IWCヴィンテージ時計の魅力:モダン&ドレッシーなローマン・インデックスの評価

2023.04.11
Written by 名畑政治

文=名畑政治

シンプルでドレッシーでありながら、どこかモダンさが漂うのがボールドなローマ数字インデックスのモデル。IWCのこのモデルは私の好みにピタリであり、搭載されるCal.402というムーブメントも美しい。ただ、私の手持ちの工具では裏蓋が開けられず、所有する1950年代のキャリバー・リスト(時計の下に敷いたもの)には掲載されていなかった。なぜならCal.402の製造開始は1965年なのである

始まりは大学時代に入手した1本の学童用ウォッチ

 ローマ数字の時計が好きである。といっても繊細な書体を用いたクラシカルなモデルではなく、ガッツリ骨太の書体のモダンなモデルが好みである。

 だから同じローマ数字インデックスであっても、書体の違いで雰囲気は大きく異なる。すでに述べたように繊細な書体ならクラシカル、ボールド(太い)な書体であれば俄然、モダンな雰囲気となり、どこかアール・デコ(1920~30年代に流行したデザイン様式)の匂いも感じさせるのだ。

 そんなモダンなローマ数字に惹かれ、私の手元にはいくつかの時計が集まってきた。最初に入手したのは1980年。大学入学の際、地元の時計屋でシチズンの学童用モデルnicotのコロンとしたローマ数字モデルを購入した。

 その後、2000年頃にスイス取材の際、ラ・ショー・ド・フォン国際時計博物館の真ん前にあるアイゼンネガーさんのアンティーク時計店で、デッドストックのJUVENIA(ジュベニア)を見つけて購入。これは薄型の名機として知られるPeseux(プゾー)のCal.7001を搭載したモデル。

 実は購入当時、ムーブメントを見たくてホテルに帰って自分で蓋を開けたところ、どうやっても閉まらなくなり、数日後に取材で訪ねた独立時計師スヴェン・アンデルセン師匠に頼んで蓋を締めてもらったという後日談がある。まぁ、どうでもいい話だが。

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ケース径は34.5mm、厚さ9.3mmというドレッシーなIWCのローマ数字モデル。現代の基準ではメンズ・モデルとしては径が小さいが、当時としては標準的なサイズ。製造はおそらく1970年前後。ラグはなく、メッシュのミラネーゼ・ブレスレットが直接ケースにロウ付けされている。これも当時、大流行したスタイルだ

名著「Cross Eye」に刺激されIWCと出会う

 こんな私のローマ数字好きを決定づけたのが、1980年に発行された『Cross Eye』というムックである。

 これは服飾評論家のくろす・としゆき先生によるメンズ・ファッションにまつわるエッセイ集。ここにくろす先生の愛用するローマ数字時計がふたつ紹介されているのだ。

1980年に発行されたくろす・としゆき先生の『Cross Eye』(婦人画報社)。表紙のモデルはプロゴルファーの入江勉さん。当時、入江さんは、くろす先生がアドバイザーをしていたメンズ・ブランド「ダンマスターズ」のモデルとしても活躍した。このブランドも好きだったけど、阪神淡路大震災で本社が被災し、やむなく活動停止したと聞いた

 この本は1980年の発行時に購入したが、これが先かnicotの腕時計を手に入れたのが先か、今では思い出せない。しかし、いずれにせよ、「メンズ・ファッションの大先生が自分と同じ趣味だ!」という事実は当時の私に大きな自信をもたらしたことは間違いない。

 でも、普通はローマ数のモデルを二個も手に入れたら、それで満足するのだろうが、なかなかそうはいかないのが私という人間。その後もずっとローマ数字モデルを探し続けていたが、数年前、インターネットで見つけて購入したのが、1960年代末から70年頃に作られたスイスのIWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)のローマ数字モデルである。

 しかしまぁ、ラウンドの薄型ケースと固定されたミラネーゼ・ブレスレットなど、驚くほどJUVENIAにそっくり。違うのはJUVENIAは2針でインデックスの内側にレイルロード・トラックがあるが、IWCはセンターセコンドの3針で分目盛りがインデックスの外側に印字されていることぐらいだ。

 ただし、ムーブメントが違う。IWCは自社製造によるCal.402を搭載。このキャリバーは手巻きの名機として知られるCal.89とほぼ同じ構成・デザインが採用された非常に美しい機械だが、直径23.4mm、厚さ3.15mmと、やや小振りで薄くなっており(Cal.89は直径26.5mm、厚さ4.25mm)、主に薄型のドレス・モデルに採用されていたようだ。

『Cross Eye』で紹介された先生の愛用時計。右の懐中時計はユニバーサル・ジュネーブ、左の腕時計はエベルであるが、どれも私の持っているIWCとそっくりの太いローマ数字インデックスが採用されている。いかし、本当に流行のスタイルだったんだね

ラグ付きも欲しい! ああ、世に物欲のタネは尽きまじ

 だからこその固定式ブレスレットであり、この方式は1960年代に大流行したもの。ただ、通常のラグを持つスタイルと違い、気軽にストラップやブレスレットを交換して楽しむということは不可能なのがちょっと残念ではある。

 実は1960年代から70年代の初頭にかけて、IWCではほとんど同じローマ数字インデックスのモデルをケース違い、ブレスレット違いで多数、製造しており、中には通常のラグを持つモデルも存在するのだ。

 できれば、もうひとつ、そんなラグ付きモデルを入手し、好みのストラップを装着して楽しみたいと思っているのだが、価格とコンディションに納得するモデルがなかなか現れないのである。

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名畑政治

名畑政治

1959年、東京生まれ。'80年代半ばからフリーライターとして活動を開始。'90年代に入り、時計、カメラ、ファッションなどのジャンルで男性誌等で取材・執筆。'94年から毎年、スイス時計フェア取材を継続。現在は時計専門ウェブマガジン『Gressive』編集長を務めている。

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