【スタッフインタビュー】いまは毎日時計に囲まれている環境が楽しくて!

2024.11.30
Written by 編集部

ファイアーキッズ 商品部 部長/遠藤元樹

時計好きが集まる場所

 横浜、六角橋で産声を上げたヴィンテージ時計店『ファイアーキッズ』には、多くの時計好きが集まる。そして、スタッフとの時計談義などに話を咲かせながら、店内で楽しい時間を過ごすのだ。その話は時計だけにとどまらず、ファッションやクルマなど他分野の話に及ぶこともある。対話は人間同士のキャッチボール。ファイアーキッズには多様な経歴のスタッフがいるので、そんな空間が成立するのである。

 ここに紹介する商品部の部長、遠藤元樹さんも違う業種でキャリアを積んできたひとりである。

「前職は某有名ブランドのブランドマネージャーでした。時計ではなく服飾で、そこに6年ぐらいいました。仕入れとかも含めブランディングをやらせてもらっていました」

 大人気ブランドのマネジャーということはガッツリ洋服畑の人かと思ったのだが、ティンバーランドやスウェーデンの家具ブランドなどにも身を置いていたこともあったようだ。でも、その職歴に時計は出てこない。接点はどこにあったのだろうか。

「時計は10代の頃から好きだったんです。18歳の時に初めて購入したのがオメガ『シーマスター』でした。きっかけは藤原ヒロシさんや木村拓哉さんが着けているというトレンドもあったんですが、それ以前に他界した祖父の形見分けで1930年代のオメガ『レクタンギュラー』をもらっていたことも大きかったですね。その時計は止まっていたので、現行の高級時計が欲しいと思ったのを覚えています」

 80年生まれの遠藤さんが『シーマスター』を手に入れた時代は、まだ新品でも10万円台で購入できた。つまり10代の若者でも高級といわれている時計を現行品で買える時代だったのだ。なので、その後もロレックスの『GMTマスター』や『サブマリーナー』をショッピングローンで購入していた。実はファイアーキッズ顧問の野村との出会いもこの頃で、どんどん魅力にハマっていく。

人と同じ時計では満足できない

「当初は人気のスポーツモデルばかり見ていました。学生時代に古着を好きだったこともあって、人と同じものが嫌になっていくんです。本当のヴィンテージが欲しいなと思って、時計雑誌を読み漁りました。そこに出ていた『ケアーズ』の川瀬社長の記事を読んで、森下のお店を訪ねたんです。たまたま川瀬さんが応対してくれたんですが、その時は欲しいモデルがありませんでした。希望のテイストを伝えて、入荷したら電話をもらう約束をしました。その1か月後、川瀬さん本人から電話が来ました。しかし購入したのは本当に欲しかったモデルではありませんでした」

 遠藤さんが欲しかったモデルは黒いギョーシェダイヤルのロレックス。それはギョーシェダイヤルではなかった。でも、目の前にいる彼はロレックスの『オイスターデイト 6294』を着けている。

「“仕入れたのがギョーシェじゃなかったんですよ”と出されたのがこの時計だったんですよ。6294です。彫り込みの王冠マーク、ハーフミラーで赤赤カレンダー。即決しました。それまでは徹底的に調べて時計を買ってたんですけど、満足できなかったんです。なので本当のプロがお勧めするものを買いたいと思っていました。当時は本当にこれで良かったのかという疑問はあったのですが、今では一番のお気に入りで相棒のような存在です。似たディテールの時計に出会わないので、本当に良い時計を紹介してもらえたと20年経っても感じています」

 このロレックス購入をきっかけにヴィンテージウォッチにハマっていったという遠藤さん。その魅力に触れることにより、長く携わってきたブランドビジネスにも影響を及ぼしたようだ。

「長らくブランドビジネスをやっていて、一番のジレンマは新作がどんどん出てくるということでした。新作リリースのサイクルが早いので、自分が良いと思っている商品をずっと提案できないんです。周知のことですが、ファッション業界は、トレンドの変化が激しくて、新しいものがどんどん出てくる。それはそれで面白い面でもあったんですが、良いモノを愛着を持って長く使いたい自分の価値観とは違う価値観でした」

はじめて本当に好きなものを職業に

 本物志向の強い遠藤さんは、そこで転職の決断をした。

「44歳という年齢的にも、方向転換をするなら今しかないと思いまして。もちろん服は好きなんですけど、ファッションの好みは、年齢やトレンド、立場によって必然的に変化してきましたが、時計だけは、20年間ずっと好みが変わらない。そういう商材を仕事に選ぶのは今回が初めてなんです」

 そんな遠藤さんは入社してまだ1か月半。強い気持ちでヴィンテージ時計業界に移っての日々をこう語る。

「本当に時計が好きなんだと再確認しました。見た目だけじゃなく、ムーブメントとかもすごく好きで、昔からロービートの時計を耳に当てて音を聞いたりとか。リューズを巻く感触が好き、とか。なので、毎日時計に囲まれている環境というのが楽しくて。ついつい接客も長くなってしまう事があります」

 さらに、時計店で働くメリットも口にする。

「ただ好きだった時と、いまとの一番の違いは、裏蓋を開けて見れる、ということです。これはもう全然違います。仕入れの商品化作業とかやってると、普段絶対に中を見れないようなパテック フィリップの仕入れがあって、たまたまそのときはパテックとインター(IWC)の89があったんですよ。なので2つの時計の裏蓋を開けて、似てるといわれるムーブメントを並べて比べてみた時は感動しましたよね。それはプライベートでは絶対にできないことです」

 オタク感満載のコメントだが、ファイアーキッズで働く楽しさは他にもあるという。

「時計好きなプロがそばにいて、すぐに質問できる環境ということです。ネット社会なので、僕もネットでまず調べたりするんです。でもネットで調べても答えが出ないものとか結構あるんですけど、そういうことをその場で聞いて、答え合わせがすぐにできる。しかも、質問したときに“そんなのも知らないの?”って感じにはならないんです。本当にみんな時計好きなので、お腹いっぱいですってくらい話してくれるんですよ」

 スタッフが楽しめるということはいいお店である、ということの証明である。そこにお客さんが加わって、ファイアーキッズという空間が生まれる。

「趣味を語れる場所って限られてるんですよね。お客さまも話す場所がないからお店に来てくださる。そこで時計の話ができると盛り上がりますし、自分も教えていただいて勉強になります。そういうのは現行時計やファッションにはない感覚だと思っています」

 遠藤さんは40半ばにして、最高の職場を手に入れたようだ。

 

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