タンク』を探していて、ついに巡り合った一本だそうだ。

「とはいっても、手に入れてからは結構ラフに使っちゃってます。スーツスタイルでの仕事でもサマになる時計ですが、シャツにデニムというコーディネートでも格上げしてくれるんです」

この日は、ヴィンテージ感のあるトリコロールのナイロンストラップとともに腕に巻かれていた。ストラップはリバーシブルで、表裏でラインの幅が違う、凝ったものだ。バンドはほかにもいくつか持っていて、付け替えて楽しんでいるとのこと。さすがはネクタイ屋さん。その気持ち、わかります。

タンク以外で欲しい時計は?とたずねると

「オメガの『レイルマスター』の文字盤にサファイアが入っているものに出会ったんですよ。欲しかったんですが、文字盤にちょっと傷があるのがひっかかって、迷っている間に買われてしまったんです。石がはいった文字盤の時計は気になってます。今度見つけたら即買えるように、仕事を頑張りたいです!」

とのこと。ちなみに、夢の一本はカルティエ『クラッシュ』だというから、だいぶ休みなく働かないと、その夢には届かないかもしれない……頑張れ、la mia!

writer

鈴木 文彦

鈴木 文彦

東京都出身。フランス パリ第四大学の博士課程にて、19世紀フランス文学を研究。翻訳家、ライターとしても活動し、帰国後は、編集のほか、食品のマーケティングにも携わる。2017年より、ワインと食のライフスタイル誌『WINE WHAT』を出版するLUFTメディアコミュニケーションの代表取締役。2021年に独立し、現在はビジネス系ライフスタイルメディア『JBpress autograph』の編集長を務める。趣味はワインとパソコンいじり。好きな時計はセイコー ブラックボーイこと『SKX007』。

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